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.経済  投稿日:2024/10/25

日本経済をターンアラウンドする~総選挙で「消えた争点」②


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

・ 今回の選挙では、政策よりも政治家のイメージが重視され、具体的な経済政策が議論されていない。

・日本経済再建には大企業への規制強化や高付加価値経済へのシフトが必要だが、各党の政策に明確な違いが見られない。

・労働者の賃上げや雇用の流動化、法人税の見直しなど、構造改革を伴う経済政策が日本経済の再生には不可欠。

 

 

 今回の総選挙、なんともいえない選挙である。政策の中身よりも、政治家のイメージで決まってしまいそうだ。党内野党として正論を言っていた石破さんのイメージが、早期解散を行わざるを得なかったことや、裏金議員への中途半端に見えた対応によって、ぶれたように見えてしまった。重ね重ね残念である。経済の政策論争に焦点がいかない。

 

 慶應義塾大学大学院の小幡績教授によると、経済政策というものはないと言い、「政治家の経済政策の公約や主張はすべて意味のないものである」と言う。「経済政策なるもの」にはカテゴリーは4つあるという。

 

 雑誌「東洋経済」での小幡氏の論考、「日本の政治に「経済政策」などというものはない」によると、第一にバラまき。いわゆる有権者の買収的なものである。一時的な減税や、お金を配ったりするものだ。まさに選挙戦略政策のようなもの。小幡教授によれば、物価対策もガソリン対策も、子育て支援もこのカテゴリーに入るそう。

 第二に景気対策。そこで守るべきなのは雇用、失業対策とが個人企業に近い小企業だそう。失業対策になる。

 

 そして第三に成長戦略、いわゆる今後の投資である。第四に経済社会のあり方ということらしい。「政治的には経済政策は論点としても仕方がないのだ」という小幡さんはこの社会の在り方の議論の必要性を説く。

 

 経済社会をどうするか?が議論不足

 

 今回の選挙戦を見てみると、具体的な政策論争も少ないし、われわれの日本社会をどうするか?という点にも各党あまり差がない。 特に、格差問題に対しての配慮を示す石破政権になって、立憲民主党との経済政策がほぼほぼ似通ってきてしまった。各党の公約を見てみると、似たような政策が並んでおり、明らかに違いがない。どの党も「最低賃金の引上げ」「人への投資」「賃上げ」「可処分所得を倍増させる」「成長戦略」「手取りを増やす」「インフレに勝つ」などを掲げていて、DX、GXなど重点を置いた領域もほぼほぼ同じ。岸田政権の経済政策との差異は、程度の違いだろう。コストカット型から高付加価値型経済へ、どの企業もほぼほぼ同じといってもいい。よかったのは最低賃金1500円、賃上げについておおよそ合意がとれたということだろうか。アベノミクスからの脱却を主張してる政党が金利引き上げについては明確にしないため、焦点にもなっていない。そして「消費税減税」も、「法人税増税」も焦点にあたることはなかった。

 

 となると、確かに小幡教授のいうように「大きなどういった社会にするのか」というビジョンの提示は必要だ。つまり、大きな方向性、例えば、

 

・アメリカのような格差が大きく、競争が激しい社会なのか?

・税金は高く安心は保証されるが競争は厳しい北欧スタイルでいくのか?そこそこ平等な社会なのか?

・格差をどう解消するか?

・SDGsを徹底する社会なのか?

・アトキンソンが言うように、中小企業を統廃合していくのか?

・労働分配率や再配分をどうするか?

・東京一極集中をどの程度是正していくのか?

 

という論点に対しても明確な違いが見えにくい。

 

 日本経済をターンアラウンドする方法はこれだ

 

 筆者は「日本経済をターンアラウンドする」という連載をするなど長年、経済政策を考えてきた。岸田政権が進めてきた「成長と分配の好循環」に基本的に賛同もしてきた。しかし、やはりまだまだ経済政策として政府がリーダーシップをふるう必要はあるだろう。

 

 大企業に対しては

①労働者のさらなる賃上げ

②大企業が下請けを締め付けない

③中抜きなどは徹底規制する

④人的資本経営の徹底

⑤イノベーションや新規事業の展開

が必要である。こうした取り組みを促していく必要がある。

 

 そして、政府としては経済環境全体に対して

・まずは労働者のリスキリングの徹底支援

・解雇規制緩和や雇用の流動化、転職市場活性化

・法人税増税・高所得層への負担増

・中小企業法の見直し

などをしていくべきだろう。

 

 これこそが、日本経済をターンアラウンドする方向だ。本来は、賃上げとともにこういったことをしなくてはいけない。どう考えても、この30年、大企業が優遇され、新自由主義は徹底されず、「ゾンビ企業」は延命。まっとうな競争環境が整備されなかったといえる。皆を食べさせるために無駄な仕事を作っていた、その残滓がまだまだ日本経済には残っている。意味のないブルシットジョブや補助金・助成金を早くなくして、最低賃金を1500円にあげて、高付加価値経済へのシフトや産業構造改革が必要だ。誰もがわかっているのに誰も手を付けられない、上記の政策の実行ができる政権を期待したい。

 

トップ写真:下町の鉄工所で作業する男性 出典:Photo by YOSHIE HASEGAWA/Getty Images




この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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