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.社会  投稿日:2023/9/9

【ファクトチェック】サンデーモーニング松原氏「処理水はまったく違う水」⇒根拠不明


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・情報番組「サンデーモーニング」で、福島第一原発ALPS処理水の海洋放出について「処理水はまったく違う水」との発言あり。

・政府、東京電力、第三者機関の公表データより、処理水にトリチウム以外の核種が含まれている可能性は低い。

・よって、番組内の発言は「根拠不明」と判断する。

 

福島第一原発のALPS処理水の海洋放出に対し、中国は8月24日、日本の水産物の輸入を全面的に禁止した。また、中国から日本に嫌がらせの電話が、福島県の飲食店や宿泊施設などに相次いでいることは周知の通り。

これに対し、日本政府は9月4日、中国による輸入停止措置は全く受け入れられるものではなく、即時撤廃を求めるとの反論をWTOに書面で提出した。

岸田文雄首相は9月6日、インドネシアで東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議に出席し処理水放出は科学的に安全だと説明し、中国の対応を「突出した行動」と指摘した。

また、日本政府は、日中両国が締約国となっている地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の規定に基づき、中国政府に対して討議の要請を行った。

このような外交努力も無駄だろう。なぜなら習近平主席は今それどころではないからだ。不動産バブルの崩壊とゼロコロナ政策によりサプライチェーンが寸断され生産は停滞、経済成長率の鈍化が止まらない。景気低迷が長引き、若者の失業率は20%を超す。ニートを入れたらその数値はさらに上がると見られている。

そうした内憂が一向に解消される気配が無い中、国内に溜まった不満のはけ口としての日本バッシングの旗を降ろすわけにはいかない。ある意味分かりやすい対応なのだが、やられているこっちはたまったものではない。かつ、あちらの国民も日本の水産物を食べたくても食べられない。それに加え、やっと日本へ旅行出来るかと思ったらそれもこの状況下では出来ない。あちらの国民にはまったくお気の毒としか言いようがない。

そんなことをいつまでもやっているものだから、日本を含め多くの国がこの国のカントリーリスクを改めて認識、生産拠点の移転、新規投資の中止、輸出先のシフトなどを検討し始めている。いや、もう始まっている。

今、日本がしなければならないことは、一丸となって、中国からのこうした理不尽な外交圧力に対抗することだ。そして、輸出が無くなり立ち往生している国内水産業者らを救うことではないか。

少なくとも私が現役のテレビコメンテーターだったら、そう言う。今こそ連帯が必要だと思うからだ。

▲写真 福島第一原発構内に並ぶ処理水タンク群 出典:経済産業省

 TBS系列情報番組「処理水は全く違う水」

ところが、この問題のまっただ中、とある地上波テレビ番組で驚きの発言が出演者からなされた。

TBS系列の「サンデーモーニング」という情報番組(毎週日曜日8:00~09:54)がそれだ。9月3日の放送で、コメンテーターとして出演していたジャーナリストの松原耕二氏が、福島第一原発のALPS処理水の海洋放出について「処理水はまったく違う水」と発言した。

松原氏はまず、「中国があれほど危険をあおるのが、科学的だとは全然思わないですね。」と前置きし、「ただ、普通の原発が出してる、海に流しているものと処理水はまったく違う水なわけですよね」と指摘、続けて、「普通の原発が流すものはトリチウムだけが入ってる。で、今の処理水はですね、結局燃料デブリに直接当たってるので、トリチウムだけじゃなくてセシウムとかストロンチウムとかいろんな放射性物質が入ってるわけです」と述べた。

さらに、「これが明らかに違うんだということで、日本はただ、政府はですね、そっちに意識が行かないように『トリチウム、トリチウム』という風に持って行くようにも見えるわけですね。ですから、やっぱりほかの放射性物質についても、安全なら『安全だ』と積極的に説明して、データを開示することが、やっぱり信頼につながるんだろうと思います。最終的には。」と続けた。

松原氏は、放出されている処理水にはトリチウム以外のセシウムやストロンチウムなどの放射性物質が入っているととれる発言をした。さらに、政府がそれを隠蔽しているかのような示唆も行った。

Japan In-depthでは、この松原氏の発言をファクトチェックする。

■ 中国の主張

放出された処理水にはトリチウム以外が入っていると非難しているのは中国だ。8月28日、駐日中国大使館ホームページにおいて、ALPS処理水の海洋放出に関するコメントが掲載された。その指摘は以下の通り。まずは読んでみよう。

まず、なぜ日本はトリチウムは稀釈(編集部注:希釈)処理済みだとわざと強調し、他の放射性核種には言葉を濁しているのか。日本はこれらの核種は処理のすえ、海洋放出前すでに国の安全基準を満たしたと言い張っている。しかし世界が知っているように、福島の核汚染水には60種余りの放射性核種が含まれており、トリチウムのほか、多くの核種の有効な処理技術はまだない。しかもいわゆる「基準を満たす」イコールない、稀釈イコール除去ではなく、総量が変わるわけではない。日本がどう弁明しようとも、大量の有害な核種が海に放出され、海洋の環境と人類の健康に予測できない危害をもたらす事実は変えられない。

第二に、なぜ日本は全面的で系統な海洋環境モニタリングを行わないのか。現行のモニタリングプランは系統的、全面的でなく、放出されるすべての核種のモニタリングを行ってはおらず、モニタリングする媒体海洋生物の種類が少なく、海洋生態系への長期的影響評価の必要を満たせない。現在公表しているモニタリング方法とデータだけで、福島核汚染水の海洋放出は安全で無害だというのは科学的根拠がなく、人々を納得させるのは難しい。現在公表している大部分のデータは東京電力が自分で採取、検査、発表したものだ。東京電力にデータ改ざん、ごまかし、虚偽報告の数々の過去があることを考えれば、国際社会がそのデータの真実性と信頼度を疑うのはしごく当然のことである。

第三に、なぜ日本は他の利害関係者が共に参加して国際モニタリングの仕組みをつくることを拒否するのか。日本は国際原子力機関(IAEA)を前面に出して「盾」にし、他の国のモニタリング参加は必ずIAEA主導の枠組み下でなければならず、IAEAとの協議・合意がなければ加われないと言っている。そして実際には、現在IAEAのモニタリングの枠組みには他の国や国際機構は現地参加しておらず、これでは国際モニタリングとは言えず、透明性を著しく欠く。日本が安全性について十分自信があるのなら、他の国が独自に実施する第三者モニタリングを含めて、各利害関係者が十分かつ効果的に参加する長期的モニタリングの国際的アレンジメントを積極的に支持すべきである。

■ 外務省の反論

この中国の批判に対して外務省は以下の通り回答(2023年9月1日「ALPS処理水の海洋放出に関する中国政府コメントに対する中国側への回答」)している。こちらも長いが是非読んでいただきたい。

【中国側の1つ目のコメントへの回答】

中国政府は、1つ目のコメントとして、日本側は、トリチウムは希釈・処理されている点を説明する一方で、他の核種については説明していないとしています。また、中国政府は、ALPS処理水には60種類以上の放射性核種が含まれており、トリチウムのほか、多くの核種の有効な処理技術がないとしています。さらに、中国政府は、「基準値を満たすこと」と「存在しないこと」は別であり、ALPS処理水の海洋放出は、海洋環境や人体に予期せぬ被害をもたらす可能性があるとしています。

これらの点について、正確な事実は以下のとおりです。

ALPS(多核種除去設備)は62の核種を確実に除去するように設計されていますが、半減期を考慮すべきなどのIAEAの指摘を受け、処理前の水に現実的に存在し得る核種は29核種であると考えています。IAEAは、包括報告書において、この選定方法は「十分保守的かつ現実的」と評価しています。また、日本の分析に加え、IAEA及び第三国機関の分析でも、その他の核種は検出されていません。こうした内容については、原子力規制委員会の審査やIAEAのレビューを通じて公開されています。いわゆる「60種類以上の放射性核種が含まれている」とする中国側の主張は、科学的根拠を有するものではなく、IAEAの見解とも異なるものです。

これらの核種については、ALPSによる処理を経た後、規制基準未満まで除去します。処理後に検出されたことのある核種は、29核種のうち9核種だけであり、それらも規制基準を十分に下回るまで浄化できています。これまでの運転実績から、ALPSは十分な浄化性能を有することが実証されており、IAEAも、それらのうち多くの核種は検出されることはないほど濃度が低いと評価しています。

ALPS処理水の海洋放出による人及び環境への放射線影響は、国際的な基準及びガイドラインに沿って、海洋拡散、核種の生物濃縮や長期の蓄積も考慮して入念な評価を行った結果、無視できるものです。IAEAは、包括報告書において、この点についても結論として明記しています。いわゆる「海洋環境や人体に予期せぬ被害をもたらし得る」との中国側の主張は、科学的根拠を有するものではなく、IAEAの見解とも異なるものです。放出される水は、中国側が言うような「汚染水」ではなく、十分に浄化された「ALPS処理水」を更に希釈したものであり、放射性物質の濃度が規制基準を大幅に下回るレベルの水です。IAEAは、公衆の混乱を避けるためには用語への理解が重要であり、用語を区別すべきと指摘しています。日本政府は、中国政府に対し、IAEAの指摘を真摯に受け止め、不適切な表現を行わないよう求めます。

【中国側の2つ目のコメントへの回答】

中国政府は、2つ目のコメントとして、日本側はすべての核種をモニタリングしているわけではなく、モニタリング対象となる海洋生物の種類も少ないので、日本側が公表しているモニタリング・データだけでは、ALPS処理水の放出が安全で無害とすることはできないとしています。また、中国側は、日本側が発表しているデータの大部分は東京電力自身がサンプリングし、検査し、公表しているものであるが、東京電力が発表したデータは信頼できないとしています。

これらの点について、正確な事実は以下のとおりです。

日本は、東京電力福島第一原子力発電所の事故後、政府が定める「総合モニタリング計画」に基づいて、包括的かつ体系的な海域モニタリングを行っています。同計画においては、東京電力のみならず、環境省、原子力規制委員会、水産庁及び福島県がモニタリングを行っており、その結果については各省庁のウェブサイト及び包括的海域モニタリング閲覧システム等において公開されています。放出開始後のモニタリング結果は、ほとんど検出下限値未満であり、検出されたものも極めて低い濃度であり、安全であることが確認されています。ALPS処理水は、計画どおりに放出されています。

東京電力のデータの信頼性については、原子力分野において国際的な安全基準の策定・適用を行う権限のあるIAEAのレビューを受けており、東電の分析能力や信頼できる業務体制を有するか等も含め評価されています。このレビューには中国の専門家も参加しており、中国の専門的知見も踏まえた上で評価されたものです。

海洋放出されるALPS処理水の安全性については、放出前のモニタリングを徹底した上で、海域モニタリングにおいて、海水中のトリチウムの観測点を増やす等の強化を行っているほか、放出開始後は、東京電力のみならず、各機関が、トリチウムの分析を頻度を高めた上で迅速に行い、その結果を速やかに公表しています。

また、トリチウム以外の核種についても、例えば、環境省は、上述の29核種を含めた幅広い核種のモニタリングを行うこととしており、特に、海洋放出開始後は、海水中のγ線放出核種を毎週スクリーニング的にモニタリングし、結果を公表しています。原子力規制委員会は、以前より、定期的に、海水のセシウム134及び137、ストロンチウム90の濃度や全β核種をモニタリングし公表していますが、海洋放出開始後もそれを継続しています。

このように、現在のモニタリング制度は、放射性物質濃度の変動があった場合には速やかにこれを探知し、放出の停止を含め適切な対応をとることが可能なものとなっています。

IAEAは、包括報告書において、政府と東京電力のモニタリングに関する活動は国際基準に沿ったものであるとし、政府と東京電力は充実した環境モニタリング計画を実施していると評価しています。

【中国側の3つ目のコメントへの回答】

中国政府は、3つ目のコメントとして、「IAEAのモニタリングメカニズムには、これまでに他の国や国際機関の現場への参加は行われておらず、これでは、真の国際モニタリングとは言えず、透明性を著しく欠いている」として、日本側に対し、各利害関係者が参加できる長期的モニタリングの国際的取組の立ち上げを積極的に支持すべきとしています。

これらの点について、正確な事実は以下のとおりです。

ALPS処理水の海洋放出については、これまでIAEAの関与を得ながら、国際基準及び国際慣行に則り、安全性に万全を期した上で進めてきています。海洋放出開始後も、東電福島第一原子力発電所におけるIAEA職員の常駐に加え、同発電所からリアルタイムでモニタリング・データを提供しています。今後とも、IAEAの関与の下、国際社会が利用できるデータを公表します。また、IAEAは、日本のモニタリング活動に関するレビューを継続します。

ALPS処理水のモニタリングについては、IAEAレビューの枠組みの下で、IAEA及びIAEAから選定された複数の第三国分析・研究機関が、処理水中の放射性核種を測定・評価するソースモニタリングの比較評価及び環境中の放射性物質の状況を確認する環境モニタリングの比較評価を実施してきています。現在実施されているIAEAによる比較評価には、IAEAの放射線分析機関ネットワーク(ALMERA)から、米国、フランス、スイス及び韓国の分析研究機関が参画しています。IAEAによるモニタリングは、IAEAを中心としつつ、第三国も参加する国際的・客観的なものです。例えば2022年11月7日から14日にかけて、IAEA海洋環境研究所の専門家に加え、フィンランド及び韓国の分析機関の専門家が来日し、現場において試料採取及び前処理を確認しています。

したがって、いわゆる「IAEAのモニタリングメカニズムには、これまでに他の国や国際機関の現場への参加は行われておらず、これでは、真の国際モニタリングとは言えず、透明性を著しく欠いている」という中国側の主張は、事実とは異なるものです。

IAEAは、原子力分野において、関連安全基準を策定・適用する権限を有しており(注1)、関係国際機関及び中国を含む全IAEA加盟国との協議を経て、人・環境への影響に関するIAEA安全基準を策定し、様々なレビューを実施してきています(注2)。政治的な目的によってIAEAの活動を貶めることは受け入れられません。また、IAEAの権威・権限を否定することは、IAEAの安全基準に依拠して設定された中国の安全基準さえも否定するものであり、原子力の平和的利用の促進を阻害する極めて無責任な主張です。

(注1)IAEA憲章第3条A6(IAEAの権限)
国連機関等と協議、協力の上、健康を保護し、人命及び財産に対する危険を最小にするための安全上の基準を設定し又は採用する。

(注2)「IAEA安全基準作成に係る戦略及び手順(SPESS:STRATEGIES AND PROCESSES FOR THE ESTABLISHMENT OF IAEA SAFETY STANDARDS)」

「サンデーモーニング」放送後、多くの批判がなされた。放送の2日後の9月5日、松原氏はX(旧Twitter)に以下の通り投稿した。

問題なのは、データを「開示し続ける」かどうかではなく、「処理水に他の放射性物質が入っている」ことの真偽であるが、それについて松原氏は触れていない。9月10日のサンモニでなんらかの発言があるのか。

■ 「処理途上水」とは

ここで、タンク内の中身について触れておこう。

まず、東電によると、福島第一原子力発電所には、発生した汚染水に含まれる放射性物質を多核種除去設備(ALPS)等で浄化し、

ALPS処理水等」および「ストロンチウム処理水」として敷地内のタンクに貯蔵している。

ALPS処理水等の貯蔵タンク基数は1,046基(測定・確認用タンク:30基含む)。その他に、多核種除去設備で処理する前のストロンチウム処理水を貯蔵するタンクが24基、淡水化装置(RO)処理水12基、濃縮塩水1基がある。(2023年8月31日時点)

多核種除去設備(ALPS:advanced liquid processing system)は、62種類の放射性物質を取り除くことができるという。2013年から稼働している。

▲写真 多核種除去設備(ALPS:advanced liquid processing system)出典:経済産業省

下の図を見ると、「ストロンチウム処理水」と、「ALPS処理水等」がある。

ストロンチウム処理水」というのは、汚染水からセシウムとストロンチウムを除去したものだ。「ALPS処理水等」は、多核種除去設備(ALPS)等によって、ストロンチウム処理水からトリチウム以外の大部分の放射性核種を取り除いたものだ。

その「ALPS処理水等」はさらに、「ALPS処理水」と「処理途上水」に分けられる。

ALPS処理水」とは、トリチウム以外の放射性物質が、安全に関する規制基準値を確実に下回るまで、多核種除去設備等で浄化処理した水(トリチウムを除く告示濃度比総和1未満)をいう。

処理途上水」とは、多核種除去設備等で浄化処理した水のうち、安全に関する規制基準を満たしていない水(トリチウムを除く告示濃度比総和1以上)をいう。(処理水ポータルサイトによる)

▲図 ALPS処理水等の現状 出典:処理水ポータルサイト

■ 海洋放出

まず処理水の海洋放出だが、なぜ海に放出するのか。その理由について経産省は、「ALPS処理水が増え続け、タンクの数が1000基を超え、本格化する廃炉作業を安全に進めるためには、新しい施設を建設する場所が必要となり、ALPS処理水を処分し、タンクを減らす必要がある」から、と説明している。(経産省:「みんなで知ろう、考えよう。ALPS処理水のこと

また、「災害発生時の漏えいリスク」や「大量のタンクの存在自体が風評の原因となること」を心配するご意見もあることから、ALPS処理水を処分し、数多くのタンクを減らすことは、廃炉と復興に向けて必要な作業となっている、としている。

海洋放出以外に「モルタル固化案」や「大型タンク貯留案」などが民間シンクタンクなどから経産省に提出されたが、採用されなかった経緯がある。

ただ、トリチウムの海洋放出は日本だけが行っている特別な方法ではなく、国内外の原発・再処理施設においても発生していることを知っておく必要はあるだろう。各国は自国の法令を遵守した上で、液体廃棄物として海洋や河川等へ、また、換気等にともない大気中へ排出している。

▲図 ALPS処理水と世界の原子力施設におけるトリチウム(液体)の年間処分量 出典:環境省(資料は経済産業省作成)

■ 海洋放出のプロセス

ALPS処理水の海洋放出を行う際には、トリチウム以外の放射性物質の濃度が国の基準を満たすまで再浄化処理(二次処理)を行い、トリチウムの規制基準を十分に満たすよう海水で希釈する。その工程は以下の図の通りだ。

▲図 海洋放出の工程について 出典:処理水ポータルサイト

ALPS処理水に関して、東京電力の分析だけでは不十分だとする見方もあろう。

国内唯一の原子力に関する総合的研究開発機関として、エネルギー利用に関する研究開発をはじめ、原子力の基礎・応用研究、福島原発事故に伴う環境回復など様々な分野で研究開発を行っている、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(原子力機構)が実施したALPS処理水の第三者分析を見てみる。

それによると、海水希釈前(2023年3月23日)のALPS処理水中のトリチウム濃度は、14万Bq/Lで、放水縦杭(上流水槽)から採取した海水希釈後(2023年8月22日)のALPS処理水のトリチウム濃度は48Bq/Lだった。

また、海水希釈前のALPS処理水のトリチウム以外の核種(対象29核種)は、規制基準(告示濃度比総和が1)未満であることが確認されている。(注1)

▲図 ALPS処理水の第三者分析 出典:国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

■ 結論

Japan In-depthは、政府、東京電力、第三者機関の公表しているデータや情報に基づき、検証した。

松原氏が言ったように福島第一から海洋放出されている処理水がトリチウム以外の核種を含有しているとは考えにくい。氏は、「普通の原発が出してる、海に流しているものと処理水はまったく違う水」だと番組中に述べたが、もしそう主張するなら、番組の中でデータを示すべきだった。

もしかしたら、松原氏は海洋放出前の処理水のことを言いたかったのかもしれない。言葉足らずで、放出後の処理水もトリチウム以外の核種が含まれているように視聴者に誤解されてしまった可能性もある。仮にそうだとしたら、発言はミスリーディングだった。

また、政府は、本稿で紹介したように、安全性について積極的に説明を公にしている印象だ。この点も、氏の指摘は的を得ておらず、発言全体の信頼度を毀損している。それが様々な批判を呼んだ原因だと思う。

一方で、Japan In-depth自身が処理水放出後の海水を分析したわけでもない。したがって、松原氏の発言を「誤り」と証明することはできない。

以上のことから総合的に判断し、松原氏の今回の番組での発言は、「根拠不明」とする。

注1)告示濃度比総和

環境中に放出することができる放射性物質の濃度限度は関係法令(告示)で核種ごとに定められており、これを告示濃度と呼びます。また、複数の放射性物質を含む場合は、核種ごとの濃度に対する告示濃度限度に対する割合を足し合わせて評価することになっており、この足し合わせた値を告示濃度比総和と呼びます。この値が1以下であれば、放射性物質の放出基準を満足しているとされます。(日本原子力研究開発機構福島研究開発部門による)

参考ウェブサイト:

ALPS処理水の処分(METI/経済産業省)

みんなで知ろう。考えよう。ALPS処理水のこと

廃炉・汚染水・処理水対策ポータルサイト (METI/経済産業省)

処理水ポータルサイト | 東京電力

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トップ写真:東京電力福島第一原子力発電所の多核種除去設備(ALPS)2023年7月21日に福島県・双葉町で準備される 出典:Photo by Kimimasa Mayama-Pool/Getty Images




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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