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.政治  投稿日:2024/6/18

【都知事選、本当の争点】④どこ行った?!東京大改革「7つのゼロ」が達成できなかった理由


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

・「7つのゼロ」は、手段やリソースが不明確でメディアの厳しくない姿勢と政治風土が理由で達成できなかった。

・これまでの日本政治は、キャッチーな言葉を並べ「あれやります」のオンパレード。

・7つのゼロ未達成の本当の理由は、実行するための障害、困難さがあるから。

 

 ペット殺処分ゼロ、待機児童ゼロ、介護離職ゼロ、都道電柱ゼロ、満員電車ゼロ、残業ゼロ、多摩格差ゼロなど小池さんが掲げた「7つのゼロ」。それに対して、達成度を問う声が強く、多くなっている。小池さんは、「一つずつ項目を挙げて「達成している」「流れはつくっている」などと反論」(東京新聞より)したそう。

 政策評価の専門家としては、それを今言うか?と少々小池さんに同情を感じてしまう。なぜかというと、そのころ、厳しく指摘や問いただしたり、評価方法について言っていた人は私や数人以外いなかったし、メディアは具体的に「定義」を質問などで確認すべきだったのでは?と思うからだ。そもそも公約ではあるものの、努力目標や方向性の話であったのが当時の政治の文脈であり、4年で達成を約束するものであったのかも不明。その後の都政の各種計画への反映されていない状況を見て、なぜにその時に指摘をしなかったのか?という疑問が出てくる。

 7つのゼロの現状を見ていこう。いろいろ出ているが、現状はこんな感じにまとめられる。

殺処分ゼロ       

待機児童ゼロ    

介護離職ゼロ     ☓

電柱ゼロ          △

満員電車ゼロ     ☓

残業ゼロ          ☓

多摩格差ゼロ     ☓

 都道電柱は、「(都市防災機能の強化に向けて重点的に整備する)センター・コア・エリア」は、もう100%達成」(東京新聞)したそうだから△とする。東京新聞がファクトに基づいて検証をしているので詳しくはそちらを見てもらいたい(東京新聞、2024/03/20記事)。

理由1:そもそも努力目標

 ではなぜに達成が困難だったのか。小池さんにとっては、そもそも「姿勢」「努力目標」「方向性」だったということが第一の理由だ。約束にしても、ある意味、努力目標といった認識であったことがうかがえる。その後の都政における各種政策や予算へ反映された形跡はない。周りもそう思っていたといえる。

理由2: 手段やリソースが不明確

 第二の理由は手段やリソース(お金、人)の議論が行われなかったこと。そもそも本当に達成するには、膨大のリソース(お金、人)をかけたとしても、難しい面がある。普通にリソースを積算すると相当の金額になってしまう。それらに予算を投入すると他の業務に与える影響が大きすぎる。介護離職、満員電車などは、そもそも行政だけで解決するのは困難な社会問題であり、多摩格差は地域内の事実認識でしかない。その厳密さや方法を求める議論がされなかったのだ。

理由3:メディアの厳しくない姿勢と政治風土

 その手法についても、実現のための戦略についても、厳しく確認・追及をメディアができたとはいえなかったというのが第三の理由だ。徹底的に、「7つのゼロの実行プランは?」「どれだけの予算を考えているのか?」「期限はいつまで?」「達成できなかった場合の責任は?」などを繰り返し、徹底的に質問する。相手が嫌がっても問いただす、選挙後も徹底的に追及する・・・こうした姿勢を貫けなかったのだろう。相変わらずの小池さんの政治手法に対して、「まあ仕方ない」と思って追及が継続しなかった。メディアは政策よりも、人物のストーリーを重視し、ストーリーやドラマを放映。候補者の討論会も権力者をチェックする厳しさという点では不十分で、国政と絡めていくことが多い。

 メディアを批判するのもかわいそうなのかもしれない。なぜなら、これまでの政治がそうだったからだ。これまでの日本政治は、キャッチーな言葉を並べ「あれやります」のオンパレードである。結局、あれをやってどうなるのか?という検証はめったに行われない。目標達成の基準も不明確だし、成果が出ない場合の結果責任をとれるのか?リソースはどれくらいか?そんな議論はこれまでも行われなかった。

 どう変える?

 7つのゼロの未達成の本当の理由は、そもそも実行するための障害、困難さがあるから。その前提を触れもせず、掲げた政治家を糾弾しなかったメディアとそもそもの政治風土が背景にある。すべて、日本政治社会の現状のレベルの低さに起因するといってよい。シティズンシップ教育や今後の我々のような活動で変えていくしかない。

(つづく。

トップ写真:東京で開催されたフォーミュラE東京Eグランプリで話す小池百合子東京都知事。2024年3月30日。出典:Photo by Qian Jun/MB Media/Getty Images




この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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