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.国際  投稿日:2024/7/31

バイデン外交は戦後の国際主義的米外交の最後となる


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2024#30

2024年7月22-28日

【まとめ】

・ハリス副大統領が事実上の出馬宣言演説を行った。

・トランプ暗殺未遂事件で、バイデン外交は国際主義的米国外交の最後になり得る。

・ネタニヤフ首相訪米は、中東全体に影響を及ぼすだろう。

 

もうすぐ7月は終わるが、今年既に30回目となる本稿執筆中も、米大統領選挙は正に「万華鏡」のように、連日目まぐるしく絵柄が変化していく。今朝も枕元で24時間つけっぱなしにしているCNN-USを見たら、ちょうどハリス副大統領がバイデン選対本部で、事実上の「出馬宣言」スピーチを始めたところだった。

うーーん、「政治家は生まれた時から政治家ではない」、「政治家は時々の『時代』が作るものなのか」、と改めて痛感させられた。副大統領としてのカマラ・ハリスの評価は決して高いものではない。それがどうだ、今朝のように「力強く生き生きとした」ハリスは今まで見たことがない。やはり時代と環境で政治家は「化ける」のである。

前回は、「名もなき町」の「名もなき市民」たちが「トランプ現象」を支えている、と書いた。2日前の暗殺未遂事件で、ミルウォーキーで始まった共和党全国大会の雰囲気は一変した。暗殺を免れたトランプ氏への同情からなのか、4年前や8年前のようなトランプ氏に対する「違和感」は雲散霧消した。共和党内の政敵やライバルも異口同音にトランプ候補を称賛し始めた。これも「ゲームチェンジャー」効果なのか。

先週は「今年、我々は一体何を見落とすのだろうか。マスメディアが報じる米国政治関連情報は、何かが、どこか、欠けているのではないか」、とも書いた。これから百日余り、米大統領選の「万華鏡」では一体どんな絵柄が見えてくるのだろうか、それにしても、疲れそうだなあ・・・・、今はこんなことを考えている。

ちなみに米大統領選挙については、CIGSの同僚である辰巳由紀主任研究員が書いている「デュポンサークル便り」の一読がお勧めだ。内外で報道されている内容と、彼女が送って来る「現地の皮膚感覚」を読み比べることは、最近筆者のルーティーンになりつつある。皆さんも試してみては如何だろうか。

ここでバイデン外交について、一言。実は某有力紙から電話インタビューがあり、勝手なことを喋ってしまった。どうせ引用なんかされないだろうから、と今週のWorldWatchにその概要を書いた。要するに、「バイデン外交は戦後の国際主義的米国外交の最後となるかもしれない」ということだ。詳細は産経新聞を読んで欲しい。

続いては、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。

7月23日 火曜日 イスラエル首相訪米、首脳会談

ベラルーシ外相、北朝鮮訪問(3日間)

ウクライナ外相、中国訪問(2日間)

7月24日 水曜日 イスラエル首相、米議会で演説

7月25日 木曜日 ブラジル、G20財務相・中銀総裁会合を主催

7月28日 日曜日 ベネズエラで大統領選挙

7月29日 月曜日 日本、QUAD安全保障対話外相会合を主催

最後にいつものガザ・中東情勢だが、今週はネタニヤフ首相が、昨年10月のハマースによる奇襲とその後の一連の衝突発生以来、初めて訪米してバイデン大統領と会談する。ネタニヤフは今もハマース壊滅という強硬姿勢を崩していないようだが、大統領戦撤退を発表したバイデンがネタニヤフに何を言うかに関心がある。

イスラエルの戦線は徐々に拡大しており、レバノンのヒズブッラ、西岸での騒動に加え、最近ではイエメンのフーシー派にも直接攻撃を加えている。バイデンが圧力を強めれば、逆にイスラエルは戦線を拡大するかもしれない。ネタニヤフはバイデンと取引するつもりはないだろう。

二人のやり取りの核心は外に出てこないかもしれないが、結果次第では、他の中東地域の安定にも影響があるので要注意である。

 今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:ネバダ州ラスベガスのマンダレイ・ベイ・コンベンション・センターで開催された第115回NAACP全国大会でスピーチするジョー・バイデン米大統領(2024年7月16日)出典:Photo by Mario Tama/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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