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.国際  投稿日:2023/9/8

北朝鮮とロシアの軍事協力の不吉な意味


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・米、ロシアと北朝鮮の接近が国際情勢をより危険にすると強調。

・北朝鮮がロシアに武器を提供した場合は「国際社会で代償を支払うことになる」と米、警告

・拉致事件に関しても、日本からの経済援助の期待からの事件解決への意欲を減らす。

 

アメリカ政府はロシアと北朝鮮の接近が国際情勢をより危険にするという展望を強調するようになった。ロシアと北朝鮮が軍事面でも協力を強めると、北朝鮮は米側からの年来の核兵器廃絶の要求を軽視するようになり、金正恩朝鮮労働党総書記は対外関係でのロシアや中国との絆の強化で、日本人拉致事件の解決への意思もさらに減らすという可能性さえも指摘される。

バイデン政権の国家安全保障担当の大統領補佐官ジェイク・サリバン氏は9月5日、北朝鮮の金正恩総書記がロシアを訪問してプーチン大統領と兵器取引の交渉にのぞむと報じられていることについて「金氏が直接に首脳レベルの話し合いを期待しているという情報がある」と述べた。サリバン補佐官はそのうえで北朝鮮がウクライナに侵攻するロシアに武器を提供した場合は「国際社会で代償を支払うことになる」と警告した。

この動きは実はニューヨーク・タイムズの報道が最初だった。金正恩・プーチン会談と北朝鮮・ロシアの接近の切迫した見通しをアメリカ政府情報機関からの情報のような形で報じたのだった。

金総書記は9月10日から13日までロシア極東のウラジオストクで開かれる東方経済フォーラムに出席し、その際にプーチン大統領との首脳会談を実施するという報道だった。サリバン補佐官がこの報道を確認する形となった。

北朝鮮はこれまでロシアへの兵器の売却を否定してきたが、アメリカ政府は昨年11月にこの両国間の兵器の売買を裏づけるような衛星写真を公表した。しかし今回のロシア・北朝鮮の首脳会談により、この種の兵器売却が公式になれば、アメリカや西欧各国の反発は激しくなる。

この北朝鮮とロシアの接近についてワシントンの大手研究機関「戦略国際問題研究所(CSIS)」のビクター・チャ朝鮮研究部長らは以下のような見解を9月6日、発表した。

 ・今回、明らかになった金正恩・プーチン首脳会談の可能性はここしばらく進んでいた北朝鮮とロシアとの軍事協力関係の証拠だといえる。この協力は通常兵器と食料・エネルギーの交換を越えて、偵察衛星、原子力潜水艦、弾道ミサイルなどの高度技術の領域に及ぶ気配もある。

 ・この両国の軍事協力はウクライナと朝鮮半島の両方の軍事情勢を複雑にする見通しが高い。ロシアによる北朝鮮への通常兵器の技術支援だけでも金正恩政権の兵力近代化につながり、韓国軍やアメリカ軍への戦闘能力を高めて、強硬な姿勢をとらせることになる。米韓側はその可能性への効率的な対応策は限られている。

 ・北朝鮮・ロシアの軍事協力はウクライナでの戦闘でロシア側の戦力を強化することになり、アメリカ、韓国、日本などだけでなく、西欧諸国も深刻な懸念をすでに表明している。北朝鮮はこのロシアへの新たな接近とともに、中国との軍事協力の推進をも目指し、中国、ロシア両国との合同の海軍演習をも計画している。この種の動きはアメリカにとって東アジアでの安全保障政策の大幅な再修正を迫ることにもなりかねない。

またアメリカ政府の国家安全保障会議でトランプ政権時代からバイデン政権で昨年まで北朝鮮問題を担当したシドニー・セイラ―氏は複数のアメリカのメディアに対して(1)金・プーチン会談に象徴される北朝鮮のロシアへの接近はアメリカに対する北朝鮮の立場を強固にして、これまでのアメリカからの核兵器全廃の要求に応じる動機を減らす(2)北朝鮮はロシアへの接近で経済面での支援を得て、国内の食料不足などの諸課題を軽減できるから、アメリカ、韓国、日本に対する対決姿勢もさらに強める――などという見解を明らかにした。

北朝鮮のこうした軍事面や国内経済面での態勢立て直しは日本人拉致事件に関しても、日本からの経済援助の期待からの事件解決への意欲を減らすこととなるといえる。日本側としての十二分の注意を払わねばならない新たな動きなのだ。

トップ写真:露プーチン大統領と金正恩北朝鮮朝鮮労働党委員長(2019年4月25日 ロシアのウラジオストク)出典:Photo by Mikhail Svetlov/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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