日本の英語発信がなぜ重要か JAPAN Forwardの軌跡から その1 日本の実態はゆがめられてきた
古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・日本が国際社会に英語で発信する必要性高まる。
・米欧、中韓政府からの対日本フェイクニュースは数え切れない。
・日本政府は長年反論してこなかった。
日本が国際社会で自国について明確な発信をすることの必要性は日に日に大きくなってきた。その発信はしかも日本が苦手としてきた英語でなければ意味がない。この作業を実際にどのように進めるべきか。ここに一つのケーススタディーとも呼べる実例がある。私(古森義久)がここ7年ほど関与してきた日本発の英語メディアJAPAN Forwardの歩みについて報告したい。
総合雑誌WILLの最新号、2023年8月号に載った対談の転載による報告である。
「岸田文雄首相は日本を真の軍事大国にすることを決めた」―アメリカのタイム誌の2023年5月の虚報だった。米欧のメディア、あるいは中国や韓国の政府当局による日本についてのフェイクニュースは数えきれない。「日本はいま中国への再侵略を計画している」などという中国の最近の言明もあった。
「日本軍は若い女性を強制連行し20万人の性的奴隷を集めて、虐待した」、「日本軍は南京で35万人の中国民間人を殺した」―歴史にからむ虚構の主張も多かった。次元の低いところでは「日本人はセックスをしないから出生率が低い」、「日本の女子中高生のうち50万ほどが援助交際をしている」などという虚偽報道もあった。
日本政府はこの種の濡れ衣のフェイクにも長年、一切、反論しなかった。日本の民間も同様だった。だがこのマゾ的な沈黙も安倍晋三政権の後半からかなり変わってきた。
そして民間では6年前、日本の現実、真実を英文で海外に発信し、フェイクがあればただちに反論するという使命を掲げたJAPAN Forwardという新ネットメディアが誕生した。以来この「日本よ、前へ」という意味の英語メディアは驚異的な成長を遂げてきた。いまでは日本発のニュース・評論の中枢国際媒体としてアメリカ、アジア、欧州などで多数の読者を獲得した。
ではこのJAPAN Forwardはどんな報道活動によって、その国際的な認知を確立したのか。発足当時からの枢要メンバーの同媒体の特別顧問、古森義久氏と実際の報道や論評に日夜、かかわる専属記者のアリエル・ブゼット氏に対談の形でその実態を語ってもらった。(WILL編集部)
▲写真 アリエル・ブゼット記者(執筆者提供)
★英字メディアを押さえる
古森義久 「私は長年、国際報道の世界に身を置いてきました。そこで痛感したのは、日本という国家、日本人に対する誤解に満ち溢れていること。海外メディアは日本について、いまだに間違った情報を流布しています。その典型が歴史問題をめぐる報道です。
『日本軍は強制連行したアジアの女性たちを性奴隷にした。にもかかわらず、謝罪も賠償もロクにしていない』
『日本は南京で35万人以上の市民を虐殺したのに反省していない』
無知や偏見が誤報を招くこともあれば、日本に悪意を持った人たちが意図的にする場合もある。いずれにせよ、日本の政府やメディアの態度が大きな原因であることは間違いない。
海外メディアが日本について報道するとき、NHKや朝日新聞あるいは共同通信の英文記事を情報源にすることが多い。日本語の記事の引用もある。日本のメディアが流す間違った情報が、そのまま世界中に拡散されてしまうのです。海外メディアが発信する誤った情報のもとをたどれば、その原因が日本のメディアにあることが多い。政府がその種の誤った情報源だったという場合もあります。
アリエル・ブゼット 「フランス語メディアも、英語メディアから日本の情報を得ます。日本のメディアが発信する英文記事が偏向している場合、あるいは間違っている場合、真実が歪められたまま世界に拡散されてしまう。だから日本からの英文発信は二重の意味で重要なのです。日本が自らについて英語で説明することの重要性、さらには英語で流れている誤報、虚報を当事者の日本からの正しい発信で訂正するという重要性だといえます。
私はこの5月、広島でのG7サミットを取材してみて、改めて日本側からの発表、発信、とくに英語での直接のアピールの決定的な重要性を痛感しました。日本の言動への各国の注目の度合いが非常に高いのです。その日本の言動は全世界でリアルタイムで一気に伝わる英語での表現であれば、その日本からのメッセージは瞬発力を発揮します」
(その2につづく)
**この記事は月刊雑誌WILLの2023年8月号掲載の対談の転載です。
トップ写真:小池百合子都知事とアリエル・ブゼット記者(執筆者提供)
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。