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.国際  投稿日:2023/7/12

NATO首脳会議、スウェーデンとウクライナの加盟は?


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2023#28

2023年7月10-16日

 

【まとめ】

・NATO首脳会議、ポイントはスウェーデンとウクライナのNATO加盟問題。

・フィンランドのNATO加盟のタイミングで、バイデン大統領、フィンランド訪問。

・「黒海穀物イニシャティブ」が失効、露が再び揺さぶりかける。

 

今週のハイライトはリトアニアで開かれるNATO首脳会議だろう。今週何か書けるかなと思って少し待ってみたが、未だ結果は見えてこない。されば、NATOサミットの総括は来週書くことにし、まずは、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きから始めよう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを勝手に選んでご紹介している。欧米の専門家たちの今週の関心は以下のとおりだ。

7月11日火曜日 イスラエル議会、「司法改革」法案に関する採決

【クネセット(イスラエルの議会)が、内外で反対の根強い「司法改革」に関する法案を改めて採決する。従来の裁判所の権限を制限する内容で、ネタニヤフ政権が1月に同法案を発表して以来、国内では史上最大規模の抗議運動が起きた。3月、同首相は国際的批判もあって野党との交渉のため法案を「一時停止」した。ところが、その後野党が交渉から離脱したため、ネタニヤフ政権は国会での法案可決を改めて狙っているようだ。今は1回目の審議が終わった段階で最終的結論は出ていないが、結果次第では国内で大規模抗議運動が再開され、混乱が続くだろう。】

リトアニアでNATO首脳会議(12日まで)

【ポイントの一つはスウェーデンとウクライナのNATO加盟問題だろうが、前者はOK、後者はまだまだ、ということだ。ゼレンスキー大統領は、ウクライナの加盟をめぐり、加盟や招待の期限が示されないのは「前代未聞でばかげている」と強い不満を表明したそうだ。気持ちは分かるが、今その時期ではないことぐらい理解できるだろう。だとすれば、ゼレンスキーの不満表明の目的は別にある、ということか?】

インドネシアでASEAN外相会議(14日まで)

【某紙は「議題の中心はミャンマー情勢や南シナ海問題など。いずれの課題についても、有効な打開策を見いだすことができず、国際社会からは、地域機構としてのあり方を問う声もあがる」などと報じているが、そんなことはASEANの宿命で、昔から誰でも知っていること。もう少し気の利いた記事は書けないものかね?】

7月12日 水曜日 韓国大統領、ポーランド訪問

【韓国大統領はNATO首脳会議出席後、ポーランドのワルシャワに移動し、国賓訪問するという。韓国大統領の公式訪問は14年ぶりで、ポーランドはウクライナに隣接しているだけに、「同国の再建協力問題が主要議題となる見通し」だと韓国紙は報じた。日本ではリトアニアでの日韓首脳会議開催が話題になっているが、欧米の関心はやはり欧州中心である。】

7月13日 木曜日 エジプト、スーダン内戦に関する国際会議を主催

【正規軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の内戦が続くスーダンの近隣諸国首脳会議がカイロで開かれる。戦闘が始まったのは4月だから、もう3カ月経つのだが、終結の見通しはない。米国やサウジによる仲介は先月決裂した。エジプトが正規軍を支援する一方、RSFはアラブ首長国連邦(UAE)が支援しているので、これで直ちに解決とはならないだろう。歴史的にスーダンの安定はエジプトにとって最大関心事の一つであるだけに、エジプトの外交が試されている。】

タイで新首相を選出

【タイのプラユット首相が引退する。プラユットは2014年、陸軍司令官としてクーデターを指揮、タクシン元首相派政権を倒し暫定首相に就任し、爾来連立政権で首相を続けてきたが、最近は支持率が低迷し政権内の求心力も低下していたらしい。5月の総選挙で第1党となった前進党の党首が連立政権による首相就任を目指しているが、実現するかどうかは分からない。投票制度が軍部側に圧倒的に有利だからだが、タイの安定には引き続き注目したい。】

バイデン大統領、フィンランド訪問

【フィンランドがNATOに加盟するので時宜を得た訪問だろうが、先週ロシアはフィンランド外交関係者9人を国外追放すると発表。フィンランドが先月、諜報活動の容疑でロシア外交関係者9人を追放したことへの報復だそうだ。ロシアはサンクトペテルブルクのフィンランド領事館も閉鎖する。フィンランドにとっては茨の道だから、今回の米大統領訪問は内政的にも意味があるのだろうね。】

7月17日月曜日 国連安保理でウクライナ問題を審議

【残念ながら、進展は期待できない】

黒海穀物イニシャティブが失効

【ロシアが再び揺さぶりをかけている。先週ロシア外務省は合意を「延長する根拠がない」と表明したが、同じような脅しは前回の失効期限である5月にもあった。ロシアの目的は国営ロシア農業銀行を国際送金・決済システムのSWIFT(国際銀行間通信協会)に再接続することだろうが、そうは問屋が卸さない。また2カ月程度の延長になるのだろうか?】

さて、今週の筆者の関心事は外交安保ではない。先週、久し振りに海上自衛隊の呉地方総監部を訪問、その後霞が関の友人とも話をしたが、今日本の公務員制度は「危機的状況にある」との思いを強くした。詳しくは今週の産経新聞WorldWatchをご一読願いたいが、これまでのような人事制度とリクルート方法を踏襲する限り、日本の組織は「空洞化」し、国際競争力を一気に失いかねないと強く懸念する。

〇アジア 

北朝鮮総書記の妹・与正氏が連日談話で、アメリカ軍の偵察機が「経済水域上空を侵犯した」と威嚇する一方、韓国については「大韓民国」という正式名称を初めて公式に使った、と報じられた。なるほど、今世界の関心はウクライナと台湾に集中しているので、北朝鮮としてはもっと「構ってほしい」のだろう。「困ったちゃん」である。

〇欧州・ロシア

2010年以来在任期間最長だったオランダのルッテ首相が内閣総辞職を表明した。理由は移民政策、特に難民流入制限を巡る連立政権内部の対立だという。生活が豊かなオランダは移民についても比較的リベラルだったが、欧州の排外主義の流れは遂にオランダにも到達したということか。ちょっと気になるところだ。

〇中東

米大統領補佐官が、スウェーデンNATO加盟を受け入れたトルコに米国製F16戦闘機を供与する方向で米議会と調整に入ると表明した。やっぱり欲しかったのは米国の兵器なのね。トルコ外交は実に分かり易いが、これって、サウジアラビア外交にも似ているような気がする。

〇南北アメリカ

米海兵隊司令官が退任したにもかかわらず、国防総省の人工妊娠中絶政策に抗議する共和党上院議員1人の反対で今海兵隊トップが不在となっているそうだ。こうした事態は164年振りだそうだが、そうでなくても議会の承認手続きの遅れで滞っている人事案件は多数に上る。やはり議会承認制度は万能ではないのだ。

〇インド亜大陸 

特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:NATO首脳会議中に大統領官邸でリトアニアのナウセダ大統領主催の夕食会に先立って歩くゼレンスキー大統領とオレナ・ゼレンスキー大統領夫人、スウェーデンのウルフ・クリスターソン首相とビルギッタ・エド夫人(2023年7月11日 リトアニア・ビリニュス)出典:Photo by Yves Herman – Pool/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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