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.国際  投稿日:2023/8/11

夏にご用心 日本と世界の夏休み その1


林信吾(作家・ジャーナリスト

林信吾の「西方見聞録

【まとめ】

・夏休みの初日、子供の水難事故が起きた。

・ストーカー対策に、女性は夜アイスを一個だけ買わない方がいい、と投稿があった。

・「最悪の状況を最初に想定してあらかじめ対策を講じておく」ことが危機管理の基本。

 

 夏休みの初日に、哀しい事故が起きてしまった。

7月21日、福岡県宮若市の犬鳴川で、いずれも小学6年生の女児8人が川遊びをしていたところ、うち3人が溺れたというもの。

報道によると、午後1時頃

「11歳の女の子3人が川から上がってこない」と通報があり、駆けつけた消防と警察が、川の中で3人を発見し救急搬送したが、すでに心肺停止状態で、病院で死亡が確認された。深みにはまったものと見られる。

私自身、この事故の報道を通じて初めて知ったのだが、河川での水難事故は、海でのそれに比べて2倍も多いのだとか。

ニュースでは現場の映像も流されたが、もともと女の子たちが遊んでいた場所は膝くらいまでの深さしかなく、水着すら必要でなかったらしい。

ただ、川底というのは突然深みがあったりする。とりわけ橋梁など構造物の近辺は、流れが急に変わることもあるので、こうした深みができている可能性が高く、注意が必要だとのこと。そう言われれば、空撮映像には橋が映っていたが……

民放の報道番組では、水難事故に詳しいという人がこうした説明をした上で、

「(川で遊ぶなら)ライフジャケットはぜひ着用して欲しい」

 などとコメントしていた。

恥を記すが、ライフジャケットと急に言われても、海上自衛隊や保安庁が非常時に着用するものだろう、といった程度の認識しかなく、買うといくらくらいするものなのか、皆目見当もつかなかった。

そこでAmazonのサイトを見たところ、売れ筋ランキング上位というのがヒットして、幼児向け3980円、子供向け1627円などとあった。子供から大人まで各サイズあり、防水スマホケースや呼び子(ホイッスル)がついている優れものが2688円。

 高いものではない。楽天など、中古品4円というのまであった。

 ベストだけでなく、ウォーターシューズと言って、水遊びに適した靴も売っていた。やはり2000円前後だ。

 これなら各家庭に備えれば……と思い立ったのは私だけではないと見えて、

「過去3週間で500点以上受注しました」

 などと謳っている商品もあったし、サイトを見たのは2日のことだが、配送まで2週間ほどもかかる状況であった。

 毎度思うことなのだが、事故が起きてからこうした情報を伝えるのではなく、常日頃から注意喚起を繰り返すのが、マスメディアの役割というものではないのだろうか。

 亡くなった3人の女の子に対しては、冥福を祈ることしかできないけれども、今後同じような事故が起きないようにするために、

「川遊びの際はライフジャケットを着用しよう」

 と全国的に呼びかけて行くことは、決して無駄ではないと思う。

 もうひとつ、夏休みに入るのと前後して、あるコンビニ店員さんがネットに投稿した、

「夜アイスを一個だけ買って帰るのはやめてください」

 という呼びかけが話題となった。

 突然なんの話か、と困惑された方もおられようが、若い女性の中には、なるほど、と直感した方もおられるのではないだろうか。

 時間帯にもよるのだと思うが、コンビニの店内には他の客をそれとなく観察しているような手合いが意外と多く、とりわけ仕事帰りの若い女性がアイスを一個だけ買うと、

(アイスを買って帰るということは、近くに住んでいる。一個だけ買うということは、他に誰も住んでいない)

 という情報を与えてしまうのだとか。この結果、店から後を付けられて自宅を知られ、ストーカー被害に遭うことも考えられる。夏になるとどうしても、女性の服装も露出度が高くなるので、危険度も増すということも、おそらくあるのだろう。

「アイスは昼間、箱で買って下さい」

 というのが投稿の趣旨であった。

 私も週に幾度かコンビニには足を運ぶが、他の客がなにを買っているかなど、気にしたことはない。ただ、ストーカー行為に走るような人間の心理と言うか目の付けどころは、私のような常識人には想像も及ばないということなのだろう笑。

 いや、本当は笑い事ではなく、実際にくだんのコンビニ店員さんも、同僚がストーカー被害に遭ったことから投稿を決意したのだとか。

 コンビニとは言うまでもなくコンビニエンス・ストアの略で、そもそも「便利な店」であるはず。24時間いつでも、気軽に買い物ができるところに存在価値があるのではないか。

 実際、私が生活の拠点を英国ロンドンから東京に戻した1990年代初頭、板橋区の実家からほど近いコンビニに、夜10時頃、たしか買い忘れた週刊誌を求めて入店したところ、パジャマにサンダル履き、という出で立ちの若い女性を見かけて、

(へえ、本当にこんな子がいるんだ……)

 などと思った。あまりにも無防備と言うか、やはり日本は治安がよいのだな、というように。もちろん彼女がなにを買っていたかなど、気にも留めなかったが。

 もうひとつ、コンビニと服装との関わりについては、やはり1990年代の話だが、こんな記憶がある。あちこちの店に、

「店内でフルフェイスのヘルメットの着用は禁止します」

 という張り紙がしてあった。

 当時コンビニ強盗が多発していたという背景があったわけだが、日本語のプロとしては、やはり少々ひっかかった。商売をしている側が客に対して、ヘルメットだろうがアデランスだろうが「禁止する」権限があるのだろうか。防犯という主旨に異論はないが、やはりここは「お断りします」とか「ご遠慮下さい」と書くべきだろう。

 これもこれで時代背景というものがあって、当時は「出禁」といった表現もさほど一般的でなかったのだ。

 とどのつまり、当時と比べて日本の治安が極端に悪化したとまでは言えないと思えるし、日本中が板橋のように安全で文化的な街でないことは、残念ながら事実だ笑。

 そのことを割り引いて考えても、私はこのコンビニ店員さんの投稿は、単なる「ネットの話題」で済ませることなく、コンビニのCMに出ている芸能人、たとえば王林(ローソンのCMで話題になっている)が津軽弁でアピールするとか、そのくらいの取り組みをしてもよいとさえ思う。真面目な話、「最悪の状況を最初に想定して、あらかじめ対策を講じておく」というのが、危機管理の基本なのだから。

 

トップ写真・出典)Longhua Liao/GettyImages




この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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