中国市場から日本車メーカーが駆逐される日
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・北京モーターショーに日本車メーカー、EVやPHEVのコンセプトカーなど展示。
・中国市場は、価格競争激しくPHEVが爆売れ。
・日本車メーカーは商品開発で出遅れ、中国市場から駆逐される恐れも。
北京モーターショーが 4月29日~5月4日まで開催された。
ショー全体がEV一色となるなか、日本メーカーもEV新型車を発表した。各社の展示したモデルを見てみよう。
■ 日本車メーカーが今後投入するモデル
トヨタは、バッテリーEV(BEV)の新型車「bZ3C」と「bZ3X」を世界初公開した。この2モデルは今後1年以内に中国での発売を予定している。
「bZ3C」は、以前から噂になっていたBYDとの共同開発車。BYD TOYOTA EV TECHNOLOGY カンパニー有限会社、一汽トヨタ自動車有限会社、トヨタ知能電動車研究開発センター有限会社が共同開発し、「Reboot」をコンセプトに、アクティブで象徴的なスタイリングを採用したクロスオーバーBEVで、Z世代に訴求する機能を搭載した。
▲写真 上下共に Ⓒトヨタ自動車
一方、「bZ3X」は、トヨタと広州汽車集団有限公司、広汽トヨタ自動車有限会社、IEM by TOYOTAが共同開発し、心地が良い動く家を意味する「COZY HOME」をコンセプトにしたファミリー向けSUVタイプBEVだ。
トヨタ副社長・Chief Technology Officerの中嶋 裕樹は、「中国のお客様が笑顔になるBEVとは何か。このテーマを中国のパートナーとともに探求し、送り出すのが『bZ3C』と『bZ3X』」と述べた。
▲写真 上下共に Ⓒトヨタ自動車
一方、日産自動車は4車種の新エネルギー車(NEV)のコンセプトカーを公開、これまで公表していたよりも1車種多い5車種のNEVを2026年度までに中国市場に投入すると発表した。
▲写真 日産自動車の新エネルギー車4車種 左から、日産エラ・コンセプト、日産エヴォ・コンセプト、日産エポック・コンセプト、日産エピック・コンセプト Ⓒ日産自動車
「日産エポック・コンセプト」は、都市や郊外の走行を楽しみ、最新のデザインとテクノロジーで、ライフスタイルを向上させたい活動的な人に向けたEVセダン。AIで拡張されたIoTを備え、バーチャルパーソナルアシスタントとの感情豊かなコミュニケーションを通じて、より快適な生活を実現する、としている。
▲写真 日産エボック・コンセプト Ⓒ日産自動車
日産によると、「日産エピック・コンセプト」は、都市部のカップルに最適なEV SUVで、市街地でも高速道路でも自動運転が可能だとする。様々な機器やキャンプ場、パーティーでの電力供給が可能。
また日産は、新たなブランドキャンペーン「Excitement by Ni」を開始すると発表した。中国で知能化技術のリーディングカンパニーとパートナーシップを結び、知能化技術や、AIを活用したサービスを提供する予定だという。
▲写真 日産エビック・コンセプト Ⓒ日産自動車
「日産エラ・コンセプト」は、若いビジネスパーソン向け。このプラグインハイブリッドのSUVは、連動するエンターテイメントシステムとゼロ・グラビティシートを備えており、e-4ORCEとアクティブエアサスペンションを装備する。
▲写真 日産エラ・コンセプト Ⓒ日産自動車
「日産エヴォ・コンセプト」は、先進運転支援技術と安全性能を備えたPHEVセダン。AIによって機能を拡張したバーチャルパーソナルアシスタントを装備するという。
▲写真 日産エヴォ・コンセプト Ⓒ日産自動車
マツダ株式会社は、マツダが出資する現地法人「長安マツダ汽車有限公司が、新型電動車「MAZDA EZ-6(マツダ・イージーシックス)」、新型電動車のコンセプトモデル「MAZDA 創 ARATA(マツダ・アラタ)」を公開した。
「MAZDA EZ-6」は、マツダと合弁事業のパートナーである重慶長安汽車股份有限公司の協力のもと、長安マツダが開発・製造を行う新型電動車(新エネルギー車)の第1弾であり、2024年中に中国で発売される。スタイリングは、マツダのデザインテーマ「魂動(こどう)―Soul of Motion」にもとづき、長安汽車が有する電動技術やスマート技術と組み合わせた。BEVとPHEVの2機種を設定した。
▲写真 MAZDA EZ-6(マツダ・イージーシックス)(市販予定車:エアログレーメタリック外板色)Ⓒマツダ
▲写真 MAZDA EZ-6(マツダ・イージーシックス)インテリア Ⓒマツダ
「MAZDA 創 ARATA」は、「前向きに今日を生きる人の輪を広げる」というマツダの企業理念にもとづき、新たな価値創造に挑戦したコンセプトモデル。動きを感じさせる造形の中に、モダンかつプレステージアスな印象を与えるクロスオーバーSUVは、先進的なものを好む中国のお客様に向けた提案だとしている。第2弾の新型電動車として2025年中に量産化して、中国市場に導入予定。
▲写真 MAZDA 創 ARATA Ⓒマツダ
Hondaは、「烨(yè:イエ)シリーズ」を発表。烨シリーズの第1弾となる「烨P7(イエ ピーセブン)・烨S7(イエ エスセブン)」と、第2弾のコンセプトモデルとなる「烨GT CONCEPT(イエ ジーティーコンセプト)」を世界初公開した。中国で2027年までに6機種投入予定だという。
▲写真 左から、烨S7、烨GT CONCEPT、烨P7 ⒸHonda
烨シリーズ第1弾モデルとなる烨P7・烨S7は、新開発のEV専用プラットフォームを採用、1モーターによる後輪駆動モデルと、2モーターによる四輪駆動モデルを設定。烨P7と烨S7は2024年末以降の発売を予定だ。
■ 日本車メーカーの中国戦略の遅れ
こうして日本車メーカーの中国戦略を見てくると、いかにも遅きに失した感がある。まず、トヨタ、日産、マツダ、Honda、どのメーカーも新型車はこれから発売するものばかりだ。
トヨタは、BYDなどの中国EVメーカーとEVを共同開発したが、発売は1年後だ。そのBYD、日本では参入したばかりで知名度はゼロだが、すでに世界中でEVを売りまくっている。2023年にはすでに世界販売が300万台に乗せ、テスラを抜いてEV販売世界一の座についた。そのBYD、今度は中国市場で、「電比油低(電動車はガソリン車より安い)」という挑戦的なコピーを掲げ、EVとPHEVで猛烈な値引き競争を仕掛けているのだ。
BYDの今年4月の新車販売台数は、前年同月比49%増の31万3245台。全体の大半を占める乗用車のうち、PHEVは69%増の17万7583台、EVは29%増の13万4465台だった。値下げ効果でPHEVを中心に売れまくっている。
それもそのはず、BYDの価格戦略はえげつないといっていいだろう。中型セダンである秦PLUSのPHEV「秦Plus DM-i」は、去年10万元を切る9万9800元(約220万円)に価格設定した。それでも十分安いが、今年2月の2024年モデルは、なんと7万9800元(約176万円)に値下げした。約44万円も値引きしたのだ。当然、他の中国メーカーも追随せざる得なくなった。
日本ではEVもPHEVもほとんど普及していないので想像もつかないだろうが、中国ではエントリーモデルとしてもはやガソリン車は選ばない、という段階に来ているのだ。
それなのに日本車メーカーのEVやPHEVは中国市場にこれから投入する段階なのだ。しかも、中国EVメーカーの価格レベルを到底達成できないだろう。このままでいくと、日本車メーカーは、早晩、この巨大な中国市場を諦めなくてはいけないことになる。
そうしたなか、BYDはさらに高性能なプラグインハイブリッドシステムを近々市場に投入する計画だ。この第5世代DM-iを搭載した秦Lは、秦Plusより一回り大きいセダン。バッテリーで走行距離は100キロ〜200キロになり、100キロあたりの燃費が2.9リットルを達成、その結果、満充電・満タンで総走行距離は2000km以上に達するという。本当なら日本のPHEVは太刀打ちできない。価格でも性能でも、だ。
このように日本の自動車メーカーは中国市場で危機的な状況にあるのに、円安のおかげで過去最高益だなどと浮かれた記事ばかりが配信されている。中国市場を失うことも大変だが、BYDなどの中国EVメーカーは北米市場も欧州市場もすでに射程圏内に捉えている。虎視眈々と日本車のシェアを奪おうとしているのは明々白々だ。
日産とホンダが戦略的提携を発表したが、オール日本で戦わないともはや手遅れなのではないか。筆者のそんな心配が杞憂に終わればいいのだが。
トップ写真:ジュネーブモーターショー2024に展示された、BYDのヤンワンU8プレミアムエディションプラグインハイブリッドSUV(左)とBYDシールUDM-I DセグメントプラグインハイブリッドSUV(右)2024年2月26日 スイス・ジュネーブ 出典:John Keeble/Getty Images
あわせて読みたい
この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。