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.国際  投稿日:2023/9/21

バイデン政権がエマニュエル駐日大使に警告


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・バイデン政権、エマニュエル駐日大使に中国をけなすSNS止めるよう指示。

・バイデン大統領が習近平主席との首脳会談を目指していることが背景。

・エマニュエル大使の自由奔放な政治活動ぶりは従来から広く伝えられていた。

 

バイデン政権のホワイトハウスが日本駐在のラマー・エマニュエル大使に対して中国の習近平国家主席やその政権をけなすようなソーシャルメディアの発信を止めるように指示したことが9月20日、NBCテレビのニュースで報じられた。

この報道はバイデン大統領が最近、中国への融和ともみられる姿勢をとり、とくに習近平主席との首脳会談を目指しているという背景では、アメリカ大使からの侮蔑的な発信は好ましくない、との判断からだとしている。

エマニュエル大使は最近では日本のLGBT(性的少数派)の動きに賛同し、その趣旨の法案への賛成のデモにまで参加して、内政干渉だとする日本側からの批判の対象ともなった。同大使のそうした政治的に頑強な傾向は中国にも向けられ、最近では以下のようなメッセージをソーシャルメディアの主にX(旧ツイッター)を通じて発信していた。

「習近平主席の内閣はもはやアガサ・クリスティの小説『そして誰もいなくなかった』のようになっていく。秦剛外相が姿を消し、ロケット司令官もいなくなった。李尚福国防相もこの2週間姿を現していない」

「この失業率競争で勝つのは誰だろうか。中国の青年たちか、それとも習主席の内閣なのか」

「李国防相が参加すべき行事に参加しなかったのは自宅軟禁のためか?? 軟禁の場所が混みあっていることだろう」

「もし青年失業率30%を望んでいるなら、それは習主席最大の経済業績だ。しかし私なら、それを履歴書に書くのは控えるだろう」

エマニュエル大使は以上のほかに口頭での言明でも、8月に開かれた米日韓3国の首脳会議での防衛協力強化も明らかに中国抑止を意図しているという意味の発言をした。この言明はバイデン政権の公式の説明とは反対であり、アメリカのメディアでもエマニュエル大使の強硬ぶりが批判的に取り上げられ、「戦士外交官」などとレッテルを貼られていた。

NBCの20日の報道によると、エマニュエル大使への警告はホワイトハウス内の国家安全保障会議の対中政策にかかわる当事者から大統領名で発せられた。政権の政策に沿っていないような発信はアメリカ大使としては差し控えるべきだという指示だという。

バイデン政権では大統領自身が国連総会での演説で中国に対して、競合と同時に一定の分野での協力を求めるソフトなメッセージを発していた。バイデン大統領はまた「米中間の対立を衝突には発展させたくない」とも融和の態度を示し、習近平主席との首脳会談への期待をもにじませていた。となるとエマニュエル大使の習近平氏への敵対やあざけりはこの路線には反するわけだ。

今回のエマニュエル大使へのホワイトハウスからの警告についてはバイデン政権の当局者は公式にはこの報道を認めていない。しかしNBC側ではこの報道の情報をホワイトハウス内部の少なくとも3人の関係者から入手したと、強調した。

エマニュエル大使の自由奔放な政治活動ぶりは彼がオバマ大統領の首席補佐官を務めた時代から広く伝えられていた。なかでも自分の嫌いな政敵に腐った魚をプレゼント用の箱にきれいに包装して送りつけたという話は広範に知られていた。

(参考記事:次期駐日米大使の「死んだ魚」逸話

トップ写真:日米韓首脳会談に同席する、ラーム・エマニュエル駐日米国大使 (2023年8月18日アメリカ・メリーランド州キャンプデービッド)出典:Photo by Chip Somodevilla/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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