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.国際  投稿日:2024/1/27

バイデン政権の対外政策の欠陥とは その4 トランプ氏再選の見通し


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・トランプ氏が大統領選で勝利する可能性は十分ある。

・バイデン氏の統治能力の低下と肉体的衰えが顕著。

・バイデン氏のこうした窮状は日本のメディアはくわしく報じない。

 

―― その大統領選挙ですが、トランプ氏が勝利する可能性はあるとお考えですか。

古森義久 可能性は十分あると思います。中国問題の権威で『CHINA2049』という本を5年ほど前に出したマイケル・ピルズベリー氏から聞いた話ですが、最近中国に招かれて行ったら、トランプ政権になったらどうなるかということばかり聞かれたと。つまり、中国はトランプ政権が再登場するのではないかと思い始めているわけです。

すでに共和党側では予備選が始まりました。1月15日のアイオワ州での党員大会です。この会では実際に投票が実施されました。すでに報道されたようにトランプ氏の圧勝でした。彼の得票率は全体の51%でした。2位のフロリダ州知事のロン・デサンティス氏が20%、3位の元国連大使のニッキー・ヘイリー氏が19%と、足元にも及びませんでした。

なにしろアイオワ州全体の合計99の郡のうち98郡でトランプ氏が首位だったのです。しかも首位にならなかった唯一の郡でも、首位のヘイリー氏との差がたったの1票だったというのです。この結果、デサンティス氏は予備選からの撤退を宣言して、トランプ氏を支持すると言明しました。

一方、民主党のバイデン氏は高齢だとか認知症だとかいろいろ批判されています。支持率も歴史的な低さです。しかしバイデン氏には現職大統領という強みのほかに、前回の大統領選挙でトランプ氏に勝ったという実績があります。この点を一番の売り物にして再出馬するとバイデン大統領は言明しているわけです。

一方、トランプ氏については4回に及ぶ刑事事件での起訴があります。反トランプ感情の強さ、民主党に有利とされる郵便投票など、簡単には乗り越え難いという障害も多々あります。勝てないという材料です。

一方、バイデン氏側は民主党本来の岩盤層があります。なにがなんでも民主党候補に投票するという基礎票です。この基礎票の存在のために、トランプ氏がこんどの選挙に勝つという見通しも、そう短絡ではありません。

ですがバイデン氏は次男のハンター氏が脱税や外国の腐敗企業をらの不正利得の容疑を摘発され、副大統領時代のバイデン氏自身にも息子にからむ不正があったとして、共和党側はすでに弾劾の準備まで進めています。要するにバイデン大統領の弱点も多いのです。

ただし、いまのアメリカの主要メディアは党派性が強くて、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、CNNがなどは極端に民主党びいきです。徹底してトランプ叩き、保守叩きを展開しています。日本の主要メディアはこの民主党傾斜のアメリカの新聞やテレビの報道に依存するところが大です。その結果、アメリカの情勢は日本のマスコミをみていても正確にはわかりません。

日本の新聞やテレビをみているだけではわからないのは、とくにバイデン氏の統治能力の低下です。バイデン大統領はいまもなお毎週のように、失言、放言、虚言を繰り返しています。ここ数ヵ月の間だけでも、ウクライナ戦争をその舞台がイラクだと失言したり、交通事故で死んだ女性の下院議員に弔電を送りながら、その直後の集会で、その議員の名を呼んで「どこにいるか」と問うたり、虚言つづきなのです。

バイデン大統領は肉体的にも衰えが顕著です。昨年は大統領専用機のタラップを登る過程で3回も転びました。日ごろのホワイトハウスの平地での歩行、あるいは大統領選用ヘリコプターに乗る際の動きなど、老化が目立ちます。実際に民主党陣営の内部にも、バイデン氏はこれでは選挙には勝てず、大統領の執務能力も疑問だから、2024年の大統領選ではみずから立候補の辞退を宣言すべきだという声があるのです。オバマ元大統領もそうした意見を抱いているとも伝えられます。

バイデン氏のこうした窮状は日本のメディアではくわしくは報じられません。その第一の理由はアメリカの民主党寄りの大手メディアがそれを報じないことです。しかしアメリカ国内には民主党傾斜ではない有力メディア、たとえばウォールストリート・ジャーナルFOXテレビという存在があります。その種のメディアではバイデン大統領の衰えをきちんと報道しています。

バイデン氏はいま81歳ですが、その劣化は単なる加齢とはやや異なります。アメリカの政界には80代で堂々と活躍し、失言や虚言はゼロという政治家はかなりの数、存在します。たとえば上院のバーニー・サンダース議員、下院のナンシー・ペロシ前議長などです。

(その5につづく。その1その2その3

**この記事は月刊雑誌「明日への選択」2024年1月号のインタビュー記事の転載と一部加筆です。                                                       

トップ写真:演説するために壇上に上がる時つまづくジョー・バイデン米大統領(2023年10月13日 ペンシルベニア州フィラデルフィア) 出典:Mark Makela/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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