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.国際  投稿日:2021/12/31

バイデン外交の回顧と展望 私の取材 その2 アフガニスタンでの大失態などの不安定要因


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・バイデン外交政策の不安定要因。第1はアフガニスタンからの拙速な全面撤退策破綻という失態。

・第2は、AUKUS発足と豪の潜水艦導入問題でフランスを激怒させたこと。NATOの米欧同盟国同士の間で異例。

・第3は不法入国問題。特に子供の不法入国が急増で収容施設は定員大幅超過。

 

バイデン政権の外交政策は2021年後半の時点で不安定要因が少なくとも5つある。それらを個別にあげてみよう。

第1の不安定要因は、アフガニスタンでの失態である。

過去20年に亘り、歴代アメリカ政権がサポートしてきたアフガニスタン・イスラム共和国政権がごく短期間に崩壊した。同時にアメリカや国連がイスラム原理主義に基づくテロ組織とみなしてきたタリバンが、瞬く間にアフガン全土を制圧してしまった。

バイデン大統領の拙速で唐突な全面撤退策の破綻だった。

確かに、アフガンからの撤退はトランプ前大統領も決めていたことであり、民主党、共和党双方の合意があった。しかし、それにもかかわらず、大失態と言われる事態に陥ってしまった。

拙速なやり方で米軍を撤退させたバイデン大統領に対する批判がワシントンでは噴出した。

例えば、立法府での外交政策の強力な推進役である、上院外交委員会委員長で、与党民主党のボブ・メネンデス議員は、「とんでもない失態」だと批判した。自分たちが選んだ与党の大統領に対して厳しい批判を浴びせたわけだ。

一方、最近、外交問題で活発に発言している共和党の若手上院議員で、軍事委員会のメンバーでもあるトム・コットン氏は、「アメリカ国民の生命を不必要に危険にさらした。大統領を弾劾しなければならない」と言い始めている。

アフガン撤退をめぐっては、バイデン政権の明らかな誤算と発言の矛盾が露呈し、バイデン大統領自身の統治能力を疑わせるような言動の矛盾も随分あった。これについては後述する。

第2の不安定要因は、フランスとの衝突である。

バイデン政権は、2021年9月にアメリカ、イギリス、オーストラリア三国による安全保障の新たな枠組み「AUKUS」を発足させると発表した。しかし、この発表はフランスなど北大西洋条約機構(NATO)加盟のヨーロッパ諸国にとって唐突な出来事だった。

しかも、AUKUS発足に伴い、オーストラリアが、ほぼ契約を済ませていたフランスからのディーゼル推進型の潜水艦12隻の購入をキャンセルし、アメリカから原子力潜水艦を購入することになった。これにフランスは激怒し、ワシントン駐在の大使を本国に召還するという事態にまで陥った。

▲写真 AUKUS発足に伴い、バイデン米大統領(左)はマクロン仏大統領(右)を激怒させた。写真は英コーンウォールで開催されたG7サミット全体会議に出席する2人(2021年6月13日) 出典:Phil Noble – WPA Pool/Getty Images

同じNATO加盟国でも、フランスはイギリスとは異なり、時折アメリカとの関係が微妙になることがあるが、それでも同盟国である。こうした事態は、NATOの米欧同盟国同士の間ではこれまでなかったことだ。

バイデン政権は「同盟国との絆、国際協調を重視する」と語っていたにもかかわらず、フランスへの配慮を欠いた。バイデン政権としては、ディーゼル推進型よりも原子力潜水艦の方が対中戦略上有利だと考えて、オーストラリアへの供与を決めたのだろうが、発表の仕方、あるいは物事の進め方がフランスを激怒させてしまったということだ。イギリス以外のヨーロッパ諸国も、フランスの対応に同調しているようだ。

第3の不安定要因は、外交と内政が重なる領域の不法入国者問題である。

現在、メキシコ国境からアメリカへの不法入国が急増しており、拘束者数は毎月数万人から10数万人に上っている。この1年では拘束者の合計は160万ともなった。その理由は簡単にいえば、バイデン政権の移民政策がトランプ政権とは反対に寛容だからだ。

バイデン政権は発足後まもなく、メキシコ国境の壁建設を中止した。また、バイデン政権になってから、不法入国者をほとんど強制送還しなくなった。

アメリカに入国したいという人は、メキシコよりもホンジュラス、エルサルバドルなどの中米諸国の国民が多い。そうした人たちはメキシコのアメリカ国境から入ってくる。報酬を得て、アメリカに不法入国させるシンジケートもできている。

▲写真 アリゾナ州ユマにある米国とメキシコの国境で、米国国境警備隊に拘束される移民の家族たち(2021年12月07日) 出典:John Moore/Getty Images

トランプ政権時代には、子供だけで不法入国した場合にも送還していたが、バイデン政権は、子供だけで入ってきた場合にはアメリカの中に留め置く政策に転換した。子供が入国できれば、後にその家族や親戚も入国できる可能性があるため、子供だけがどんどん入ってくるようになっている。

テキサス州のメキシコ国境から、7歳と5歳ぐらいの中米の女の子が不法入国する様子が、テレビで放送されたことがある。これは、アメリカの国境警備当局の関係者がビデオで撮影したもので、密入国斡旋の業者たちが数メートルの壁越しに手を伸ばして女の子たちをアメリカ側にぽとんぽとんと落とす光景だった。子供たちは2、3メートル下に落ちたが、元気に立ち上がり、闇の中に消えて行った。

子供の不法入国が急増しているため、本来定員が200人のテキサス州の収容所には現在は4,000人が収容されているという。そのほとんどが子供だ。

バイデン大統領は、カマラ・ハリス副大統領を不法入国者問題の最高責任者に任命したが、彼女は現場に中々行こうとせず、それがまた非難を浴びた。

テキサス州共和党のアボット知事は、アメリカとメキシコ国境の壁の建設中止を決めたバイデン政権を批判し、壁の建設にテキサス州で取り組んでいくと語っている。

不法入国者はコロナウイルスの問題とも絡んでいる。不法入国者の約10%がコロナ感染者だという統計もある。しかも、誰がどのようにしてアメリカに入国しているのか把握できない状況の中で、中南米からの麻薬の流入や、テロリストの入国の危険性も指摘されており、不法入国者の増加は非常に深刻な問題となっている。

にもかかわらず、日本におけるアメリカ情報の主要源とされているワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズ、CNNなどの大手メディアは、不法入国の問題をあまり報じない。それは、これらのメディアが民主党びいきだからだ。バイデン政権が不利になる報道を最小限に抑えているというのが、現在のアメリカの主要メディアの否定しがたい傾向だと思う。

これに対して、ウォールストリート・ジャーナルは民主党べったりではなく、かなり中立的、客観的な報道をしている。一方、CNNの二倍以上の視聴率を誇るニュースチャンネル、FOXテレビは共和党べったりの報道で、現在も「トランプ政権の政策は正しい」と報じている。そのため、日本にいると不法入国者問題の深刻さがわからないが、FOXテレビを見ているとそれがよくわかる。

(その3につづく。その1。全7回)

**この記事は公益財団法人の国策研究会の月刊機関誌「新国策」2021年12月号に掲載された古森義久氏の同研究会での講演の記録の転載です。

トップ写真:アフガニスタン戦争終結について発言するジョー・バイデン米大統領(2021年8月31日 ホワイトハウス) 出典:Chip Somodevilla/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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