[藤田正美]<安倍政権に迫られる決断>好調なロシア関係を維持しつつ、どうやってアメリカの対ロ制裁強化に歩調を合わせるか?
Japan In-Depth副編集長(国際・外交担当)
藤田正美(ジャーナリスト)
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7月28日、安倍政権はウクライナでのマレーシア機撃墜事件に関連して、ロシアへの追加制裁措置を実施すると発表した。ヨーロッパではEU加盟28カ国の代表が集まり、7時間以上も議論して制裁強化で足並みをそろえることに合意した。アメリカは今週末までに制裁強化の具体策を発表すると見られている。
ロシアはこれまで、日本は「良き隣人」であるのだから、アメリカなどと行動を共にしないよう要請してきた。そうは言われても、日本にとってアメリカとの関係は最も重要な2国間関係だから、アメリカの「制裁強化」に付き合わないわけにはいかない。
ウクライナ危機が始まったときから、日本にとっての外交的課題は明確だった。かつて例がないほど軌道に乗っているロシアとの関係(安倍首相は就任以来、すでに5回もプーチン大統領と会談している)をどうやって維持しつつ、制裁という「先進国の団体行動」からも外れないようにするかということである。
実は、この制裁、欧米とも「制裁を強化する」と大きな声で言いつつ、実質的な意味のあまりないメニューを並べるというのが当初からの方針だった。ウクライナは欧州にとってはロシアからのパイプラインが走る重要な地域だし、クリミア半島をロシアが手放すことはないというのが共通認識だったからである。その路線は、マレーシア機撃墜事件という新しい要素が加わっても、基本的に変わらない。もちろん日本も同じことである。
EUは今回の制裁強化で、ロシア国営銀行の株や債券を買うことを禁止する。すなわちロシアへの資金パイプのひとつを締めるということだ。しかしロシアの民間銀行やロシア国債はその対象とはならない。つまり、ようやくロシア制裁の強化で足並みをそろえたかに見えるEUですら、口ほど強硬姿勢というわけではない。ロシアのカネで潤っているイギリスもこれなら受け入れやすいというのがおおかたの観測である。
フランスなどはミストラル級の強襲揚陸艦については、ロシアに引き渡すことを決めている。フランスは過去にまいた種を刈り取ったわけで、これで各国とも自分たちの利害を表に出して主張しやすくなるということだ。
日本にとってロシアは重要な存在だ。ひとつはエネルギーである。ロシア東部から出る天然ガスなどを東の港町から積み出して日本に運ぶ。こうした負担をロシア側の責任で行うとしている。ロシアがそこまで腰が低いのは、中国だけに天然ガスを供給したくないからだ。中国に牛耳られれば、価格も維持できなくなる。それは資源輸出に頼るロシアとしては何としても避けたいことになる。
そして冷たい関係にある日中という状況を考えれば、日ロ関係を友好的に築くことが何よりも重要だろう。北方四島の話を解決するためではなく、何とか現状を大きく変更せずに折り合いをつけるためだ。表向きにはお互いに「非難」しあっても、裏ではそっと手を握るというのが、これからの日ロ関係の枠組みということになりそうだ。
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