日本の英語発信がなぜ重要か JAPAN Forwardの軌跡から その3 日本が中国を論破した
古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・米「TIME」誌の見出し「日本の選択──長年の平和主義を捨て、自国を真の軍事大国にすることを望んでいる」。
・外務省が抗議、「岸田総理大臣は平和主義だった日本に国際舞台でより積極的な役割を持たせようとしている」に変更。
・日本を不当に歪める海外報道には、英語による抗議と敏速な訂正要求が重要。
★「岸田は軍事大国を目指している」
古森義久 「日本を不当にゆがめる海外報道には、本来であれば外務省が反論しなければならない。ところが、外務省は長年にわたり事なかれ主義を貫いた。中国や韓国、アメリカ左派が英字メディアを舞台に『従軍慰安婦』、『南京大虐殺』のプロパガンダを喧伝しても、日本は一部の保守派が反論するだけ。外務省は沈黙を守っていた。
とくに第二次世界大戦での日本の軍事行動の歴史については外国からどんな不正確、不条理な非難をぶつけられても、一切、反論はしない、という態度が長年、続いたのです。黙って耐えていれば、時間が解決するとでも思っていたのでしょう。ところが、状況は悪化するばかり。歴史問題を外交カードに利用され、日本の国益と国民の名誉を損ね続けました」
アリエル・ブゼット 「その基本姿勢を変えたのが安倍晋三氏でした。事なかれ主義が招いた外交的敗北の反省から、安倍政権は近隣諸国や海外メディアの誤った主張に反論し始めました」
古森 「成功例として、2015年8月に中国が展開した『反日キャンペーン』に対する反論が挙げられる。中国は『戦勝70年記念』として、日本を過去の戦争に結びつけて罵倒する国際政治宣伝を行いました。ワシントン、ニューヨーク、ロンドン。世界各都市に駐在する中国大使が、地元の有力新聞に『安倍政権は邪悪な軍国主義』 、『日本は侵略をたくらんでいる』、『核兵器をつくろうとしている』などと主張する記事を投稿したのです」
ブゼット 「それまでの日本なら、無視していたはずです。どう対応したのでしょうか」
▲写真:アリエル・ブゼット記者(執筆者提供)
古森 「事なかれ主義の慣例を破り、在米英の日本大使が中国側の主張を論破する記事をそれぞれ地元有力紙に寄稿したのです。その結果、英誌『エコノミスト』が『中国は日本を不当に悪魔化している』という特集記事を掲載して、日本側に軍配を上げました」
★日本は軍事大国になるのか
ブゼット 「先日、岸田総理が米誌『TIME』の表紙を飾りました。表紙には『日本の選択──長年の平和主義を捨て、自国を真の軍事大国にすることを望んでいる』という見出しが躍りました」
古森 「朝日新聞がつけそうな悪意ある見出しですね(笑)。防衛費GDP比2%を目標に掲げただけで“軍事大国”なら、中国はどうなるのか。日本は“普通の国”を目指しているだけです」
ブゼット 「岸田総理はインタビューで、「中国、ロシア、北朝鮮に立ち向かうために民主主義国が団結しなければならない」「世界三位の経済大国に見合った軍事的影響力を持つ」などと発言しています」
古森 「記事を読まずに、タイトルだけ見て騙される人もいるでしょう」
ブゼット 「表題と内容に乖離があるとして、外務省は抗議しました。その結果、『TIME』はウェブ版の見出しを変更。『岸田総理大臣は平和主義だった日本を軍事大国に変える』から『岸田総理大臣は平和主義だった日本に国際舞台でより積極的な役割を持たせようとしている』となりました。
非常に大きな修正、訂正でした。もし昔のようになにも抗議しなかったとすれば、まったく異なる印象の日本とか岸田首相が描かれてしまったことになります。他の国の首相だった場合、このような間違いは起きなかったのかもしれませんね。いずれにせよ、ミスをただす。しかも相手が理解できる英語で抗議する。敏速に訂正を求める。こうした対応がいかに重要かを明示した実例です」
古森 「安倍政権が成立させた平和安全法制にも、朝日新聞などの左傾メディアからは『軍靴の音が聞こえる』,『戦前の軍事国家に回帰』といった批判が聞かれました。『徴兵制が始まる』とか『また侵略を始める』などという、おどろおどろした反応もありました。
外国メディアによるゆがめ報道、偏向報道は多くの場合、日本側での極端な誤報、虚報の繰り返し、ということもあるわけです。しかし『軍国主義』、『戦争美化』などというのは首相の靖國参拝に際しても、よく使われるフレーズです。アリエルさんは靖國問題を取材していましたね。
**この記事は月刊雑誌WILLの2023年8月号掲載の対談の転載です。
トップ写真:記者会見に臨む岸田首相(2023年6月21日 東京都千代田区首相官邸)出典: Photo by Takashi Aoyama/Getty Images
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。