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.国際  投稿日:2023/7/11

日本の英語発信がなぜ重要か JAPAN Forwardの軌跡から その5(最終回)慰安婦問題を正した


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・JFは『Whaling Today』という特設サイトで捕鯨文化の解説を発信

・日本メディアより海外メディアが、日本のニュースを正確に報じる機会が増えた。

・JFの実績で顕著なのはいわゆる慰安婦問題での継続した報道。

 

アリエル・ブゼット 「捕鯨をめぐる問題も、歴史と文化を知らなければ語れません。海外メディアは捕鯨問題を『クジラを殺すのは残酷』という動物愛護の観点からしか論じるだけで、当事者の声を伝えません。

私はイルカ漁の伝統が残る和歌山県太地町を取材しましたが、現地でしか知れないことも多かった。クジラの部位を余すところなく利用してきた歴史、国際的なルールを守りながら捕鯨を行っていること、イルカ漁を生業とする漁師たちの思い、住民たちの食生活の実態・・・こういう側面は日本側からの対外発信での説明は長年、ほとんどなかったのです」

古森 「捕鯨を肯定すると、動物愛護団体や活動家にサイバー攻撃を仕掛けられるリスクがある。でも、批判を恐れていては何も発信できない。JFは『Whaling Today』という特設サイトをつくり、捕鯨文化の解説を積極的に発信しています。

★アメリカ大使の「腐った魚」事件

古森 「LGBTやジェンダーをめぐる日本批判も、歴史と文化を無視しています。エマニュエル米駐日大使が、LGBTへの差別禁止や同性婚を法制化しろと圧力をかけている。でも、歴史的に同性愛者が迫害されてきた欧米とは違い、日本は同性愛に寛容だった。禁止すべき差別が存在しないから、法律がないだけの話です」

ブゼット 「ラーム・エマニュエル氏はどんな人物なのですか」

古森 彼は賢くて弁舌が鋭い。その一方で、キツイ性格も有名です。なかでも『腐った魚』事件はワシントンでは語り草になってきました。

1988年、民主党の選挙活動家だったエマニュエル氏は、下院議員の資金集めやキャンペーンに没頭していました。そのとき、特定の民主党候補への支援方法をめぐり、同僚のアラン・セクレスト氏と衝突。世論調査を得意とするセクレスト氏が民主党候補の支持率を調査したところ、当初の予想より低かった。

その数字を受けて、エマニュエル氏はキャンペーンを縮小しました。その結果、同候補は落選します。ところが後に、同候補を支持する人々は調査より多かったことが判明したのです」

ブゼット 「キャンペーンを続けていれば、当選の可能性が高かったわけですね」

古森 「その仕事ぶりに激怒したエマニュエル氏は、セクレスト氏を怒鳴りつけ、最終的にきれいに包装した箱をプレゼントのようにして郵送しました。包装された箱の中には腐敗したサバが入っていて、『あなたとの仕事は酷いものだった。ラーム』という名前入りのカードも同封されていた。まるでマフィアのような、どぎつい嫌がらせでした。このエピソードは、エマニュエル氏自身が喧伝しています。ワシントンでも有名な話です」

ブゼット 「キツイ性格なんですね。敵が多そう……」

古森 「今回のLGBTをめぐる発言でも、自己主張の強さが露呈しました。自分のことをマッカーサーだと思っているんじゃないか、と感じるほどです」

★変わりつつある日本観

古森 「海外メディアは『ジェンダーギャップ指数』なる数字を持ち出して、日本は男尊女卑社会だと非難する。女性の立場から、日本は女性が暮らしにくい社会だと思いますか」

ブゼット 「欧米に比べて、女性政治家の割合が少ないのは事実です。でも、女性が政治家になることを誰も否定していない。ネガティブな情報ばかりを描くのではなく、女性がリーダーシップの役割を果たし、成功を収めている事例にも注目すべきです。欧州の政界にも、コネやセクハラの問題はあります」

古森 「女性が育児休暇をとりにくいから、日本は少子化が進んでいるという指摘もあります」

▲写真:アリエル・ブゼット記者

執筆者提供

ブゼット 「欧州でも出生率は下がっています。イタリアの出生率は1・24(2020年)でした。1・34の日本よりも低い。『日本が悪い』という結論ありきのような……」

古森 「一部の海外メディアは日本に対する偏見を持っていますが、最近は逆転現象が起きている。日本のメディアより海外メディアのほうが、日本のニュースを正確に報じる機会が増えました。

 

 例えば、安倍元総理の暗殺をめぐる報道です。安倍元総理の訃報を受け、アメリカのメディアは安倍政権の外交政策や経済政策を高く評価しました。それと同時に、治安がいいはずの日本で政治家が暗殺されたことに驚いていた。対して、日本のメディアが連日のように報じたのは統一教会問題です。安倍元総理の殺害を正当化するような論調すらみられました」

ブゼット 「安倍元総理の国葬に際して、朝日新聞など日本のメディアは反対派のデモを大々的に取り上げました。その一方で、一般献花に何万人もの支持者が訪れたことは報じたがらない」

古森 「自分たちが批判してきた安倍元総理が、海外から絶賛されている。それが悔しいんでしょう。安倍元総理としても、朝日新聞には評価されたくないはずです(笑)。

しかしJFの実績として自画自賛の愚を恐れずにあえて述べれば、顕著なのはいわゆる慰安婦の問題での継続した報道だといえます。

中韓両国やアメリカの左翼学者たちの間で長年、『日本軍の強制連行による性的奴隷20万の女性の被害者』とされてきた虚構をJFは日本だけでなく、アメリカや韓国の学者たちによる正しい調査結果を継続して掲載してきました。

その結果、慰安婦というのは日本の軍や政府が強制連行はしておらず、基本的に女性たち自身の希望による商業的な売春活動だったという実態が証明されました。この点は日本国、日本国民の名誉という観点からも意義のある作業だったと思います」

(終わり。その1その2その3その4。全5回)

*この記事は月刊雑誌WILLの2023年8月号掲載の対談の転載です。

トップ写真:元「慰安婦」のイ・ヨンスさんと慰安婦像(本文と直接関係はありません)

出典:Chung Sung-Jun/Getty images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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