トランプ陣営の対日政策文書とは その3 日本と台湾の絆をアメリカが守る
古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・日本と台湾の領土保全の共通性は太平洋地域でのアメリカの国益にとっても本質的に重要。
・故・安倍晋三氏は日本を、他の独立国家、主権国家と同じにするという構想を持っていた。
・岸田文雄首相らが安倍氏の遺産を確実に継続していくということとなった。
アメリカ第一政策研究所(AFPI)の対日政策文書の全文紹介を続ける。
★ ★ ★ ★ ★
そのうえに日本人と台湾人は文化的、かつ近隣性の真の絆によって結ばれている。2021年の日本側の世論調査では日本国民の76%が台湾への親近感を抱き、65%が台湾を信頼する、という結果が出た。2022年の注目を集めた日本の防衛白書では台湾は「日本にとって非常に重要なパートナーであり、自由と民主主義のような同じ基本的価値観を共有している」と記されていた。
2022年7月には日本側の防衛大臣経験者2人を含む著名な国会議員たちの代表団が台湾を訪れ、総統と面会し、国家安全保障について協議した。この訪問団は台湾の初の民主的選挙で選出された元李登輝総統の墓をも訪れ、改めて弔意を表した。李登輝氏は日本語を流暢に話し、日本への親近の態度を保った政治指導者として知られている。
実際のところ、日本の台湾統治は台湾側でも一般に肯定的な体験として受け取られている。この実態は第二次世界大戦までの数十年間、アジア太平洋地域では多くの国や民族が日本の軍事的政権によって抑圧されたことにくらべれば、異色だった。台湾の学校では日本語が1895年から1945年まで「日本化」の一環として義務教育となっていた。その結果、台湾住民の多くにとって、日本語が母国語ともいえる第一の言語となっていた。
日本と台湾の領土保全の共通性は太平洋地域でのアメリカの国益にとっても本質的に重要である。日本列島と台湾は中国側が唱える、いわゆる第一列島線の北部分を形成する。アメリカ側にとっては、この第一列島線での防衛は中国の海軍と空軍が東シナ海を越えて、米軍に挑戦する能力を効果的に制限することができる。この線の壁をどの海域でも中国側が破ることを許すと、日本の防衛は抑えつけられ、孤立して外部からの支援が受けられなくなる。
第二列島線はそのカバーする地域は第一列島線より人口は希薄だが、グアム島や北マリアナ諸島のようなアメリカの戦略的かつ弱点をも抱えた領土を含み、中国軍がもしこの領域を制圧すれば、アメリカ本土への軍事脅威がそれだけ近くなる。
日本は米軍の空母とその機動部隊の半永久的な母港化や、枢要な空軍基地の使用を含む合計5万人以上のアメリカ軍部隊の駐留を受け入れている。その日本がもし中立化というような骨抜き状態となれば、アメリカの太平洋での防衛線をハワイ、アラスカ、カリフォルニアにまで押し戻すことになり、アメリカにとっての戦略的な大惨事となってしまう。
★安倍時代の国家の再生と成熟
日本で最長の首相任期を務めた故・安倍晋三氏は母国を第二次世界大戦の敗北の負の影響下から引き出して、持ち上げ、アジアにとって有益な近代的、民主的、そして責任を有する勢力としての正当な地位に位置づけることにその熱望に満ちた生涯を捧げたといえる。全世界的にも日本を正当な位置におこうとする努力だった。
安倍氏は日本を「普通の国」にするという構想を持っていた。つまり日本をアメリカの従属的なパートナーではなく、消極平和主義の憲法の制約に阻まれた半国家でもなく、他の独立国家、主権国家と同じにするという構想だった。この方向へ向かっての少しずつの進化は安倍氏の二期目の首相在任、つまり2012年から2020年の期間の前から起きていたが、安倍首相こそがこの新しい日本の化身であり、象徴の人物だった。
安倍氏の暗殺は同氏が活気づけてきたこの日本の動きの殉教者に同氏自身をしてしまったのだった。
安倍氏は首相在任中は前例のない諸政策を施行した。首相退任後も前例のない表現による大胆で率直な言明を続け、自民党の前進の軌道の形成に寄与した。その結果、後任の岸田文雄首相らが安倍氏の遺産を確実に継続していくということとなった。
トップ写真:習近平中国国家主席と握手する安倍晋三元首相(2016年9月4日 中国・杭州で開催されたG20サミットにて)出典:Lintao Zhang/Getty Images
あわせて読みたい
この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。