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.国際  投稿日:2024/6/11

トランプ氏有罪で共和党が連帯した


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・トランプ前大統領に対する有罪評決が共和党全体の連帯を強めた。

・上院で共和党が勢いに乗って民主党に逆転勝し多数派となる展望も。

・有罪評決が、民主党の団結や連帯を強める結果になった。

 

アメリカのドナルド・トランプ前大統領に対するニューヨーク地裁での有罪評決が共和党全体の連帯を強め、これまでトランプ氏への留保をみせていた党内の勢力をトランプ氏支持の下に団結させる効果が明白となった。このままだと11月の大統領選と同時に実施される連邦議会選挙で僅差の議席の上院では共和党がこの勢いに乗って、民主党に逆転勝して、多数派となる展望までが語られるようになった。共和党側はこぞって今回の評決を民主党側によるトランプ氏の選挙を妨害する政治的な工作だと非難するのである。

ニューヨーク州のマンハッタン地区の地方裁判所は5月30日、トランプ氏に対する合計34項目の起訴罪状について、陪審員12人による「そのすべてを重罪として有罪とする」という全員一致の評決を発表した。この評決に対して共和党側ではトランプ氏自身の「民主党陣営による魔女狩り的な選挙妨害だ」とか「民主党側による司法機関の武器化的なトランプ陣営攻撃だ」という主張への同調や共鳴が噴出した。

その結果、共和党側全体をかつてないほど団結させるという現象が起きたのだが、この重大なうねりには日本の主要メディアでは正面からの光があまり当てられないようだ。これまで共和党内でトランプ氏に批判や反対を表明してきた有力政治家たちまでが今回の裁判の展開を激しく非難するのだった。

具体的な実例としては連邦議会上院の共和党院内総務ミッチ・マコーネル議員が同評決に対し「決して起きてはならない出来事で、控訴により逆転されるだろう」と述べた。同議員は同じ共和党内でも穏健派とされ、これまでトランプ氏との間に距離をおき、関係が冷却したとも評されていたが、今回は断固たるトランプ支持に踏みきったわけだ。

同じ上院の共和党穏健派スーザン・コリンズ議員も有罪評決の直後に「トランプ氏を起訴した地方検事のアルビン・ブラッグ氏はこの案件の捜査前から『トランプを倒す』と宣言することで、司法制度と選挙制度とを区分すべき境界線を越えていたことがこの評決でさらに明確になった」という声明を発表した。評決自体を認めないというトランプ氏支持の言明だった。コリンズ議員も上院では共和党とはいえ、伝統的な穏健派として政策面ではトランプ氏と意見を異にすることも少なくなかった。

2016年の大統領選では共和党の指名をトランプ氏と争ったマルコ・ルビオ上院議員もこの評決を「アメリカにとって醜い汚辱であり、私の両親の出身地キューバの共産主義独裁政権の裁判よりひどい」と非難した。

さらに注目されたのは共和党員ながら議会でのトランプ大統領の弾劾に賛成し、反トランプの立場を明確にしたミット・ロムニー上院議員までがトランプ氏支持を表明したことだった。ロムニー議員は今回の評決について「普通の有権者はこの裁判の不公正な実態を知っているから有罪評決がトランプ氏への支持を減らすことはない」と明言し、裁判自体への批判を鮮明にしたのだった。

上院でのこうした共和党の動きはトランプ氏支持という旗印の下に、11月5日の大統領選と同時に実施される上院議員選挙でも共和党が議席を増す展望をも示唆している。いまでも上院での民主、共和両党の議席差はわずか1議席だから、そうなると共和党が上院で多数を制する可能性も出てくるわけだ。

一方、いまの議会の下院では多数派を占める共和党のマイク・ジョンソン議長が今回の評決直後に改めて「この裁判自体が民主党側の司法制度の政治武器化によるトランプ氏攻撃だ」と言明した。下院では上院よりもトランプ氏全面支持という議員が圧倒的に多いから同議長の言明は下院共和党の総意とみなしてもまちがいではない。

議会以外でも共和党有力者たちの今回の評決非難は明確だった。まず注視されたのはトランプ氏の大統領時代の副大統領だったマイク・ペンス氏の言明だった。ペンス氏は2020年の大統領選挙結果を不正と断じたトランプ氏の主張に正面から反対し、その後、トランプ氏とは冷たい関係にあった。だがペンス前副大統領は今回の評決に対して「トランプ氏、そしてさらに共和党への政治的動機による攻撃であり、国家にとり非道で有害だ」という厳しい見解をアメリカのメディアに語ったのである。

今回の2024年の共和党側大統領選予備選でトランプ氏に最後まで挑戦したニッキー・ヘイリー元国連大使もすでにトランプ氏支持を明確にした。この評決の出る直前の支持表明だったが、トランプ氏に対する起訴や評決の実態をよく知ったうえでの立場の宣言だった。

こうみてくると、トランプ陣営にとっては同じ共和党内部にあった微妙な政策の違いや立場のズレなどが今回の有罪評決への激しい反発という共通項により、一気に解消して、かつてない団結や連帯を強める結果になったといえるのである。

*この記事は日本戦略研究フォーラムのサイト掲載の古森義久氏の寄稿論文の転載です。

トップ写真:ラスベガスの選挙集会でスピーチをするトランプ氏(2024年6月9日、ネバダ州ラスベガス)出典:Brandon Bell/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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