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.国際  投稿日:2025/1/27

リベラル左派の将来は暗い?!


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

古森義久の内外透視

【まとめ】

トランプ氏の再登場により、米国内外で政策や情勢が大きく変化。

・保守主義の台頭に伴い、進歩派は重税や規制が批判され支持を失いつつある。  

・米欧では一般国民に直接に訴える本来の「大衆直訴主義」としてポピュリズムの政治主導が効果を上げてきた。

 

アメリカに共和党保守派のドナルド・トランプ氏が第47代の大統領として登場してまだわずか1週間ほど、それでもアメリカ国内でも国際情勢でも、トランプ氏の新政策が目にみえる形で大きな変化を起こしている。

アメリカ国内では大量な不法入国者たちの国外への追放、男女の性別を認めないようなLGBT文化の抑制、エネルギー利用での石油やガス、石炭などの大復活など、国際面ではトランプ氏の「力による平和」を基礎とする強固な姿勢でのイスラエルとハマスの停戦実現、ウクライナ戦争でのロシアのプーチン大統領の軟化傾向、中国首脳部のトランプ新政権への融和姿勢、そしてその余波としての中国の日本への微笑外交などなど・・・

アメリカ国内も、世界情勢もトランプ大統領の再登場で大きく変わり始めたことは否定のしようがない。しかもその変化の方向が混乱や低迷を減らし、健全な秩序や期待の回復へ、というふうにみえるのだ。もちろんまだまだ全体の帰趨はわからない。なにしろトランプ氏の保守主義統治は始まったばかりなのだ。

しかしアメリカ大統領の選挙までは、トランプ氏には酷評が浴びせられていた。アメリカでも日本でもそうだった。「トランプ氏は民主主義への脅威」「トランプ氏は同盟関係を放棄して、孤立主義の道を歩む」「トランプ氏はウソつきで、ヒトラーと同じ」・・・

こんな言辞が「識者」たちからぶつけられていたのだ。

しかし選挙の結果自体がトランプ氏の勝利だった。アメリカ国民の多数派はそんなトランプ氏への悪口雑言を排したのだ。そしてトランプ氏を叩いてきた民主党リベラル左派へのノーを明示したわけである。その結果、そのリベラル左派から自分たちの推進してきた思想や統治への暗い見通しが語られるようになった。

トランプ氏が圧勝したいま、その反トランプ陣営の論客から「進歩的とされてきた左派の政治勢力こそが真の危機に瀕しているのだ」という警告が発せられたのである。

左派の挫折の自認とも呼べるこの見解を発表したのはリベラル派の著名な評論家ファリード・ザカリア氏だった。ニューズウイーク誌国際版の編集長を経て、ワシントン・ポストのコラムニストなどとなったザカリア氏は1月4日付の同紙にこの論評を発表した。

▲写真 新著『革命の時代:1600年から現在までの進歩と反発』のブックトークをするファリード・ザカリア氏(4月3日ニューヨーク)出典:Shahar Azran/Getty Images

ザカリア氏の評論はリベラリズムを主唱し、保守主義を批判する基本姿勢は明白だが、鋭く豊かな発想や表現で幅広い評価を得てきた。トランプ氏はその陣営の保守主義政策にも長年の手厳しい批判を浴びせてきた。しかしそのザカリア氏も最近ではアメリカ国民の多数派の保守志向を意識したのか、嫌悪の感情だけでトランプ氏を叩く風潮の「反トランプ錯乱症候群」(Trump Derangement Syndrome:TDS)の欠陥をも認めようになっていた。

ザカリア氏は今回の評論ではアメリカ国民の多くが「進歩的とされる政治家たちに重税や過剰な規制を課され、脅かされる」ことへの不満を高めたと述べ、その結果がトランプ氏の圧勝をもたらした、と論じていた。その変化の具体例としてザカリア氏は民主党統治のニューヨーク州と共和党統治のフロリダ州の政治状況や住民の態度を比較していた。その比較では、両州の住民への税負担、治安、インフラ、教育、不法入国者の扱いなどでフロリダ州がニューヨーク州よりもはるかに円滑かつ効率的だと強調していた。つまりこの両州でみるかぎり、保守主義の統治がリベラリズムの統治よりも当の住民たちに満足をより多く与えている、という指摘だった。

同様の指摘はウォールストリート・ジャーナルの2024年12月末の「グローバル政治での進歩派の時は終わった」という見出しの長文記事でも明示された。同紙の数人の記者と論者によるこの報道は地球温暖化防止優先、移民寛容策、社会福祉重視の「大きな政府」、人種や性別による出自政治などを特徴とするリベラル政治はアメリカだけでなくヨーロッパ諸国やカナダでも多数派の信を失ってきたことを詳しく伝えていた。

同報道は米欧いずれでもポピュリズムの政治主導が効果をあげてきたことも強調していた。ただしこの場合のポピュリズムとは日本の主要メディアの多くがよく使うトランプ氏批判をにじませた「大衆迎合主義」という解釈ではない。既成の政治勢力やエリート層へのアピールを主とせずに一般国民に直接に訴える本来の「大衆直訴主義」であることを力説していた。

この点では日本の主要メディアではトランプ氏を叩くという前提の論者がポピュリズムという言葉をきわめて偏った「大衆迎合主義」というネガティブな訳を適用することが定番となってきた。だがトランプ氏の手法を「迎合」と断定はできないし、ポピュリズムという言葉には「迎合」を含まない、ごく民主主義的な大衆への直接直截なアプローチをも意味するである。

同報道はカナダではトルドー首相よりトランプ氏の人気が高いことを示す世論調査をも紹介していた。

一方、ザカリア氏は今回の大統領選で全米3千ほどの郡の9割近くで共和党への投票が前回、前々回より増えたことをあげ、民主党の奮起をも訴えた。「文化的エリートを守り、覚醒(ウォーク)思想を保ち、膨張した政府を続ける限り、永遠の野党になる」という声援であり、警告だった。

トップ写真:勝利集会で演説をするトランプ氏(1月19日ワシントンDC)出典:Scott Olson/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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