「調査委員会にすべてを委ねる」は通用しない フジテレビは説明責任果たせ

【まとめ】
・中居正広の女性トラブルを巡りフジテレビ社長が初会見。
・会見は閉鎖的で、ほとんど新しい事実が出なかった。やる必要があったのか。
・調査委員会を一日も早く立ち上げ、トラブルの背景を明らかにし、今後の防止策を示す必要がある。
タレント中居正広の女性トラブルを巡り、フジテレビの港浩一社長は、初めて記者会見し、関係者に多大な迷惑をかけたと陳謝するとともに、新たに第三者の弁護士を中心とした調査委員会を立ち上げ、事実関係や会社の対応について検証すると明らかにした。
約1時間45分に及んだ会見は大きな問題を孕んでいる。
その最たるものは、会見が極めて閉鎖的なものだったことだ。参加できたのは、全国紙やスポーツ紙が加盟する「ラジオ・テレビ記者会」所属の社や、NHKと民放テレビ局などに限定され、週刊誌やネットメディア、フリーランスなどは参加できなかった。問題が発覚してから初のトップの会見だったにもかかわらず、一部メディアだけを対象にしたことや、動画撮影NG、中継も無しというテレビ局主催の会見とも思えない縛りで、批判が殺到した。
問題の2つめは、社長が顔を出したこと以外、ほとんど何も新しい事実が出なかったことだ。唯一新しかったのは、第三者を入れた調査委員会を発足させ、事実関係を明らかにしていく、としたことぐらいだ。それだとて、メンバーがだれなのか、いつから何を対象に、どう調査していくのか等は明らかにされなかった。
危機管理の世界では、社長会見は最後の手段だ。企業トップが顔を出して発言するからには、後戻りできないからだ。そういう意味から記者会見はその目的が極めて重要なのだ。なんのために会見をやるかを企業は第一に考えねばならない。
もし会見の目的が、視聴者やスポンサーを含めすべてのステークホルダーに対する謝罪なのであれば、せめて調査員会が発足し、何を明らかにするかを明確に述べることができるタイミングで会見すべきだろう。
また本トラブルに関するあらゆる憶測や、フジテレビに対する誹謗中傷を否定するのが目的なら、それら一つ一つに対し事実関係を明らかにすることができるタイミングで会見すべきだ。
これら2つの目的での会見でないのなら、今回の会見は何のために開いたのか、極めて曖昧だ。筆者はむしろやらない方が良かったと思う。
港社長は会見冒頭、「視聴者の皆様を始め、関係者の皆様に多大なご迷惑・ご心配をおかけしています」と述べた所を見ると、関係者に対するお詫びが主な目的だったようだが、何も明らかにしないなかで、何をお詫びしているのかわからない会見だった。
そもそも一番の被害者は性加害を受けたとされるX子さんであり、フジテレビとしてはそのような事態を防げなかったことに対して謝罪すべきだった。しかし港社長は、X子さんへの謝罪は口にしなかった。残念に思ったのは筆者だけではないはずだ。
案の定、会見の効果はなく、大手スポンサーのCM差し止めが相次いでいる。今後、スポンサー離れが加速するようだと、業績にも影響が出てくるだろう。
また、社員の間にも動揺が広がっていることが窺える。このトラブルについて経営トップから社員に説明が十分なされていないからだ。
フジテレビ系「Live News イット!」で、宮司愛海アナウンサーは、社長会見後、以下のようにコメントし、社員に対する説明をしっかり行なうことを求めた。
宮司アナは「一連の問題の大元、根本に一体何があったのかということを、しっかりと第三者の目を入れて調べてもらう、そして会社が生まれ変わる一歩にするべきだという風に私は感じています。信じてくださっていた視聴者の皆様に対する、あるべき姿勢だとも思います。
それから、一連の報道をめぐって、意図しない目を向けられて傷ついている仲間が多くいます。とてもつらくて、自分たちで説明もできないといった、とてももどかしい状況に置かれています。
今回の会見は社員を含めて、全面的に公開はされませんでしたけれども、会社に対しては調査はもちろんですけれど、社員に対する説明もしっかりと真摯に行って、それを真摯に公表してほしいと思っています」。
実際に、食事会とフジテレビ社員の関与はなかったのか、過去に同様のトラブルはなかったのか、社内のコンプライアンスは機能していたのか、なぜこうしたトラブルを未然に防げなかったのか、など、調査委員会が明らかにすべきことは多い。調査委員会の第三者性が担保されないのではないか、との指摘があることもわすれてはならない。
示談の守秘義務があるなかで、調査委員会がどこまで明らかにできるか不透明だとの見方もあるが、守秘義務はあくまで当事者間の話だ。フジテレビは説明責任を免れ得ない。できる限り早く調査結果を公表し、二度とこうした問題が起きないような体制を築くことを期待したい。
今回毀損した評判は過去に類を見ないものだ。報道機関としての信頼も揺らいでいる。経営陣だけでなく、社員も危機感をもって対応しない限り、事態はさらに悪化するだろう。
冒頭写真)フジテレビ本社
出典)TkKurikawa/GettyImages
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。
