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.経済  投稿日:2022/5/29

RE100化でデベロッパーも発電する時代へ


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・企業のRE100への取り組みが加速してきた。

・東急不動産は自社で発電施設を持ち、テナントにグリーン電力を提供する。

・ほとんどの企業がRE100化を進める中、各企業は従来の枠にとらわれない戦略が求められる。

 

我が国が再生可能エネルギーの導入にアクセルを踏んでいることを知らない人はいないだろう。

菅義偉前総理大臣が「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、さらに「2030年度の温室効果ガス排出量を46%削減(2013年度比)さらに50%の高みに向けて挑戦を続ける」ことを国際公約とした。日本はみずから高いハードルを課した。企業も家庭も、総力を挙げて脱炭素に取り組まねば到底達成できない目標だ。

そうした中、政府は去年10月、「地球温暖化対策計画」を閣議決定した。「温室効果ガスの全てを網羅し、新たな2030年度目標の裏付けとなる対策・施策を記載して新目標実現への道筋を描いた」(環境省)ものだ。

環境省がまとめた下図を見ると、どの分野も従来の目標を大幅に引き上げなくてはならないことがわかる。

▲図 地球温暖化対策計画の改定について 出典:環境省

今回は産業界の取り組みについて見ていく。

企業の脱炭素経営

脱炭素経営では様々な横文字が登場する。混乱するので整理しておこう。

まず、企業が気候変動に対応した経営戦略の開示をする「TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)」がある。また、脱炭素に向けた目標設定には、「SBT:Science Based Targets(科学的根拠に基づいた目標設定)」と「RE100:Renewable Energy 100(事業運営を100%再生可能エネルギーで賄うことを目標としている世界の企業連合)」がある。

SBTは企業の温室効果ガスの排出を削減することが目標だが、RE100は自然エネルギーを導入することを目標としてる。

いずれにしても、企業は、これらの様々な指標や目標を通じ、脱炭素経営に取り組んでいる。そして、環境省によると、TCFD、SBT、RE100に取り組んでいる日本企業の数は、世界トップクラスなのだそうだ。

▲図  TCFD、SBT、RE100 取組企業数 出典:環境省

■ 企業がRE100に取り組む背景

私たちの想像以上に企業のRE100への取り組みは加速している。その背景に、昨今の化石燃料の価格高騰があることは間違いない。ロシアによるウクライナ侵攻がそれに拍車をかけている。

一方、日本の電源構成のほとんどは化石燃料による火力発電が占めている。このままいくと電気代はますます高くなり、私たち一般家庭のみならず、需要家全体のエネルギーコストは重くなる一方だ。そのリスクをヘッジするために企業は再生可能エネルギー導入を加速させねばならない。

また、ESG投資の広がりが企業のRE100への取り組みを後押ししている側面もある。取り組みに消極的な企業には投資が集まらないだけでなく、市場から退場を迫られるリスクすらあるのだ。

こうした中、企業のRE100への取り組みが加速してきた。

 水素を活用した工場のRE100化

2022年4月、パナソニックは、純水素型燃料電池と太陽電池を組み合わせた自家発電により、事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーでまかなうRE100ソリューション実証施設「H2 KIBOU FIELD」を稼働した。世界で初めて本格的に水素を活用した工場のRE100化となる。

滋賀県草津拠点に純水素型燃料電池(500 kW)と太陽電池(約570 kW)を組み合わせた自家発電設備と、余剰電力を蓄えるリチウムイオン蓄電池(約1.1 MWh)を備えた大規模な実証施設を作った。

発電した電力で草津拠点内にある燃料電池工場の製造部門の全使用電力をまかなうとともに、3つの電池の連携による最適な電力需給の運用が出来るように技術開発を行い、検証していくという。

太陽光発電は広大な設置面積が必要だという課題を解決する取り組みだ。工場の屋上などに設置した自家発電設備で事業活動に必要な電力を供給することが可能になる。パナソニックでは、こうした自家発電により事業活動に必要な再エネ電力を賄う「RE100ソリューション」の事業化を目指すとしている。

▲写真 H2 KIBOU FIELD 空撮写真(2022年4月撮影) 出典:パナソニック

一方、オフィスビルに入居している多くのテナント企業もRE100を目指している。しかし、それらの企業が自分たちで出来ることは限られている。電気の供給元はビルのオーナーに委ねられているからだ。

それらの企業はRE100を達成するために、ビルのオーナー、すなわちデベロッパーから100%再生可能エネルギーの電気供給を要望するだろう。つまり、デベロッパーとしてはそうした環境を整えない限り、将来的に優良なテナントが確保できないことになってしまう。

こうした中、大手デベロッパーの動きが加速している。

 デベロッパーの取り組み

三菱地所株式会社は、2022年度に東京都内・横浜市内に所有する全てのオフィスビル、商業施設の電力を再生可能エネルギー由来(以下、再エネ電力)とする。

既に2021年4月から東京駅前の丸ビルや新丸ビルなどの丸の内エリア(大手町・丸の内・有楽町)の約8割のビルで再エネ電力を導入しており、今年度までに丸の内エリアで所有する全ての物件への導入を達成し、更にそのエリアを東京都内、横浜市内にまで拡大して再エネ電力を導入する予定だ。

また、三井不動産株式会社は、保有する施設の共用部やテナント等に対し、使用電力に非FIT水力発電の環境価値が付いた「グリーン電力提供サービス」を2022年春より提供開始した。対象施設は約180施設、2030年度までの国内保有全施設のグリーン電力化に向けて展開加速中だ。

東急不動産株式会社も、保有するすべてのオフィスビル・商業施設において、入居者の使用電力も含め、2022年にすべて再生可能エネルギー由来の電力へ切り替える。2025年としていた全オフィスビル・商業施設の再エネへの切り替え目標を前倒しする。

実は同社は他のデベロッパーとは一線を画し、自社で再エネ事業に取り組んでいる。太陽光発電施設や風力発電施設を展開しているのだ。再エネ専業会社である株式会社リエネを設立、2022年4月末時点で全国81事業所、定格容量1311MW(メガワット)は。一般家庭約62.6万世帯分に相当する。CO₂削減量は約123万9000トン・年だ。

▲写真 すずらん釧路町太陽光発電所 出典:東急不動産株式会社

自社で発電施設を擁するメリットは何か?

都会のオフィスビルなどの屋上は狭く、十分な量の太陽光パネルを設置することは出来ない。したがって、RE100を達成しようとしたら、「非化石証書」付き電力に切り替え、それをテナントに提供するしかない。しかし、今後より多くの企業がRE100化を進め、「非化石証書」付き電力の需要が増え続ければ、当然コストが上昇する。

東急不動産は、自社の発電施設に紐付いた「非化石証書」を利用することで、こうした価格変動リスクをヘッジすることができるのだ。当然、テナントが入居を決める際の大きなインセンティブになる。

新型コロナ禍により、働き方は大きく変わった。オフィス不要論も台頭したが、ウィズコロナ時代になってオフィス回帰の動きも見られる。同時に、オフィスに対するニーズもまた変化した。

テナントとして入居するのに、どのようなデベロッパーが開発したビルなのか、より重要になってくる。また提供されるグリーン電力の質やコストも問われるようになるだろう。

脱炭素社会に向けて、企業間の競争はより複雑になっていく。従来のビジネスの枠にとらわれないチャレンジが求められよう。

(了)

トップ写真:リエネ松前風力発電所 出典:東急不動産株式会社




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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