日本の英語発信がなぜ重要か JAPAN Forwardの軌跡から その2 アメリカのメディアの偏向を正す
古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・日本の新聞は、海外リベラルメディアの報道をもとに記事を書く傾向。
・JFは海外メディアの“日本叩き”に反論すべく立ち上がった。
・従来の英語メディアとは一線を画した。
古森義久 「日本のアメリカ報道にもいまブゼットさんが指摘したことと同じことがいえます。日本の新聞はニューヨークタイムズやワシントンポスト、CNNといったリベラルメディアの報道をもとに記事を書いてしまう。その結果、日本でも反トランプの論調一色。偏った情報源を頼りにしても、真実は見えてきません。この点は日本からの発信とは性格が異なりますが、英語で拡散している情報の精査や吟味という点では同じです」
★日本の声を世界に伝える
アリエル・ブゼット 「そんななか、『日本の声を世界に伝える』というスローガンを掲げて立ち上がったのがニュースオピニオンサイト『JAPAN Forward(以下、JF)』でした。日本のニュースや意見を日々、海外に向けて発信しています。産経新聞の支援を受けて2017年6月に創設されたJFは、そろそろ7年目に突入します」
古森 「JF編集部は内藤泰朗編集長(産経新聞論説委員)を中心に、アメリカ、イギリス、オーストラリア……国際色豊かなジャーナリストや学者から構成されています。なかでも、最も多くの記事を書いているのがイタリア出身のアリエル・ブゼット記者。彼女はJFの若きエース記者です」
ブゼット 「JF特別顧問の古森さんは、編集部にアドバイスしてくれます」
古森 「アリエルさんはなぜ、JFの記者になろうと思ったのですか」
ブゼット 「私はイタリア人の父、日本人の母を持つハーフです。自分のルーツがある日本に興味がありました。いつか日本に住んで、日本を知りたいと思っていたので、イギリスの大学を卒業後は日本で働くことにした。記者の仕事にも憧れていたので、JFはこれ以上ない職場です」
古森 「アリエルさんのお父さんはイタリア大手紙の記者で、東京支局長を務めたこともある。お母さんもウォールストリートジャーナルやCNNの日本支局に勤務していた。ジャーナリズム一家に生まれたアリエルさんは、記者になるべくしてなった(笑)」
ブゼット 「小さな頃から、記者の視点でニュースを見ていたような気がする(笑)。漠然とですが、欧州メディアは日本の素晴らしい姿を十分に伝えていないと感じていました。日本といえば、アニメや漫画ばかりが注目される。でも、日本にはサブカルチャー以外にも特筆すべき文化がたくさんある」
▲写真 アリエル・ブゼット記者(執筆者提供)
★成功の要因はネット
古森 「JFの発起人はフジテレビ出身の産経新聞社会長を務めた太田英昭さんです。太田さんも海外メディアによる“日本叩き”、“日本ゆがめ”に反論すべきだと考えていた。当初はフジサンケイグループ内でも『今さら英字メディアに参入しても成功しないだろう』という声が大きかった。
ところが、フタを開けて見ると大方の予想に反して成功を収めています。日本に拠点を置く英字メディアのうち、アクセス数はNHKに次いで二位。朝日新聞や共同通信の英文メディアやジャパンタイムズを追い抜きました」
ブゼット 「媒体をネットに絞ったことが成功の要因ではないか。NHKや朝日新聞は、あくまでテレビや紙媒体が本業。対してJFの主戦場はネットなので、新聞やテレビよりもタイムリーな情報を流すことができる」
古森 「日本国内で起きた事件についていち早く発信すると、AP通信や海外のシンクタンクがJFの記事を引用してくれます。それで徐々に認知されるようになりました。タイムリーであることが重要なんです。
と同時に後で説明するように記事の内容の基本的スタンスという点も重要でした。日本側の多数派の意見や主張を反映するという点にも重点をおいたのです。ここは日本の従来の他の英語メディアとは一線を画したといえます。当然ながら日本は民主主義国家ですから政府の政策は国民多数派の意見を代弁する場合がほとんどです。その日本政府の政策が客観的に外国に向けて英語で伝えられることが少ない。むしろその日本政府の政策に対する日本国内の少数派の意見を拡大して海外で報じられるという事例が多かったのです。JFはその点を是正したともいえます」
ブゼット 「欧米だけでなく、インドや東南アジアでもJFの記事は読まれています。読者層は二十代から三十代の若者が多い。彼らは新聞やテレビではなく、ネットで情報を収集する世代です。アジアの若者は日本に憧れを抱いています。アジアのリーダーである日本の動向が気になるのでしょう。コロナのほぼ終焉後に日本で急増した諸外国からのインバウンドの人たちもJFが惹きつける手段になった層がかなりあるだろうと、ひそかに自負もしています」
**この記事は月刊雑誌WILLの2023年8月号掲載の対談の転載です。
トップ写真:ニューヨーク・タイムズビル(イメージ)出典:Gary Hershorn/Getty Images
あわせて読みたい
この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。