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.政治  投稿日:2024/8/17

看過できないトランプ「3000年住めない」発言 日本政府はモノを言え


樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)

【まとめ】

・11月の大統領選で返り咲きを狙うトランプ前大統領が、東京電力福島第一発電所の事故に関し「(被災地には)3000年、人が住めない」など妄言を並べ立てた。

・地元の人たちは反発しているが、日本政府が抗議をした形跡はない。

・〝独特〟の価値観、理念を持つトランプ氏が超大国のリーダーに返り咲いたらどう協調すべきか。日本は真剣に考えるべきだろう。

 

■「冗談」ではではすまされない低次元さ

トランプ発言についてはすでにメディアで報じられている。

ワシントンなどからの報道によると、8月12日、自らを支持する実業家、イーロン・マスク氏との対談でトランプ氏は、「原子力は最大の脅威だ。日本で起きたことを考えると、3000年は土地に戻ることができない」と事実無根の発言をした。

東日本大震災直後の2011年7月に相馬市を訪問したマスク氏は面食らいながら、「それほど悪くはない。地元でとれた野菜を食べて、それを証明した」と反論、やんわりとたしなめた。

トランプ氏は反省するどころか、「だから最近体調が悪そうに見えるんだな。心配だ」となど悪ふざけで応じ、「冗談だ」と言い添えた。

戯言で片づけられる問題では到底なく、風評被害と戦っている地元の農家、漁民を貶め、避難指示解除を待って住み慣れた家に戻った地元の人たちを愚弄、侮辱する発言というべきだろう。

トランプ発言に対して、「私たちは福島に住んでいる」「トランプは何を言うかわからない」(FNNプライムオンライン)など地元から早速反発があがったのは当然だった。

「無責任発言に反論せず」が政府の姿勢 

トランプ氏がかつて率いていたアメリカ政府は現在、福島第一原発処理水の放出に理解を示している。エマニュエル駐日大使が昨年9月とことし7月、相馬市などを訪問、地元産のナシや桃に舌鼓をうち、「福島の魚や水の安全性に関する懸念には根拠がない」などと述べ、風評被害払拭に協力した。

強硬姿勢を貫いてきた韓国政府も、尹錫悦政権が登場してから方針を変更、昨年、放出に反対せずの姿勢に転じた。尹大統領自らソウル市内の市場を訪問、海産物を食してみせた。

自国の大使、日本の隣国の大統領が福島産品の後押しをしてくれていることにくらべれば、トランプ氏の発言の次元の低さ、程度の悪さに啞然とする。悪ふざけというより、無知、モノを知らないのだろう。

現在は民間人とはいえ、前大統領として秋の選挙での政権復帰が現実味を帯びていることを考えれば、決して放置できない問題だ。

日本政府がそれに抗議した形跡はない。

外務省は「現職大統領の発言ならともかく、現在は一候補にすぎない人物の無責任な発言にいちいち反論するのは適当ではない」(外務省報道課)との姿勢だ。

いわれてみればその通りで、数々の放言を連発しているトランプ氏にいちいちつきあうのはうんざりというのも理解はできる。

しかし、ことがこととだけに言われっぱなしというのはやはりも問題、ここは日本としてははっきりモノを言っておく必要があるだろう。

外務省報道課幹部も、官房長官、外相らが記者会見で、質問に答える形で見解を示す可能性に言及しているが、コメントを発表する形式ででも行動を起こす必要があるのではないか。

■〝特異な価値観〟の持ち主とどう協調するか

それにしても、トランプ前大統領が政権に復帰した場合、日本はどうつきあっていくべきか。難しい命題だ。

安全保障、貿易摩擦など個別案件もさることながら、氏の持つ〝特異〟、独自の価値観、政治理念は、日本を含む同盟国とのそれと相いれないことがしばしばだ。

人種差別、性差別など、人間の生き方の関する問題で眉を顰めさせ、外交における孤立主義、貿易での保護主義など同盟国の反発を買うトランプ氏の行動、発言は枚挙にいとまがない。

非難に根拠がないと主張するかもしれないトランプ・ファンに、ごく一部を紹介すると、在任中の2019年、非白人の女性下院議員らに「国へ帰れ」と罵倒し、同じ時期、黒人の有力下院議員の地元を「気色悪いネズミばかりのひどいところだ」と中傷発言したことがある。

2016年の選挙では不倫相手の元ポルノ女優に日本円で2千万円の口止め料を払った。

前大統領はカムバックを果たしたなら、報復のために、自らを訴追した連邦検事らを罷免、2021年1月6日の連邦議会襲撃で有罪となった800人にものぼる被告に恩赦を与えるとも公言している。

2024年2月には、NATO(北大西洋条約機構)加盟国が十分な国防費を支出しない場合、「米国は彼らを守らない。ロシアにやりたいことをやるように奨励する」と述べ、その侵略を助長するような発言をして世界中を仰天させた。

 モノいわなければ世界の笑いものに

故安倍晋三首相は在任中、トランプ氏が2016年の選挙で初当選した直後、各国首脳にさきがけてニューヨークにトランプ氏を訪問、意見交換した。

効果あってか、これを機に安倍氏とトランプ氏は、強固な友情関係を築き、トランプ政権はその在任中、一貫して日本に対する圧力を控えてきた。

安倍氏の功績だろうが、トランプ氏は在任中、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記と会談したにもかかわらず、核問題も日本人拉致問題も解決できなかった。

むしろ、日本は、西欧の一部から、日本の指導者、国民はトランプ氏と同じ価値観、理念を共有しているのかとの疑念を呼んだことは想像に難くないし、米国の一部メディアからはドナルドーシンゾウ関係に対して「へつらい」という評価が聞かれたのも事実だった。

侮辱には断固抗議し、誤りには直言、時には耳の痛い苦言を呈して胸襟を開く関係こそが真の同盟関係だろう。トランプ氏から下卑た言葉を浴びせられっぱなしでは、日本にとっては、国の品格すら問われるだろう。

トップ写真:ノースカロライナ州アッシュビルで行われた選挙イベントで演説するとランプ氏(2024年8月14日)出典:Grant Baldwin/Getty Images 




この記事を書いた人
樫山幸夫ジャーナリスト/元産経新聞論説委員長

昭和49年、産経新聞社入社。社会部、政治部などを経てワシントン特派員、同支局長。東京本社、大阪本社編集長、監査役などを歴任。

樫山幸夫

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