【ファクトチェック】「海外の観光地は、母国語と英語の表記のみ」→誤り
【まとめ】
・Xに「海外の観光地は、母国語と英語の表記のみ。日本語での表記は見たことない」というポスト(削除済)がなされた。
・しかし諸外国は公共交通機関の看板やパンフレットなど、至るところに日本語表記を導入している。
・従って、「海外の観光地は、母国語と英語の表記のみ。」というポストは、「誤り」と判定する。
2月3日に以下がXに投稿された。
■ 疑義言説
「海外の観光地は、母国語と英語の表記のみ。 日本語での表記は見たことがない。中国語と韓国語の表記のためだけに日本国民の血税を投じる意味がどこにあるのか分からない。」
https://twitter.com/tezheya/status/1753541707063505144
このポスト(すでに削除されている)は、2024年2月2日時点で27.3万件の表示、7158いいね!がついており、1712リポストされている。
以下は削除前のポストを保存したものである。
https://megalodon.jp/2024-0204-1102-17/https://twitter.com:443/tezheya/status/1753541707063505144
ポストは、以下の別のアカウントのポストを引用してリポストしたものだ。
https://x.com/masa_m349/status/1753236043565039789?s=20
そのポストは、国の「地域観光資源の多言語解説整備支援事業」について言及している。観光庁では、訪日外国人旅行者の滞在満足度向上を目的に平成30年度よりこの事業に取り組んでいる。令和6年度予算は6億円である。
では実際に海外の観光地では「母国語と英語表記のみ」なのだろうか?ファクトチェックする。
■ ファクトチェック
・韓国
韓国では、空港をはじめ、ソウル市などにある観光案内所には、日・英・中の3か国表記の看板がかかっている。案内人も、韓国語の他に、日・英・中の3か国語に対応している。
東大門(トンデムン)などの東南アジアの観光客が多い地域は、タイ語ができる観光案内人を配置するなど、客層や対応時間により配置人数や言語を決定している。また、ロシア語ができる案内人を配置している案内所もある。出典)国土交通省「海外事例調査の概要について」
▲写真 明洞観光情報センターの外観。日本語、英語、中国語表記がされている。出典:ソウル観光財団
公共交通機関はどうかというと、ソウル特別市内の駅構内の看板も、日・英・中、3か国語で表記されている。
▲写真 ソウル駅ホームの看板。韓国語以外に、日本語・中国語・英語で表記されている。ヨクは「駅」の意。これは日本語に訳されていなかった(2023年8月14日)ⓒJapan In-depth編集部
外国人観光客の多い東大門エリアの飲食店の看板も複数言語で表記がなされている。
▲写真 東大門の飲食店の看板。こちらは日本語・中国語・英語に加えてタイ語などの表記もされていた(筆者撮影)
他の国はどうだろうか。
・フランス
「案内所の対応言語については、必置言語を決めているわけではない」としたうえで、主にドイツ、イタリア、スペインから複数言語に対応できるスタッフを採用することで、英語以外の言語でも対応出来るような整備ができている。
パンフレットについて、パリなどの都市部では「英・独・伊・西・日・韓・中・露等の10か国に対応」したものが置かれている。一方で、地方部では英語のみの場合も多い。出典)国土交通省「海外事例調査の概要について」
パリ市内の地下鉄(メトロ)の表示板は英語、スペイン語、ドイツ語などでも表記されている。筆者も聞いたことがあるが、1番線では、「スリにご注意ください」というアナウンスに日本語も入っている。(しかも、複数言語の内、最初の方に流れてくる)バス停などでも複数言語に対応している。
▲写真 フランスの地下鉄の案内板 フランス語のほか、英語、西語、独語などで表記されている。 出典:Owen Franken/GettyImages
・イギリス
イギリスもフランスと同様に「案内所の対応言語については、必置言語を決めているわけではない」が、フランス、ドイツ、イタリア、スペインから複数言語に対応できるスタッフを採用し、複数言語に対応できる体制を整えている。パンフレットについても、ロンドンなどの都市部では複数言語で表記されている場合もあるが、 Winchester等の地方部では英語のみの表記である場合が多い。(出典:海外事例調査の概要について 韓 国 フランス イギリス)
・アメリカ
アメリカでは、ロサンゼルスにおけるリトルトーキョーをはじめとする日本人街を除き、公共交通機関などにおける標識や看板の日本語表記は見受けられない。ニューヨークの地下鉄のメトロカード券売機で、主要駅にあるものが中国語や日本語に対応しているものがあるが街中ではほとんど英語表記のみだ。基本的に米国を訪れる人は英語を理解するだろう、というこの国の考え方に基づいているかのようにみえる。例外的に、フロリダなど南米の移民が多い州の空港では、スペイン語表記がメインになっていることもある。
■ 判定
以上、多くの国で、公共交通機関や案内所など、多言語対応している場所は存在する。よって、「海外の観光地は、母国語と英語の表記のみ。」というポストは、「誤り」と判定する。
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トップ写真:地下鉄 江南駅(カンナム)の表示板。韓国語、英語、中国語、日本語(カタカナ)で表記されている(韓国・ソウル)ⓒQju Creative・Getty/mages