不法入国の少年団による強盗 ニューヨークの悩み
古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・ニューヨーク市で不法入国した少年たちによる強盗団が逮捕された。
・主犯はわずか11歳のベネズエラ出身の少年だった。
・地元紙はこの少年を「ベビーフェイスをした移民の泥棒」と評し、バイデン政権の国境警備をずさんだと評論した。
いまアメリカ社会は不法入国者の奔流のような大量流入に悩まされている。入国管理の甘い民主党バイデン政権の政策の結果だとされるから、いまの大統領選挙への影響も大きい。そんななかでニューヨーク市で不法入国した少年たちによる強盗団が逮捕された。地下鉄車内での強盗だった。そしてなんとその主犯はわずか11歳のベネズエラ出身の少年だったというのだ。不法入国者問題の悪の波紋を凝縮したような事件として全米に衝撃を広げている。
ニューヨーク・ポスト紙などアメリカ側の報道機関によると、この少年強盗団事件はニューヨークの現地時間で8月13日の火曜日午後8時40分ごろに起きた。舞台は市内のクィーンズ地区からマンハッタン地区に向かう地下鉄車内だった。乗客の24歳のアメリカ人青年が突然、4人ほどの少年に囲まれ、持っていたスマートフォンを奪われた。IT企業に勤務するというこの青年がスマホを奪い返そうとすると、少年たちに頭や顔を殴られ、少年たちはスマホを持って逃走したという。
事件直後、被害者から届け出を受けた警察は敏速に動き、この少年たちがマンハッタン地区の不法入国者収容所付近に盗品を持ったままいることを突きとめ、逮捕した。
調べの結果、少年4人はみなベネズエラ国籍の不法入国者で、年齢は11歳から17歳まで、しかも驚いたことにそのうちの11歳の少年が地下鉄内でのスマホ奪取ではその犯行での被害者の襲撃や事前の計画でも主犯だったことが確認された。この11歳の少年は他の強盗事件にもかかわり、その際の盗品のクレジットカードを使用しようとした行為が防犯カメラに写されたことも判明した。
警察当局はこの11歳の少年を逮捕し、手錠をかけて連行した。その動きは小柄の少年が後ろ手錠をかけられ、大柄な警官に連行されてパトロールカーに乗せられる瞬間を写真に撮られ、ニューヨーク・ポスト紙の第一面に大きく掲載された。少年は白いTシャツに黒いショートパンツ、靴もきちんとしたものを履き、一般のアメリカ少年との区別ができない外見だった。
ニューヨーク・ポストの報道によると、この少年は同じベネズエラからメキシコ経由でアメリカに密入国してきた他の少年たちと犯罪集団を組織して、ニューヨーク市内で強盗や窃盗、ひったくり、万引きなどを繰り返してきたという。同紙はこの少年を「ベビーフェイスをした移民の泥棒」と評して、バイデン政権の国境警備をずさんだとする評論をも載せた。
ニューヨーク市では中南米からの不法入国者による犯罪が増えており、8月14日にもブルックリン区の警察がニカラグア国籍の24歳の男とメキシコ国籍の37歳の男を女性への暴行などの容疑で逮捕した。警察の発表によると、この2人はともに不法入国者で、8月11日夜、ブルックリン区のコニーアイランド地区で46歳のアメリカ人女性にナイフを突きつけてレイプしたという。
ニューヨーク市は民主党の市長や州知事により、これまで長年の間、外国出身の人間の居住資格などを取り締まらないという「聖域(サンクチュアリー)都市」に指定されてきた。このためバイデン政権になってからの不法入国者の激増に対してもその暫定的な受け入れには積極的となってきた。その結果、ニューヨーク市内には中南米からの入国者が多数となり、市内各所に不法入国者向けの拘留所や収容所が設置されてきた。
・New York Postの記事はこちら。
トップ写真:2024年8月15日、ニューヨーク市セントラルパークで起きた一連の強盗事件を受け、警察が「指名手配」ポスターが掲示されている。近隣のホテルに滞在する若い移民による犯行とみられている。11歳の少年が被害者のクレジットカードを使おうとして逮捕された。出典:Spencer Platt/Getty Images
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。