「戦争経済に突入した世界で日本はどう生きる」その3 戦争の「危機」が迫る
【まとめ】
・普段、私たちが知らないところで、軍事的に緊迫した状況が日々起きている。
・世界は明らかに「グローバル経済」から「戦争経済」にシフトしている。
・本書は「戦争経済」が日本に多大な恩恵をもたらし、日本が新しい時代を切り拓く主役になる主張している。
早朝土曜日の山手線、朝帰りの若者たちで以外にごった返している。車内は「酒臭い」し、だらしのない格好で若者が座り込んでいる光景も。まさに日本は平和そのものである。
以前、海上自衛隊のイージス艦「みょうこう」の航海長から聞いた話がある。ちょっと古い話で恐縮だが、1999年3月に起きた「能登半島沖不審船事件」の件である。この事件は北朝鮮船が日本の領海内に侵入し、「みょうこう」が同船を立ち入り検査しようとした。無線で何度も停船を伝えたが、それに応ぜず北朝鮮に向かって逃げ続けた。そこで「みょうこう」は主砲で威嚇砲撃を何回か加えた。暫くして不審船は停止したのである。それは、威嚇攻撃を受けた際に大量の海水が不審船に流れ込み、エンジンが止まったことによる。そこで、「みょうこう」の十数人の隊員が、艦橋に集められ立ち入り不審船の検査をすることを命令した。この時、航海長は「間違いなく銃撃戦となる」と考え、検査に向かう隊員全員に遺書を書かせた。「みょうこう」には防弾チョッキは用意されてなく、このまま乗り込もうとすれば、何人かが犠牲になるかも知れない。そして「最悪、日本と北朝鮮が戦争状態になる」不安が脳裏をよぎったそうだ。
写真)海上自衛隊「みょうこう」
出典)海上自衛隊ホームページ
さらに、ある閣僚経験者から直接、聞いた話である。それはトランプ氏が大統領だった時代、北朝鮮が日本を飛び越え高高度(ロフテッド軌道)に弾道ミサイルを発射し太平洋に撃ち込んだことがあった。その軌道を修正すると米国本土に着弾の可能性が大きいことが判明。それを米国の脅威と捉えた当時のトランプ大統領は金正恩の斬首作戦を実行した。平壌にまでB1爆撃を飛ばし、地下20メートルから40メートルまで貫通する特殊爆弾(破壊は数十キロに及ぶと言われている)を投下する計画だ。
この報告を受けた安倍首相は、この作戦が実行されればソウルを中心に20万人以上の犠牲者が出るばかりか、日本にも多大な被害が出る怖れがあるとして慌ててトランプ大統領にこの計画の中止を強く要請した。安倍首相の要請に応えてトランプ大統領は実行直前に中止した。まさに危機一髪だったという。
そして、尖閣諸島を巡る日中の攻防は激しさを増している。最近では海ばかりか、尖閣諸島上空に対しても中国軍は日本の航空機に対して警告を発するようになった。また中国軍機やロシア軍機による領空侵犯で航空自衛隊機によるスクランブル発進も増加傾向にある。このように、普段、私たちが知らないところで、軍事的に緊迫した状況が日々起きている。
本書『「戦争経済」に突入した世界で日本はどう生きる』にこうした事件について直接、触れていない。しかし本書ではロシア軍が北方領土に核ミサイルを配備しようとしていることを明かし、これを受けて米国海軍は最新鋭のイージス艦を小樽港に寄港させたことを明らかにした。つまり日本の平和が首の皮一枚で保たれていることを本書は伝えている。
日本の多くの若者やビジネスマンは、「戦争」が近づいていることを知らない。今日も仕事の帰りに酒を飲めるのは、日本に爆弾が落ちてこないからだ。だが、ウクライナでは違った。突如、ロシアが攻め、平和が一瞬のうちに地獄と化した。それはウクライナが弱いとプーチンは判断したからだ。日本も弱いと習近平が判断すれば、ウクライナのように侵略してくるだろう。日本が地獄に陥らないためにも軍備の増強は待ったなしだ。残念ながらこれは世界的な流れである。この意味において世界は明らかに「グローバル経済」から「戦争経済」にシフトしている。未だにグローバル経済にしがみ付き、中国ビジネスに頼ろうとしている日本企業は誤りである。その事に早く気づいていただきたい。
こうした中、実際そうなるか否かは定かではないが、中国の習近平国家主席は今年11月の大統領選挙後に起きるだろう米国国内の分断に狙いを定めて軍事行動を起こすとの見方が浮上。民主党と共和党の支持者が選挙結果に抗議して米国社会が騒然となる。それをチャンスと捉え中国軍が台湾侵攻することが考えられる。
こうした緊迫事態を受けて日本は弾薬やミサイルの備蓄増強はもちろんのこと、戦闘機、護衛艦の戦力向上に力を入れなければならない。加えて日本は米国やアジア諸国からの軍需支援要請に応えることになる。その影響はひと握りの軍需産業だけではなく、日本の全産業に恩恵を齎すことが予想される。
かつて朝鮮特需をキッカケにして日本経済が成長期に突入したことがある。そのことが、株価を大きく押し上げた。当時、株価は約100円だったが米国の対外戦争(朝鮮戦争、ベトナム戦争から湾岸戦争)が続くと、紆余曲折がありながら株価は上昇しつづけ、バブル崩壊直前には約3万9000円と約400倍となった。世界的な軍需の高まりが日本に押し寄せるなら株価400倍の歴史パターンが再び到来する可能性がある。そして、その特需は前回述べた米防衛産業の「脱中国」を目指すサプライチェーンの大改革で発生すると本書では分析している。
こうした動きに対して日本の左派メディアは大反対。兵器を製造して商売している企業を「死の商人」と呼んで非難する。だが、時代は明らかに変った。平和を維持するためには、軍事力は不可欠なのだ。中国が攻めてきたら、「外交で話し合えばいい」という。中国が信奉しているのは「力」だ。力がなければ、侵略を実行する。侵略されたら日本は間違いなく、ウイグルやチベットのようになる。そうならないためには、日本は軍事力を強化しなければならない。だから、軍需やそれに携わる企業は「平和の商人」と言い改めるべきだ。
本書は「戦争経済」が日本に多大な恩恵をもたらし、日本が新しい時代を切り拓く主役になる主張している。是非、ご購読をお願いする。
(その1、2)
図)『「戦争経済」に突入した世界で日本はどう生きる』(著者国谷省吾、徳間書店
出典)徳間書店
トップ写真:韓国・ソウルのソウル駅で、北朝鮮のロケット発射のファイル画像を映すテレビ放送を見る人々。2023年5月31日。