米中関係はどこへ サタ―氏に聞く その1 二つの危険とは
古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・ワシントンでのアメリカ外交論議の最大課題はやはり中国である。
・中国がアメリカが主導して築いてきた国際秩序を破壊し、アメリカ自体の国益を侵す動きに出ている。
・現代の軍事力がハイテクに依存しているため、中国がハイテク分野でアメリカを凌駕すれば、軍事的にも優位に立つ。
China、China、China——ワシントンでのアメリカ外交論議の最大課題はやはり中国である。アメリカの政府、議会、そして研究機関までがロシアのウクライナ侵略よりも、イスラエルとハマスの衝突よりも、さらに大きな国際課題として巨大なエネルギ―を投入して取り組む最大の対象は、中国なのだ。
その理由はアメリカ側が中国をいま自国の生存の根幹をも脅かす脅威としてみることである。さらに、中国がアメリカが主導して築いてきた国際秩序を破壊し、アメリカ自体の国益を侵す動きに出ていることだといえる。
ではこの米中対立はいま具体的にどんな状況にあるのか。こんごどう展開するのか。日本にはどんな余波を及ぼすのか。
アメリカ側の米中関係考察では大御所ともいるロバート・サタ―氏に最新の見解を尋ねてみた。サタ―氏は過去40年余、アメリカ政府の中央情報局(CIA)、国家情報会議、国務省などで対中政策を担当し、現在はジョージワシントン大学の教授を務める。米中関係の現状をみるにはワシントンでの定点観測のような立体的で体系的な考察のできる権威だといえる。サタ―氏には台湾での外交研究会合で基調演説をして帰ったばかりだという3月末、ジョージワシントン大学の研究室でインタビューした。
写真)ロバート・サター氏
出典)Elliot School of international Affairs
米中両国は相互を敵視して、米側ではいまや中国への抑止から切り離しに近いところまで進んだ、という危機への警鐘が同氏の現状報告の総括だった。サタ―氏との一問一答の要旨は以下のようだった(古森義久)
――アメリカからみての現在の中国の挑戦、あるいは脅威というのはなんでしょうか。
ロバート・サタ―氏「中国のアメリカ、あるいはアメリカ主導の国際秩序への挑戦は軍事、経済、外交、人権など多様な領域にわたります。しかしそのなかでいまアメリカにとって国家の根幹の存続にまでかかわる危険は具体的にまず二つあります。
第一は中国が軍事的にアジア制覇を目指し、アメリカの存在を弱め、アメリカと同盟諸国との絆を断とうとしていることです。アジア全体からのアメリカの駆逐というのはアメリカの国家全体への重大な脅威となります。この状況は1930年代のアジア情勢と似ています。当時は大日本帝国がアジア全体の軍事制覇を進めていた。ヨーロッパではナチス・ドイツが軍事支配を広げていた。誇張ではなく、そんな情勢との類似を指摘する米側の識者も多いのです。その情勢は結局はアメリカへの軍事攻撃へと発展した。そんな歴史を想起して、不吉な懸念を抱く向きも多いのです」
――では第二の危険とはなんでしょうか。
「第二は中国がアメリカのハイテク、つまり高度技術の産業界に挑戦してきたことです。アメリカの製造業は世界的にも先頭を走ってきましたが、中国がその主要分野でチャレンジし、追いつき、追い越そうとしているのです。その結果、アメリカは従来の経済利益を失っていくことになります。
しかしとくに重要なのは現代の軍事力がハイテクに依存している点です。だから中国がハイテク分野でアメリカを凌駕すれば、軍事的にも優位に立つ。中国が軍事力でもアメリカだけでなく、世界を制覇する危険なのです。
だからいまのアメリカには切迫した危機感があります。とくに首都ワシントンでは政府でも議会でもその中国の危険に全力で対処しなければならないとしてあらゆる対抗手段をとろうとしています。でなければ制覇されてしまうという恐怖だともいえます。この中国への抑止策は着手を始めてすでに6年ほどにもなりますが、ついに政府、議会が一致団結して総合的な措置をとるというところまできました」
(その2につづく)
*この記事は月刊雑誌WILLの2024年6月号掲載の古森義久氏の寄稿の転載です。
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。