印タタ、英国でバッテリーセル工場建設へ
中村悦二(フリージャーナリスト)
【まとめ】
・タタ・サンズ、英にEV用バッテリーセルの“ギガファクトリー”建設。
・2026年生産開始、傘下ジャガー・ランドローバーのEVに搭載。
・スナク英首相は「経済成長に貢献する」と歓迎。
インドのタタ財閥の持株会社、タタ・サンズは英国に電動車用バッテリーセルの“ギガファクトリー”を建設する。投資額は40億ポンド(約7,290億円)だ。具体的には、タタ・サンズ傘下の英高級車メーカーであるジャガー・ランドローバーが行う。建設地はイングランド南西部のサマセット。
ギガファクトリーは米国の電動自動車メーカー、テスラの共同創業者兼最高経営責任者(CEO)であるイーロン・マスクの造語とされるが、10億の単位であるギガに由来する。
当初の年産能力は40ギガワット時、従業員規模は4千人とされる。
ロイター電によると、生産開始は2026年で、バッテリーはジャガー・ランドローバーの「レンジローバー」、「ディフェンダー」、「ディスカバリー」、「ジャガー」ブランドの電池式電動車に搭載するという。
ジャガー・ランドローバーのこの件の発表時であった7月19日に、同社工場を訪れたインド系のリシ・スナク英首相は「これは、わが国の自動車製造業界の強さと熟練労働者に対するタタ・グループの信頼の証し」とし、環境汚染や気候変動をもたらす廃棄物を出さないゼロエミッション車へのグローバル規模の移行が進展している折「経済成長に貢献する」と述べた。
■時代の変遷を感じさせる動き
タタ・グループの自動車部門を担うタタ自動車のプネ工場(マハラシュトラ州)を訪れたことがある。1985年のことだが、車体下部は掘り込み部から作業できる組み立て工場で、日本のメーカーの工場に似ているのに驚いた。工場の関係者に聞いたところ、豪州市場を撤退した日産自動車の設備を買い取り移転したとのことだった。似ているわけだ。
現タタ・サンズ名誉会長のラタン・タタが、戦前からタタ・グループを率いてきたJ・R・D・タタから時期後継者に指名されグループの陣頭に立った数年後の頃で、自動車部門の強化にも力が入っていた。
そのタタ・グループが、今度は英国に電気自動車用バッテリーセルのギガファクトリーをつくる。インドのモディ首相は就任来、「make in India」を提唱してきたが、同グループの動きはその提唱を踏まえながらもそれを超えている。時代の変遷を感じさせる動きだ。
■スタートアップは破綻、稼働は1工場だけ
英国では、リチウムイオン電池セルの新興企業、ブリティッシュボルトが今年1月に破綻した。同社は、イングランド北東部のブライスに総工費38億ポンドで年産30ギガワット時の電池生産工場建設を進めていた。
現在、英国にはサンダーランドに中国企業所有のエンビジョン工場があるだけで、同工場の年産能力は38ギガワット時。日産自動車向けに生産しているという。
■電気自動車の普及へインフラ整備を推進
英国は2030年にガソリン車の新車販売を禁止すると発表している。
2022年の自動車販売台数161万4063台のうち、電気自動車・プラグインハイブリッド車の比率は約23%。バッテリー式電気自動車が27万台弱で、プラグインハイブリッド車が10万台強だ。
30万台の公共の電気自動車向け充電設備を全土に導入することに向け、5億ポンドが投資されることになっている。
ロンドン郊外に一軒家を持てる程度の所得があれば自宅の庭に充電スタンド設置は容易にできるという。2022年6月には新築住宅・建築物に電気自動車用充電設備の設置が義務化されている。
(敬称略)
トップ写真:タタグループのバッテリー工場を視察するスナク英首相。タタ取締役会のナタラジャン・チャンドラセカラン会長と(イギリス・ワーウィック 2023年7月19日)出典:Photo Christopher Furlong/Getty Images
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この記事を書いた人
中村悦二フリージャーナリスト
1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)