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.国際  投稿日:2022/3/1

露ウクライナ侵攻で挑発の機会窺う金正恩


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

 

【まとめ】

・北朝鮮は公式表明していないが、外務省HPや論文でロシア支持の姿勢。米国を「強権・専横」と非難。

・「7日戦争計画」を目論む金正恩は、対韓国電撃作戦のため、ロシアのウクライナ侵攻作戦を詳細に分析している。

・金正恩は、米ロ対立、米中対立、韓国での親北朝鮮左派勢力拡大が武力統一の好機になるとみて機会窺う。

ロシアのウクライナ侵攻で世界の緊張が高まるなか、北朝鮮は2月27日朝、弾道ミサイル発射を強行した。韓国軍合同参謀本部は同日、北朝鮮が午前7時52分ごろ、平壌北部郊外の順安付近から朝鮮半島東の海上に弾道ミサイルと推定される飛翔体1発を発射したと発表した。

岸信夫防衛相は同日午前、北朝鮮が発射した飛翔体は弾道ミサイル少なくとも1発で、朝鮮半島西岸付近から東方向へ約300キロ飛翔して日本の排他的経済水域(EEZ)外に落下したと明らかにした。最高高度は約600キロだったと分析している。

北朝鮮による飛翔体発射は1月30日に中距離弾道ミサイル「火星12」を発射して以来28日ぶりで、今年に入って8回目となる。

写真)駅に設置されたテレビモニタで北朝鮮による弾道ミサイル発射のニュースに見入る人々(2022年1月5日 韓国・ソウル)

出典)Photo by Chung Sung-Jun/Getty Images

北朝鮮はこの発射について翌28日、「国家宇宙開発局と国防科学院は27日、偵察衛星開発のための重要な実験を行った」と報じ、「偵察衛星に装着予定の撮影機(カメラ)で地上を撮影し、高分解能撮影体系と資料伝送体系、姿勢操縦装置の特性と動作の正確性を立証した」と説明。「偵察衛星開発で重要な意義を持つ実験」と強調した。

■ 北朝鮮外務省のロシア支援論調

中国の習近平(シージンピン)国家主席は、中長期的に続く米国との対立をにらみ、米欧の対ロ制裁についてはロシアを支援するように指示していたことが27日、わかった。習近平は「ロシアは台湾の武力統一に支持を表明したことはないので、(ウクライナへの軍事侵攻については)当面は態度を示さない」との方針を示したうえ、「米英の違法な制裁下にあるロシアを経済・貿易面で支援する」よう指示したという。

中国税関総署は同月23日の公告で、病害などを理由に一部禁止していたロシア産小麦の輸入を全面解禁した。北京で4日に行われた中露首脳会談でも、自国通貨での決済拡大や中国への天然ガスの追加供給で合意するなど、ロシアが米欧による制裁の影響を相殺できるように下支えする動きを見せている(読売オンライン2022・2・28)。

中国との同盟を強化する北朝鮮も、ロシアのウクライナ侵攻擁護をこれまで正式に表明していないが、外務省ホームページの主張や個人名論文などを通じて、ロシアのウクライナ侵攻は「米国の強権と専横がその根本原因である」との論陣を張っている。

北朝鮮の外務省は13日、ホームページに「NATO(北大西洋条約機構)は、決して防衛同盟ではない」と題した論評を掲載した。ここで「最近、米国がロシアのウクライナ侵攻説を理由に、東欧に数千人の兵力を急派している」とし、「ウクライナをめぐる軍事的緊張を段階的に強めることで、米国がロシアを力で制圧するための武力増強を合理化しようとしている」と批判した。

この主張は、プーチン大統領が同月1日に行った記者会見の内容に同調するものだ。プーチン大統領は「米国とNATOがウクライナを軍事的に支援するのはウクライナの安保ではなく、ロシアを封じ込めようと考えているためだ」と指摘し、「NATOは冷戦の産物として、明らかに侵略的で支配主義的な軍事機構」と批判したのだった。

北朝鮮外務省は続けて同月26日、ホームページに「国際政治研究学会のリ・ジソン」名で、ウクライナを侵攻したロシアを支持する談話を発表。ロシアのウクライナ侵攻を「ロシアの合法的な安全上の要求を無視し、米国が世界の覇権と軍事的優位だけを追求し、一方的な制裁や圧力にしがみついてきたことに根源がある」と非難した。

そして「ソ連崩壊後、米国がNATOの東方拡大を絶えず進め、東欧にミサイル防衛体系を展開している。NATOの兵力をロシアの国境近くに前進配置するなど、ロシアに対する軍事的脅威を段階的に拡大していることは周知の事実だ」と主張した。さらに「米国とNATOが時代錯誤的な妄想にとらわれて、反ロシアに狂奔すればするほど、国の安全と利益を守るため、ロシアは強力に対応するだろう」と付け加えた。

写真)露軍のミサイルで被弾したとみられるキエフ市内のマンション(2022年2月26日 ウクライナ・キエフ)

出典)Photo by Anastasia Vlasova/Getty Images

■ ロシアの侵攻作戦を徹底分析する金正恩

金正恩は今、ロシアのウクライナ侵攻作戦を詳細に分析している。それはこの作戦が北朝鮮の対韓国電撃作戦に活用できると見ているからだ。金正恩は、2013年から2014年にかけて、韓国を武力支配する新たな速戦即決の「7日戦争計画」を立て、2015年を統一の年と叫んだことがある。

韓国の中央日報が2015年1月に入手したこの作戦計画の骨子は、北朝鮮が奇襲南侵し、局地戦が全面戦となった場合、米軍が本格介入できないように7日以内に韓国全域を占領するというものだ。韓国軍と駐韓米軍の反撃で戦況が厳しくなる場合でも最大15日以内に戦争を終えるという内容が盛り込まれた。北朝鮮はこの作戦遂行のために、核やミサイル、放射砲、特殊戦要員などの非対称戦力を利用して機先を制した後、在来式戦力で戦争を終えるという手順を定めたという。金正恩が、核とミサイルの使用を作戦計画に入れるように直接指示し、核兵器の小型化や米本土まで攻撃できる長距離弾道ミサイルを開発したことなどは、すべて新しい作戦計画遂行のためのものだと当時の韓国軍高位当局者は説明した。

また北朝鮮は朝鮮戦争での失敗を教訓にして、韓国全土の支配にこだわらず、ソウル占領時点で停戦を呼びかけ、親北朝鮮勢力を糾合した傀儡政権の樹立で米軍の排除を行い、統一を実現するとのシナリオも策定した。

金正恩は今、米ロ対立と米中対立の激化と韓国における親北朝鮮左派勢力の拡大が、武力統一の好機になると見込んで虎視眈々とその機会を窺っている。

トップ写真:会談に臨む北朝鮮の金正恩総書記とロシアのプーチン大統領(2019年4月25日 ロシア・ウラジオストク)

出典)Photo by Mikhail Svetlov/Getty Images




この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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