日産・ルノー合意 なお前途多難
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・日産自動車と仏ルノーは30日、日産株の出資比率引き下げ交渉で合意。
・グローバルな自動車会社同士の提携・合併は困難。
・新EV会社も前途多難、日産・ルノー連合には遠心力が働くのでは。
日産自動車と仏ルノーは30日、日産株の出資比率引き下げ交渉で合意すると発表した。ルノーは日産への出資比率を43%から15%へ引き下げる。ルノーが設立を予定するEV新会社「アンペア(仮称)」に日産が出資する。
筆者はかつて日産の海外事業に携わっていた。カルロス・ゴーンが日産に来る前の1992年に辞めた。
ルノーの出資を受けた日産は、ゴーンの元で大規模なリストラを断行、V字回復を遂げたのは周知の通りだ。当時商品化目前だったハイブリッド車の開発を止め、EVに経営資源を集中させたのもゴーンだった。
2010年に世界で一早く量産型EV「リーフ」を世に出したにもかかわらず、それを世界でベストセラーにすることは出来なかった。その間、トヨタはHVのプリウスを売りまくった。ライバルのEVが売れないのを見て、EV開発に本腰を入れなかった。
写真)日産「リーフ」を運転するウィリアム皇太子とキャサリン妃 2018年2月21日 英国・サンダーランド
出典)Photo by Max Mumby/Indigo/Getty Images
しかし、流れが変わった。トヨタはかつて資本提携をしていたテスラがここまでやるとは思いもしなかったろう。イーロン・マスクの経営センスもさることながら、地球温暖化が世界的にクローズアップされ、あらゆる業種が脱炭素経営を求められるようになった。
読者諸氏ご存じの通り、EVだとてその生産過程次第ではからなずしもエコではない。EUは化石燃料由来の電気を使って製造した車は、グリーンではない、と言い始めた。もちろん日本車をターゲットにしてのことだ。「ウェル・トゥー・ホイール(Well to Wheel)」、文字通り、油井から車の生産に至るまでのCO₂排出量を基準にしようという考え方だ。
そうしたEUの世界戦略はともかく、話を日産とルノーに戻すと、今回の合意には大きな学びがある。
それは、グローバルな自動車会社同士の提携はうまくいかない、ということだ。製造業同士、M&Aのケースは枚挙に暇がない。しかし、自動車産業は規模が大きすぎて、他の製造業のようにはいかない。製薬業界とか食品業界とか化粧品業界とは明らかに違う。車の様な複雑な工業製品を作るには巨額の投資、巨大な設備、複雑な設計・開発が必要だ。
全く異なる設計思想、生産技術文化を持つグローバルな2社が提携、もしくは合併しても、うまくいったためしがない。
日産・ルノー連合は、緩い資本関係で結ばれた「アライアンス(連合)」なので、世に言う合併や資本提携とはひと味違う。だからうまくいっているのだ。そう当時日産幹部から説明された時には、そういうものか、と思ったものだ。
しかし結果は違った。日産・ルノーは主導権争いから逃れられなかった。フランス政府の思惑も絡み、当事者間の調整は容易ではなかったとは思うが、アライアンスのグローバル経営戦略は停滞した。EVで世界を取りに行くつもりがあったなら、ゴーン自身も、両社の経営陣もこの10年もっと色々な戦略をとる余地はあったろう。
部品共通化7割を目指す、と当初は鼻息が荒かったが、達成できなかった。電動化も車種を増やそうと思えばできたはずなのに、なぜかやらなかった。日産は代わりにe-powerというマイルドハイブリッドを出したりしてEV戦略が迷走した。
カルロス・ゴーンがなぜ積極的なEV化戦略を取らなかったのか分からないが、彼の経営判断が間違っていたというのなら、取締役会や社外取締役がもっと早くそれを正すべきだった。しかし、それをしなかった。もしくは
できなかった。結果、ゴーンを排除するために司法の手を借りたのは大きな間違いだったと筆者は思う。
今思うと、やはり自動車会社の、それも違う国同士の合併はうまくいかないと思わざるを得ない。
今回、ルノーは日産との株式持ち合いで綱引きをするより、EV専業の別会社「アンペア(仮称)」を作る方に舵を切った。しかし、これまでのアライアンスでEV化を進められなかったのに、なぜ新会社でそれが可能になるのか。自前の技術を持たないルノーは結局は日産の開発力に頼らざるを得ない。酒を入れる袋を新しくしたからといって、突然競争力のあるEVを開発できるようになるというものでもない。車の開発は1年2年でできるものではないのだ。
写真)日産自動車本社 2018年11月20日 神奈川県・横浜
出典)Photo by Takashi Aoyama/Getty Images
トヨタが満を持して市場に投入したEV、bz4xのローンチで躓いたように、新車開発は容易ではない。そうこうしている間に、テスラやVWらライバルは着々と新型EVを世に出すだろう。そこに伏兵、中国のBYDや韓国ヒョンデなどが襲いかかる。ルノー・日産・三菱連合がEVでイニシアチブを取ることが出来るとは到底思えない。今後同連合は、遠心力を強めていくような気がしてならない。
トップ写真:日産とルノーのロゴ
出典:Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images
あわせて読みたい
この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。