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.経済  投稿日:2022/8/7

「風が流れを変える」再エネにかける北の町


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

 

【まとめ】

・北海道松前町の風力発電所、大小90基の風車が稼働している。

・町は風力発電所の増設と洋上風力発電所の誘致に期待。

・再エネだけで町の経済活性化は困難、豊かな観光資源を生かした町おこし策が必要。

 

函館から車で2時間半。北海道南端の町、松前町日本海に面した小高い丘に大小入り乱れて約90基の風車が回っている様は壮観だ。

しかし、漁業で栄え、2万人を超えた人口は今では6,000人にまで減少。急激に進む過疎化に危機感をつのらせる。

そうした中、「発電するデベロッパー」の異名を持つ東急不動産株式会社が、2019年に「リエネ松前風力発電所」の運転を開始したのだ。

高さ約100メートル、ブレードの長さ約50メートル、日本最大級の巨大風車12基(独シーメンス社製)が威容を誇る、蓄電池併設型風力発電所だ。

写真)高さ約100メートル、ブレードの長さ約50メートル シーメンス社製大型風車 手前に真ん中に立っているのが筆者

ⒸJapan In-depth編集部

 

リエネ松前風力発電所は、2019年4月に運転開始。定格出力40.8MW(メガワット)、連系出力36.0MW、蓄電池容量約130MWh(メガワット時)。

写真)リエネ松前風力発電所 蓄電池

ⒸJapan In-depth編集部

災害時に送配電網を活⽤して⾵⼒発電所の電⼒を届ける「地域マイクログリッド」構築検討を松前町とともに進める。(2019年12月松前町と東急不動産が「再エネによる地域活性化」に関する協定を締結)2018年の胆振東部地震時、北海道全域で⻑時間の停電「ブラックアウト」が発⽣した。その反省に立ち、対象エリア内の非常時の電力供給が検討されている。

2021年9月には地域マイクログリッド構築フェーズに入り、2022年3月には「街づくり計画策定に関する協定」を締結した。将来的には通常時も本発電所でつくった電気を使い、松前町で消費される電気を100%再生可能エネルギーとすることを目指している。

写真)リエネ松前風力発電所

東急不動産

ご多聞に漏れず、松前町は人口減少問題に直面している。石山英雄町長は風力発電に大きな期待をかける。

「町の人口減には危機感を持っている。再エネを利用して経済活性化につなげたい。東急不動産が今後さらに12基、風車を増やす計画だと聞いている。将来的には洋上風力にも期待している」

写真)石川町長

©︎Japan In-depth編集部

石山氏は、北海道から本州への海底ケーブル構想にも言及、北海道道南における再エネ電力を本州日本海側に供給する構想を描く。8月27日には「ゼロカーボン北海道 洋上風力事業推進シンポジウム in 松前」を開催し、洋上風力発電の最新動向や、導入による地域振興、雇用創出などの経済効果、漁業との協調などをテーマに、北海道における洋上風力事業の可能性などについて議論する。

確かに、風力発電所の増設や、将来の洋上風力発電所による建設特需はあるだろうが、特に後者は実際に建設が決まったとしても、始まるのは今から10年後くらいになるだろう。そこまで悠長に待ってはいられない。

再エネを使ったデータセンターや水素工場建設、EV/PHEVの導入など、町はゼロカーボンに向けた取り組みの青写真を描くが、それがどう人口減少に歯止めをかけ、経済活性化に結び付くかが見えない。

6日夜は、リエネ松前風力発電所の再エネ電力を活用した町の商工会議所青年部主催のプレミアムサマーフェストが開催され、多くの町民が出店やくじ引きを楽しんだ。

写真)松前町商工会議所青年部主催プレミアムサマーフェスト リエネ松前風力発電所の再エネ電気が活用された

ⒸJapan In-depth編集部

子どもたちの笑い声が響く中、石山町長に経済活性化のビジョンを再度問うと、

「風が流れを変えるのさ・・・」

そう、力強く繰り返した。風力発電に対する町の期待の大きさを改めて感じた。再エネ化は確かに時代の流れでもあり、風況が良い北海道にとって風力発電は最適解だろう。しかし、それだけでは町の経済活性化は難しい。

他の自治体の先行例はいくつもある。和歌山県白浜町はICT企業の誘致に熱心で、先月、南紀白浜空港に隣接する県所有の「空港公園」に今秋開所するビジネスオフィスに、東京のIT企業の進出が決まった。豊かな自然と町の担当者の熱意、町が用意した様々な利便性が決め手だったという。

香川県小豆島は、室町時代の名残である「迷路のまち」。民間企業である小豆島ヘルシーランド株式会社が、アート事業や地域事業をおこなってるのが特徴で、同社が運営する妖怪美術館は、瀬戸内国際芸術祭と夜の小豆島観光を盛り上げるために、妖怪美術館館長でもある妖怪画家柳生忠平とめぐるナイトミュージアムツアーなどユニークな企画を続々誕生させて、内外に人気を博してきた。

前者は急激に拡大しているワーケーション需要をつかみ、企業を誘致する試み、後者は地域の観光資源を最大限生かし、更に付加価値をつけて観光客を呼び込む「住んでよし、訪れてよし」の持続可能な観光を目指す試みだ。実際、町の観光振興を企画している人は県外からの移住組だ。

松前町には海を眺める珍しい城があり、周囲に1万本、250種類の桜が植わっている。17世紀、ニシンを北前船(きたまえぶね)で本州に運ぶ貿易で栄華を極めた歴史もある。足の便の悪さはいまや空飛ぶタクシーなど、最新テクノロジーで解消することが可能だ。

写真)松前城

松前町

こうしたチャレンジには、「若者、馬鹿者、よそ者」の力が不可欠だ。町の活性化はすぐれて人の活性化に他ならない。再エネの町、松前の発展には人々の意識改革が必要だ。かつての街並みが復活するかどうか、本気度が問われている。

トップ写真:リエネ松前風力発電所

ⒸJapan In-depth編集部




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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