通年国会のススメ 「難局」なのに臨時国会3日間とは

樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)
【まとめ】
・参院選後の臨時国会はわずか3日間。本格論戦、内閣改造も先送り。
・岸田首相が「戦後最大の難局」というなら、なぜ「所信表明」で国民に解決策を示さないのか。
・短期間の国会は議員の任務放棄に等しい。いっそ「通年国会」にしてはどうか。
「戦後最大級の難局」(岸田首相)の中で召集された臨時国会の会期がわずか3日間とは驚いた。
8月3日に召集され、5日には閉会する。法案審議、与野党の論戦は秋の臨時国会に持ち越し、内閣改造も先送りされた。
新しい参院議員を迎えたあらたな体制の国会であり、物価高、コロナ対策、ウクライナ問題、台湾危機など議論すべき政策課題が山積しているにもかかわらずだ。国会議員としての任務放棄にも等しい。
「形式だけの国会」(朝日新聞)の召集でお茶を濁すような国会なら、いっそ通年国会に制度を変えてしまってはどうか。
■ 自民、本格論戦は不利と避けた?
臨時国会の会期をめぐっては、自民党側は当初から、参院の新議長選出など「院の構成」に限る3日間を主張していた。
物価上昇、コロナ第7波などで岸田内閣の支持率が低下傾向にあることなどから、本格的な論戦を受けて立つのは不利としり込みしたのかもしれない。
野党側は、論議のある安倍元首相の国葬の是非、根拠などについて論戦を交わすために「十分な会期」が必要と主張した。
最終的には、安倍氏の国葬、旧統一教会、新型コロナなどについての閉会中審査を行うという自民側の提案を共産党を除く野党が受け入れ、5日までの会期で決着した。
■ 過去には長い会期で法案審議も
参院選後の臨時国会は過去、短い会期で終わるケースが多かったのは事実だ。
しかし、例外がないわけではない。
平成10年7月12日に行われた参院選後の臨時国会は、7月30日から10月16日まで79日間という異例の長さとなった。
時代をさかのぼって昭和37年7月1日投票の参院選後の臨時国会は8月4日から9月2日までの30日間だった。
平成10年は、バブル崩壊後の金融危機のさ中に召集されたために、秋まで実質的な法案審議が精力的に行われ、金融再生法、金融早期健全化法などが成立した。
この国会は、召集前の参院選で自民党が大敗、橋本龍太郎首相が退陣して、国会初日に小渕恵三氏を新首相に選出、そのまま国会を継続したという稀有なケースだった。
■ いまこそ首相は国民に語りかけよ
今回の臨時国会が召集された8月3日、岸田首相は両院議員総会で、日本を取り巻く現状について「戦後最大の難局」ととらえ、その突破に「全力を尽くす」と力説した。
わずか3日間で、「戦後最大の難局」のどう乗り切るのだろうか。
日本は今、物価、コロナなどに加え、安倍元首相の殺害事件の記憶が生々しく、国民は何かしら強い不安を抱いているはずだ。
そうした時期こそ、首相は所信表明演説などを通じて国民に語りかけ、どう問題を解決し、国を導いていくのか説明すべきだろう。国民自身もそれを望んでいるはずだ。
指導者が国民に顔を見せることは、首相への支持、不支持いかんにかかわらず、安心感を与えるという効果をもたらすだろう。
会期3日間に簡単に賛成した野党にもおどろいた。
当初は「十分な審議を」と息巻いていたのに、安倍元首相の国葬問題、旧統一教会、コロナに関する集中審議を行うと提案されると、簡単に受け入れた。集中審議の日程が決まっていないにもかかわらずだ。
強硬姿勢はどこまで本気だったのか疑念を抱かせる。
■ 公安委員長の責任問わぬのか
内閣改造先送りも、首をかしげざるを得ない。
参院議員の任期が切れた2閣僚も、そのまま職にとどめることになるからだ。
法的には問題はないが、その中には二之湯国家公安委員長も含まれる。
このポストは、治安問題の責任者、安倍氏殺害についても進退を問われる立場にある。内閣改造に踏み切っていれば、穏便な形で更迭することができたろう。
国家公安委員長の職の重みは並ではない。
昭和35年の総選挙直前、浅沼稲次郎・日本社会党委員長(当時)が日比谷公会堂で演説中に刺殺された事件では、当時の山崎巌国家公安委員長が引責辞任している。
国家公安委員長というのは、それほどのポストなのだが、今回の決定には大いに疑問符が付くといわざるをえない。
■ 暑い夏に熱い論戦を
お盆が近いだけに新人議員は当選お礼を兼ねて地元回りに精を出したいだろう。ベテラン議員にとっても夏は、次の選挙に向けて選挙運動に精を出す〝繁忙期〟だ。
似合いもしない浴衣姿で盆踊り会場をはしごするくらいなら、浴衣を脱いで背広姿に戻り、国家、国民のため、暑い中での熱い〝真夏の夜の論戦〟に精を出すのも一興だろう。
■ 通年議会、よく働くアメリカの議員
アメリカの議会制度は日本とは異なるから単純に比較はできないが、原則通年審議。
夏休み、クリスマス休暇などの時だけ、リセス(休み)がある。原則として召集された期間だけ審議が行われる日本とは逆だ。
アメリカの議員はよく働く。
ひとつ例を紹介すると、モーニングビジネスといって、早朝、本会議が始まる前に、各議員が議場で議案などについて、自由に演説することができる。出席議員がほとんどいない中での演説は奇異に映るが、C-SPANなどで中継されるから、地元有権者にはアピールできる。
モーニングビジネスと銘打ってはいるが、夜でも構わない。深夜のテレビ、チャンネルを変えると突然議場で演説する議員の姿が目に飛び込んできたりする。「こんな時間に、まだやっているのか」と驚かされる。
今後の国会論戦では、憲法改正も大きなテーマになるだろう。自衛隊だとか教育改革とか環境などが、改正の焦点としてとりざたされている。
これに「通年国会」を加えてもらい、与野党で大いに議論してもらいたいが・・。
トップ写真:国連本部で開催されたNPT=核拡散防止条約の再検討会議で演説する岸田文雄首相(2022年8月1日、米国・ニューヨーク) 出典:Photo by Spencer Platt/Getty Images
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この記事を書いた人
樫山幸夫ジャーナリスト/元産経新聞論説委員長
昭和49年、産経新聞社入社。社会部、政治部などを経てワシントン特派員、同支局長。東京本社、大阪本社編集長、監査役などを歴任。

