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.経済  投稿日:2024/3/14

日産・ホンダ、EVで協業すべき理由


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・「日産がホンダとEVで協業検討」と報道された。

・両社を巡ってはかつて「政府が経営統合を模索」との報道もあった。

・日産にもホンダにもEV部品の共通化はメリットが大きいだろう。

 

きょう、「日産がホンダとEVで協業検討」と日経などが報道した。

EVの中核部品であるイーアクスルの共通化や共同調達、車台の共同開発などを模索する、としている。

日産側のリークだろうが、両社とも公式にはコメントしていない。日産は世界で初めてEV量販車「リーフ」を発売した。2010年12月のこと、今から13年も前のことだが、なぜかその後EVの車種を増やすでもなく、先行者利益を得るどころか、米テスラや中国EVメーカーの後塵を拝することになった。その間、カルロス・ゴーン被告を巡る社内闘争で忙しかったのかもしれないが。

ゴーン被告が日産の社長に着任し、当時試作車も完成していたHEVの開発を中止してしまったので、日産はHEVやPHEVでも出遅れた。苦肉の策としてeーPOWERというエンジンが発電するエネルギーのみで走行するシリーズ・ハイブリッド方式を採用し、車種も広げてそれなりの市民権を得たが、高速での燃費が伸びないのが難点とされている。

長年の懸案だった、ルノーによる株式支配のくびきからようやく逃れることができ、経営戦略を練り直している最中に出てきた案だろう。

一方のホンダ。相変わらず独立独歩の印象が強いが、2020年にGMとEVを共同開発するとぶち上げた時はさすがと感心したものだ。そのGM、EVに思いっきり舵を切って、2021年にメアリー・バーラCEOは、2035年には全車種をEVにすると表明、約60年ぶりにロゴをEVの充電プラグをイメージにしたものに変更する挙に出た。

そのGMとホンダが手を組んだのは、テスラを強く意識してのこと。量販型低価格EVの開発を進めていたが、2023年に計画中止を発表した。その間わずか3年。販売価格3万ドルをターゲットに世界戦略車となるはずだったのに、あっさり諦めるには早すぎる決断だった。GMと組むからこそスケールメリットが出るのであって、それ以外の会社と同じ規模感を出すのは至難の業と思えるのだが。

ということでホンダはみすみすGMとの量販型EV開発のプロジェクトから降りてしまったことで、EVを独自開発をするしかなくなった。そこに日産から秋波が送られた、ということなのだろう。

▲写真 歴史的なホンダF1カーがそろい踏みした、ホンダ本社前ギャラリー( 2015年2月10日 東京都港区)出典:Chris McGrath/Getty Images for Honda Motor Co.

プライドが高いホンダが果たしてこの話に乗るかどうかはわからない。しかし、どちらにもメリットがあることは明らかだ。日産もホンダも単独でトヨタに勝つことは不可能に近い。

トヨタの全方位政策(豊田章男会長はマルチパスウェイ、と呼んでいる)は盤石に見える。EV戦略ではテスラやBYDに比べて見劣りするものの、少なくとも現時点で最高益を叩きだしていることは事実であり、最近ではEVへの過度の期待がしぼんで、PHEVなどに強みを持つトヨタが見直されているのが現状だ。

トヨタ一人勝ちの状況下、日産とホンダが接近する理由は十分すぎるほどある。

しかも、両社にはかつて経営統合の噂もたったくらいだ。英FT(ファイナンシャルタイムズ)が2020年8月に、「日本政府関係者が昨年末に日産自動車とホンダの経営統合を模索していた」と報じたのは記憶に新しい。当時、仏政府が日産の経営権に介入する動きを見せたこともあり、日本政府内に警戒感からこうした案が浮上したとしてもおかしくはない。

かつて筆者が日産自動車にいたころ、VWの乗用車をライセンス生産したことがあるが。生産現場は苦労の連続だった。その割に得るものはほとんどなかったと技術部門はのちに述懐していた。ライセンス生産ですらそうなのだから、共同開発となるとさらに難易度は上がる。その後ルノー資本を受け入れた日産は、ルノーと車体の共通化などを進めたが、言葉の壁もあり、7割の目標は達成できなかった。外国企業との協業はことほどさように困難なのだ。

さて、GMから離れたホンダ。冷静に考えて、日産のEV技術はGMに先行している。そういう意味からも、ホンダにとってGMより日産と組んだ方がはるかにやりやすいし、メリットもあるだろう。車体まで共通化は無理かもしれないが、EV基幹部品やバッテリーの共同開発、共通化は間違いなくメリットがある。検討に値するのではないか。

自動車業界を巡る環境変化は日々刻々と変化している。今日のチャンピオンが明日、消えていてもおかしくないくらいだ。

いずれにしても、日産にしろ、ホンダにしろ、今のままではじり貧だ。このままでは、トヨタはもとより、テスラにもBYDにも勝てないだろう。思い切った経営戦略を取らなければ生き残れない。そんな曲がり角に今差し掛かっている。

トップ写真:日産自動車本社(2020年5月27日 神奈川県・横浜) 出典:Tomohiro Ohsumi/Getty Images




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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