フジテレビ 「日枝体制に終止符」打てるか? 再生への道険しく

安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・1月27日フジテレビはやり直し会見を実施、10時間超の長丁場となり紛糾した。
・社長、会長の辞任にとどまり、新体制とはならなかった。
・フジテレビ再生のためには、「日枝体制」に終止符を打たねばならない。
昨日27日、10時間超にわたって行われたフジテレビの会見。フルオープン、かつ時間無制限、自局フル中継(10分間ディレイ有)という前代未聞の記者会見となった。
17日に行われたクローズドの会見に対する批判を受けた「やり直し」会見だったが、なかだるみも甚だしく、途中罵声と怒号が飛び交うなど、とても再生に向けての道筋を描けたとは言えないものとなった。
中居正広と女性(X子)さんとの間に起きたトラブルを巡るフジテレビの対応とガバナンスの問題について、同社は今回の会見で区切りをつけ、スポンサー離れのドミノとフジサンケイグループに対する厳しい社会の批判に終止符を打ちたかったはずだ。
結論は、1回目の会見同様、「失敗」だった。その思惑は完全に外れたといっていいだろう。
失敗の最大の原因は、前回の記事(フジテレビ解体的出直しのカギ「経営刷新」できるか 1月24日)で指摘した、「日枝相談役を含む現役員体制の刷新」がなかったことだ。
ふたを開けてみれば、想定通り、フジテレビの港浩一社長と嘉納修治会長(フジ・メディア・ホールディングス会長兼任)2人が27日付で辞任しただけで、新社長はFMH専務の清水賢治氏が就任するという通常の繰り上がり人事。結局、日枝久氏のグループ内の影響力は残ったままとなった。
グループ内の人事は日枝氏が握っており、誰も日枝氏には意見を言えない状態が続いていることは周知の事実。それが社内の空気を澱ませ、風通しを悪くし、改革の芽を摘むことにつながっている。むろん会見で嘉納会長が繰り返していたように、日枝氏がすべての経営課題に関与しているわけではないだろうが、重要課題についてはお伺いを立てているはずだ。今回の会見についても、「このように行います」と幹部は事前に日枝氏の了解を得ているはずだ。
今回のトラブルでフジテレビは致命的なミスを犯した。1つ目は港社長が自分と一部の人間だけに情報をとどめ、コンプライアンス室(遠藤龍之介フジテレビ副会長が担当)に知らせなかったことだ。
企業のトップは、企業倫理やコンプライアンスを遵守する責任がある。重大な犯罪行為があったとして、それを隠蔽することは、経営者としての責任を著しく放棄する行為であり、厳しく責任を問われるべきだ。ことの重大性を理解していたら、情報を自分のところに止めおくような愚は犯さなかったはずだ。企業としてガバナンスが全く効いていないことが露呈したという意味において罪は重い。
2つ目は、中居正広とX子さんに深刻なトラブルが起きたことを知りながら、中居を番組に使い続けたことだ。
港社長は、急に番組を打ち切るとX子さんに刺激を与えることになるので躊躇した、というような言い訳を繰り返したが、これを額面通りにとらえる人はいまい。どう考えても、中居を番組に使い続けることを優先した結果だとしか思えないではないか。画面に中居が出続けていることでX子さんはむしろ二次被害を受けていたことになる。本来、即座に中居にヒアリングをし、番組を打ち切るべきだったのに、それをしなかった。フジテレビは、安全配慮義務を放棄し企業の利益を優先する会社であるとの印象を広く社会に流布したことは致命的なミスだ。
3つ目は、週刊誌報道などで渦中の人となった編成局幹部A氏の今回の事件への関与を早々に否定したことだ。
27日の会見では、フジテレビは去年末の報道を受けて、本格調査を開始し、社員Aに複数回聞き取りを行うとともに、スマホのショートメッセージやLINEの通信履歴のチェックを行った結果、当該食事会のセッティングにA氏は関与しなかったと結論付けた。また、中居氏からも社員Aは関わっていないとの回答を受けたとした。一方で、事実関係の認定については第三者委員会の調査に委ねるとしている。
かりにA氏が中居とX子さんのトラブルとなった会のセッティングに関わっていなかったとしても、港社長の誕生パーティーを主催し、X子さんを誘っており、こうした行為は常態化していたことが明らかになっている。そうしたことから、多くのメディアの疑念は払拭に至っていない。フジテレビがA氏の関与を否定したのは、時期尚早だったのではないだろうか。こうした不祥事が起きた時の対応がちぐはぐであり、危機管理対応がなっていない会社であることが白日の下にさらされてしまったという意味において、こちらも大きなミスだ。
■ 危機管理会見としてのミス
さてここで、危機管理の観点から27日の会見のミスを挙げよう。
1つ目は、準備不足だ。それを言ったら元も子もないが、港社長の答弁だ。これは改善の余地大だった。まず、目線が終始下向きだった。正面を見ることがほとんどなく、考え込んでは言いよどむシーンが多かった。発言に自信が持てない印象を与えてしまった。事前にリハーサルは行わなかったのだろうか?通常はリハの映像を撮り、フィードバックすると思うのだが。
2つ目は、表に出せないことの確認が不十分だったことだ。中居とX子さんの間にあった「異なる認識」について遠藤副会長は「意思の一致か、不一致ということかと思います」と説明してしまった。つまり二人の間のトラブルに同意か不同意か、認識の違いがあったことを認めたことになる。その後遠藤氏は、「同意の有無という言葉を撤回し、その内容は『お答えできない』と訂正させていただきます」と発言したが、これに納得のいかないフリーのジャーナリストが経営陣を30分ほど問い詰めることになった。本来言ってはいけないはずの内容を口走ったために混乱を引き起こしてしまったのは明らかに準備不足だった。
3つ目は、会見進行の稚拙さだ。会見のお尻を決めなかったために、10時間超というとんでもない長丁場になった。幹部はみな高齢であり、トイレ休憩は1回しかなかった。先の同意の有無問題でフリージャーナリストに責め立てられたとき、幹部は黙りこくり、司会の広報局長もこのジャーナリストを制することを放棄した。おそらく、開始から数時間たち、みんな集中力が切れてしまったのだろう。途中で休憩を入れる、司会者を2人体制にしておく、など臨機応変に対応すべきだった。また、6時間ほどたったら次回の会見をセッティングして終わらせることも考えてよかったとも思う。どうせ、あの内容では紛糾することは必定だったのだから。
4つ目は、フジテレビ報道局の記者の質問を途中で司会者が打ち切ったことだ。フジテレビの記者が厳しい質問をし始めた時、他社のスチルカメラマンが一斉に動き、彼の写真を撮り始めた。それだけ他のメディアにとってニュースバリューのある場面だった。それなのに、2問ほど聞いたところで、司会者が質問を打ち切ったのだ。そのままその記者も質問し続けるかと思いきや、黙ってしまった。身内が経営幹部を追求する場面を社会に知らしめるチャンスだったのに、それを自ら放棄した。だれかが司会を制して質問を続けさせるべきだったと、こころから残念に思った。
以上のように、危機管理の観点からミスが目立った会見だった。普段から経営幹部がメディアトレーニングを受けていないことが明らかになった。
■ フジテレビは挽回できるのか?
大変厳しい状態に追い込まれたフジテレビだが、挽回のチャンスはまだわずかながら残されている。
それは、「日枝体制」に終止符を打つことだ。それこそ、フジサンケイグループが社会に対し、変わる覚悟を示す唯一の手段だ。
日枝氏にはこれまで同グループの繫栄を主導してきた自負があるだろう。辞任することは屈辱だと思うかもしれない。しかし、今回身を引くことは決して敗北ではない。新生フジテレビへの道を拓くための名誉ある撤退だ。過去、幾多の名経営者が意に添わぬ形で身を引いてきた。人に追われてグループを去るような、晩節を汚す最後は望んでいないはずだ。自ら身の処し方を決め、後進に道を譲る英断を見せてほしい。
残された社員は死に物狂いで会社を再生するはずだ。今の状態をほっておけば、実力のある社員はどんどん辞めていくだろう。そういう例を私はいくつも見てきた。そうなる前に、手を打たねばならない。残された時間は少ない。
トップ写真)日枝久会長(2023年9月12日)ホワイトハウスのイーストルームで開催された高松宮殿下記念世界文化賞受賞者を祝うイベントにて。
出典)Anna Moneymaker/Getty Images
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。
