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.国際  投稿日:2022/12/2

アメリカ中間選挙の読み方 その2 勝者はだれなのか


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

 

【まとめ】

・日本メディアは「民主党の善戦」と報じたが、民主党は下院の多数派の座を失い敗北を喫し、バイデン政権にとっては「大幅な後退」となった。

・下院がこれまでバイデン政権と一体の民主党主導から基本的に対決する共和党多数となる。

・9回目の連続当選を果たした下院の共和党院内総務ケビン・マッカ―シー議員。中間選挙の勝者は彼なのかもしれない。

 

 日本でも関心がきわめて高かったアメリカの中間選挙が終わった。さてその結果とはなんだったのか。

 日本の主要メディアでは「民主党の善戦」という総括がほとんどのようだ。だが現実には民主党は連邦議会下院の多数派の座を失うという敗北を喫したのだ。共和党側のその勝利が予想ほどは大きくなかったために、あたかも共和党が負けたかのように総括する向きが多い。だが共和党はこの選挙でバイデン政権の議会と連携しての一党支配を崩したのだ。その結果、バイデン大統領にとって議会運営がこれまでと異なり、難しくなる。

 11月8日に投開票が実施されたアメリカの中間選挙の主体はあくまで連邦議会上下両院の議員改選である。同時に州知事や州議会議員の選挙も実施されたが、アメリカの国政にとってのこの選挙の意味という点では連邦議会両院の勢力図がどうなるかが最大の重要点なのだ。

その最大の関心事として下院の勢力図が逆転した。民主党のバイデン政権にとってこれまでの1年10ヵ月ほど、ワシントンの国政は一党支配だといえた。議会の上下両院がともに民主党多数だったからだ。だが今回の中間選挙でそのうちの下院が共和党多数となってしまった。これこそ今回の選挙での最大の変化だった。

下院の議員定数は435だから、そのうちの218以上を得た政党が多数派となる。上院では改選議員計35人のうち民主党14、共和党21だったが、中間選挙の結果では民主党14、共和党20、再選挙1、と現状維持だといえる。国政の場では共和党の下院での勝利だけが目立ったのだ。

 

 「今夜、ついに公式となった。私はいま民主党の一党支配の時代が終わったことを誇りをもって宣言する」

下院の共和党院内総務ケビン・マッカ―シー議員が高らかに述べた。11月17日のワシントンでの記者会見だった。最も注視された下院選挙の開票で野党の共和党がそれまでの多数派の与党の民主党を破り、過半数の218議席を獲得したことが決まった直後だった。今回の選挙は郵便投票があまりに多いために集計作業が大幅に遅れたのである。

「私たちは下院議長のナンシー・ペロシ氏を解任した」

マッカーシー議員は下院の次期議長就任を確実視される共和党代表として民主党側の指導者ペロシ議長への勝利を宣言したのだった。 

長身で頑健な体躯のマッカーシー議員は州全体では民主党支持層の多いカリフォルニア州の第20区の選出、州南部のロスアンジェルスに近いベイカーズフィールド市を中心とする地域で2006年以来、下院選での当選を重ねてきた。2022年11月の今回の選挙では民主党の対抗馬を2倍近い得票数で破り、9回目の連続当選を果たした。

マッカーシー議員は政治的には堅固な保守である。ドナルド・トランプ氏を2016年の同氏の大統領選初出馬から熱心に支持してきた。2020年の大統領選挙後もトランプ氏の「不正選挙」の主張に同調し、FBI(連邦捜査局)によるトランプ氏の別邸への家宅捜索にも「不当捜査」として反対してきた。

そんなトランプ支持の議員が下院での共和党の勝利を宣言したのだ。しかも民主党側でトランプ氏へのすべての面での反対を叫んできたペロシ下院議長を敗者と断じたのである。この現実は日本の主要メディアが描く「民主党の善戦」とか「トランプ氏の敗北」という構図とは異なっていた。

マッカーシー議員のこの勝利宣言は中間選挙の投票日、そして開票日の11月8日から10日間も過ぎた時点での発表だった。得票数の集計にこれほど時間がかかるのは前述のように膨大な数の郵便投票のためだった。

下院全議席合計435のうちの過半数218を共和党側議員が獲得したことがやっと確認されたのだ。下院のこれまでの議席構成は民主党222、共和党213だった。与党の民主党が多数を占め、下院全体の運営を主導してきたのだ。だが民主党はその多数派の座を失った。

ここで強調しておかねばならないのはアメリカの連邦議会では上院でも下院でも過半数を1議席でも越えて多数派の地位を得た政党の側が議事運営のほぼ全権を手中に握れることである。 

2023年1月3日からの第118会期の新議会の下院では議長がまず共和党となる。そして下院に存在する外交、軍事など広範囲の議案や決議案を審議する合計20の委員会、インテリジェンス気候変動などと取り組む合計5つの特別委員会の委員長もすべて共和党議員が占める。

要するに下院全体の運営の主導権が多数派の共和党の手に入るのだ。共和党が下院全体としてどんな課題を審議するかを決めて、バイデン政権が出す法案にも下院全体としての反対を打ち出すこともできる。

そのうえに連邦議会の聴聞会などにどんな人物に召喚状を出して喚問するかを決められるのも共和党となるのだ。立法府でのこの権限は強大である。同じ立法府としての上院はなお民主党が主導権を握るから下院共和党の権限は絶対ではない。だが議会の入り口に立つ下院がこれまでバイデン政権と一体の民主党主導から基本的に対決する共和党多数となるのである。

だからこの変化はバイデン政権にとって大きい。バイデン大統領は就任以来の1年10カ月ほど与党の民主党が多数を占める議会上下両院からの支援を受けてきた。だが来年1月からはその両院の1つは正面からバイデン政権に対峙し、その政策にも断固たる反対を表明してくるのだ。バイデン大統領にとっては国政運営での大幅な後退だといえる。そしてこの点こそが今回の中間選挙の最大の変化であり、共和党の勝利だったのだ。

だからあえてこの中間選挙の勝者をあえて1人だけあげるとすれば、前述のマッカーシー議員となるかもしれない。

(つづく。その1

トップ写真: ジョー・バイデン大統領、および他の議会指導者とのホワイトハウスでの会議に出席する下院の共和党院内総務ケビン・マッカ―シー議員(2022 年 11 月 29 日 アメリカ ワシントン DC)

出典:Photo by Kevin Dietsch/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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