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.国際  投稿日:2023/7/26

処理水放出を批判する中国に反論


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2023#30

2023年7月24-30日

【まとめ】

・中国が、福島第一の処理水海洋放出を批判し始めた。

・林外務大臣、「日本政府は偽情報やその流布に断固として反対」と述べる。

・中国側主張に対し日本政府はひとつひとつ反論している。

 

まずは、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きから始めよう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の専門家たちの今週の関心はこうだ。

7月25日火曜日 気候変動に関する政府間パネル会合(28日まで)

【気候変動政府間パネルは気候変動を評価する主要な国連機関、例のIPCCと呼ばれる機関だ。1988年に国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)により設立され、「気候変動とその経済社会に及ぼす影響につき明確な科学的見解を提供する」のが目的だというが、何故かIPCC自体は調査研究やデータ監視は行わない。事務局の職員数は僅か13人だからか?今回は59回目の会合、7期目の評価サイクルの初会合となる。】

7月26日水曜日 米国務長官、在トンガ米国大使館を開設

【トンガといえば、昨年1月15日に海底火山の大規模な噴火と津波に見舞われた南太平洋の島国で日本も津波などの早期警報システムを供与しているが、何と米国は大使館を持っていなかったのか?日本だってしっかり大使館を置いているのに。「米国が南太平洋を軽視している間に中国が影響力を拡大している」との指摘は間違いではなさそうだ。ちなみに、ブリンケン長官は今回豪州とNZも訪問する。】

ミクロネシア大統領就任式

【議会の議長だったWesley Siminaが新大統領に選ばれたが、同氏は台湾との関係を重視した前大統領とは異なり、現在の中国との外交関係をそのまま維持するようだ。パラオやマーシャル諸島は 台湾との外交関係を維持しているが、ミクロネシアが近い将来台湾と外交関係を持つ可能性は遠のいたようだ。】

豪州首相、ニュージーランド訪問(27日まで)

【南太平洋での西側主要国の外交が活発化している。】

7月27日木曜日 仏大統領、バヌアツ訪問

【こうした流れにフランスも乗ろうとしているのか。そういえば、フランスには「太平洋艦隊がある」と昔仏外交官が豪語していたっけ。】

タイ議会、首相選出のための投票(第三回目)

【5月の総選挙で第1党となった前進党の党首の首相選出が失敗に終わり、今回は前進党など8党が対応を協議して第2党タクシン元首相派から候補者を出すことで合意したらしい。上下両院の軍に近い保守派がどう出るか?要注目である。】

米大統領、イタリア首相と会談

ロシア大統領、ロシア・アフリカ首脳会合を主催(28日まで)

【ロシアはトルコと国連が仲介した「穀物合意」を破棄し、ウクライナの穀物積出港オデーサに対する攻撃を激化させる一方、アフリカ諸国には「ウクライナに代わりロシアが穀物を提供する」などと宣伝している。プーチンも強かだ。】

7月28日金曜日 インドでG20 環境大臣会合開催(29日まで)

【共同声明の類は一切発出されないだろう。】

7月30日日曜日 中央アフリカ共和国、憲法改正国民投票を実施

【現職大統領の三選を認めるための憲法改正案のための国民投票らしい。どこかの国と同じ独裁者が考えることだろう。】

筆者が今週気になったのは中国が「日本の『核汚染水』海洋放出は海洋環境の安全と人類の生命・健康に関わる」などと批判し始めたことだ。中国の主張は非科学的だが、彼らはそんな批判など意に介しない。彼らは、いつもの通り、トリチウム問題を政治化しようとしているだけなのだろう。

林芳正外務大臣は「悪意のある偽情報の拡散」は「普遍的価値への脅威」であり「日本政府は偽情報やその流布に断固として反対する」と述べている。もっと厳しい言い方をしても良いぐらいだが、中国側主張に対し日本政府は次の通り反論しているようだ。

●(中国の主張:以下同じ)事故由来「核汚染水」は通常原発排水と異なる 

(日本の反論:以下同じ)海洋放出にはトリチウム濃度が日本の規制基準の40分の1を下回るまで海水で100倍以上希釈する。事故炉の放射性物質でも、国際的規制基準を守る限り、人体や環境への安全は確保される。

●放出処理水は大量過ぎる

日本の年間放出量は事故前の管理目標値22兆ベクレルを下回るが、これは中国の寧徳原発の2018年放出実績の5分の1程度に過ぎない。

●近隣諸国の了解が必要だ

海洋放出について他国の事前了解を得る義務を規定する国際条約等はない。

●問題なければ湖川放出せよ

トリチウムの放射能濃度が自然レベルを超えるのは原発近傍半径2キロに限られ、IAEAも「技術的に実現可能であり、国際慣行に沿ったもの」と評価している。

では日本はこれからどうすべきか。これについては今週の産経新聞のコラムを読んでほしい。今週はこれから米国西海岸などに出張するので、このくらいにしておこう。

いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:福島第一原発の敷地内にある、高度液体処理システム(ALPS)で処理された水を保管するタンク(2023年7月21日福島県双葉町)出典:Photo by Kimimasa Mayama-Pool/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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