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.国際  投稿日:2023/6/11

アメリカはいま――内政と外交・ワシントン最新報告 その14 郵便投票というカギ


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・コロナ禍で大統領選挙の様相が変化、郵便投票が鍵に。

・中国に対する議論が米議会、研究機関、メディアで展開されている。

・強硬なアメリカの対中政策というのはトランプ政権が宣言した。

 

いま述べたようなリベラルの過激派に対して正面から立ちふさがったのがドナルド・トランプという人物です。だから、トランプ氏に対する左派からの憎しみ、敵意というのはものすごく強いものがあるのです。だけれども、まあ全体としては振り子ですから、トランプ支持層の勢いも強い。やはり民主主義の枠組みは崩れていないといえます。

アメリカの大統領選挙というのは、だいたい、民主党共和党、どんな候補が出てきても自分は本来、支持する政党の候補に必ず投票しますという人たちが多数いるわけです。民主党側、共和党側それぞれが全投票のうちの3分の1ずつといえます。残りの3分の1がその時その時で判断する。いわゆる無党派層です。この層を共和・民主のどっちが多く取るかによって大統領選の結果は決まってしまう、というのがずーっと長い間のメカニズムだったのです。

ところが、前回の投票から、不在投票郵便投票というのがどーっと増えました。コロナで郵便投票がまず増えたのだけれども、これは民主党がお得意の領域なのです。この部分では不正というのはたくさんあります。これは、実際に見つかって起訴されている例がたくさんあります。ただ、トランプ氏が言うように、大統領選の結果全体を覆すほどの多くの不正があったかどうかといえば、これはなかっただろうという判断になっているわけです。

郵便投票というのは不在投票の一種です。これをどうするかというのが大きな課題です。例えば、死んだ人の名前で郵便投票をする。郵便投票を集める人に問題がある。民主党側では郵便投票を集めることを穀物を収穫するハーベストという言葉を使って、表現しています。自分たちが育てた穀物を自分たちで自由に集めるという意味がこめられています。

ハーベストをする収穫人を自分たちで決めてしまって、回って集めてくるのです。それは本当にちゃんとした資格のある人かどうかはわからない。この辺は共和党も気にしていろいろな対策を打っているのです。2020年の大統領選挙では重大な課題でした。それが今後の大統領選挙でもカギとなるわけです。

いまトランプ氏の勢いについて述べましたが、民主党側でもまだまだ強い母体があります。例えばニューヨーク州の民主党の強さ、そしてカリフォルニア州でもどんなときでも民主党が必ず勝ちます。もう1つ民主党が必ず勝つのはハワイです。

われわれ日本人からしてアメリカってなんだと見ると、ニューヨーク、カリフォルニア、ハワイって、一番馴染みのあるところです。そこは大統領選挙では誰が出てきても民主党が勝ちます。共和党の候補はそれらの州にはもう選挙運動に行かないのです。

ですから、民主党は決して侮れない、まだまだ力は強いということです。共和党側もトランプ氏のもとでまとまっていくかどうかはまだわからないけれども、民主党の考え方には絶対反対という層ががっちりと存在しています。

■ アメリカ外交の現状

対外政策に話を戻します。

さきほど、中国、中国と申し上げましたが、驚くほど中国に対する議論がアメリカの議会、研究機関、メディアで展開されています。バイデン政権もそれに乗るようなかたちで、中国のアメリカへの進出、あるいは東南アジア、あるいは日本に対する、いろいろなかたちで出てくる動きを抑える。あるいは、中国内部での人権抑圧。ウイグル、チベットといったところで少数民族が弾圧されていることは間違いありません。これに対して制裁を加えるということをかなり勢いよくやっています。

結局、いまの強硬なアメリカの対中政策というのはトランプ政権が宣言したのです。トランプ政権が出てきて、しばらくして、歴代のアメリカの政権の対中政策は間違っていた、と宣言しました。一番いい例がオバマ政権です。歴代の政権の対中政策というのは、一言で言うと関与(エンゲージメント)です。中国というのはまだまだ貧しくて弱い。だから、いくらか豊かにして強くすれば民主主義的なほうに近づいてくるのではないか。アメリカが先頭になって営々と築いてきた国際秩序のなかに普通の一員として入ってくるのではないか、という期待がありました。

(その15につづく。その1その2その3その4その5その6その7その8その9その10その11その12その13

**この記事は鉄鋼関連企業の関係者の集い「アイアン・クラブ」(日本橋・茅場町の鉄鋼会館内所在)の総会でこの4月中旬に古森義久氏が「アメリカの内政、対中政策――ワシントン最新報告」というタイトルで講演した内容の紹介です。

トップ写真:ペンシルベニア州のコンベンションセンターで、投票用紙を数える職員たち(2020年11月6日アメリカ・ペンシルベニア州)出典:Photo by Chris McGrath/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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