侍ジャパン世界一、テレビ地上波ライブ中継がなかった!①
渋川智明(東北公益文科大学名誉教授)
渋川智明の「タイブレーク社会を生きる」
【まとめ】
・テレビ朝日系列局がない地域でテレビのWBCの決勝戦中継がなかった。
・有料ネット動画配信サービスにアクセスができない人は観戦できなかった。
・アメリカのメジャーリーグ・スター軍団人気でテレビ放映権料が高騰した。
▪️大谷VSトラウトの一騎打ちは46%の高視聴率(関東)
侍ジャパンの2刀流大谷翔平が、WBC(ワールド・べスボール・クラシック)でアメリカのキャプテン、エンゼルスのチームメート、トラウトを3振に打ち取り、世界一になったシーンは地上波TV中継世帯視聴率が46.0%(関東)にも上った。
全国的に高齢者の視聴率が最も高かった。ところが、宮崎などテレビ朝日系列のテレビ局がない地域では、高齢者や何らかの障害を抱えている人は、パブリックビューイングに出かけることが出来ず、またネット配信したアマゾンプライム、或いはCATV(有線放送)で隣県の放送にアクセスできない多くの人は、決勝戦を自宅で観戦できなかった。
▪️野球熱が復活し、大谷人気は社会現象へ
写真)アメリカとの決勝戦の9回表で、ボールを投げる大谷
2023年3月21日 アメリカ フロリダ州 ローンデポ・パーク
出典)Gene Wang / Getty Images North America
侍ジャパンメンバーだった選手は本格シーズン入りで現在、プロ野球、アメリカのメジャーリーグで活躍している。
NHKは朝のBS放送中継でアメリカのメジャーリーグで活躍する大谷ら日本人選手のプレーを連日、放送している。大谷の人気は今や社会現象と言えるまで高まっている。侍ジャパンの4番バッター、吉田選手らの日本人選手の活躍も目覚ましい日本のプロ野球もセパ交流戦が始まる。野球のさらなる人気の高まりは、侍ジャパンの世界一によるところが大きい。
▪️テレビ朝日とTBSが放映権を獲得
今回のWBC中継は、日本ではTBSとテレビ朝日が放映権を得た。最も関心が高く、視聴率も跳ね上がった決勝戦は、TV朝日が中継した。
決勝に至るまでも、大逆転劇などで感動的な試合があったが、TBSとテレビ朝日が分担して中継した。このため、どちらかの系列局がない地方の地域では、準々決勝、準決勝なども中継なしのゲームがあった。
宮崎県在住の知人の話では、サッカーのワールドカップの際も同じような課題があり、地元の公的な懇談会やメディア間の話し合いでは、この問題が話題にはなるが、ネットの普及で、若者中心にテレビ離れ傾向の昨今、局増設も困難だろう。とはいえテレビの社会的影響力はスポーツ中継に限らず大きい。
▪️アメリカが本気を出し、スター軍団チーム人気で放映権料が高騰
アメリカが本気のメジャーリーグ・スター選手をそろえた。人気・ビジネス価値ともに高まり、その結果TV放映権料が高騰した。
放映権料のアップは放送局の財政規模、政治的パワーともに大きいアメリカのテレビ局がつり上げた面もある。また日本では、競輪・競馬など公営ギャンブル以外は禁止されている。海外は異なり、スポーツがギャンブルの対象になっている。それも関係しているとも指摘されている。
日本のWBC中継2局は高視聴率を上げたが、広告・スポンサー収入でも採算的に苦しい。コロナ禍もあり、近年インターネット広告が急激に伸び、テレビコマーシャルの広告出稿が伸び悩んでいる。このため他の民放は撤退か。
▪️NHKが中継なし
受信料を徴収するNHKが中継していれば、全国をカバーできる。公正中立、ビジネスに特化した広告宣伝やコマーシャルが禁止されている。放送法64条1項は、「受信契約」を締結と受信料支払いを定めているが、受信料制度への批判、受信契約者の減少などで受信料値下げが決まっている。2023年度の予算はマイナス280億円の「赤字予算」だった。WBC中継から手を引いた本当のところは定かではないが、尾を引いていよう。
▪️人気スポーツの過剰なビジネス化と利権マネーの寡占
近年、人気スポーツが過剰にビジネス化している。一部の競技主催団体と周辺事業者に対する利権マネーの寡占化が問題になっている。
東京オリンピックでは、みなし公務員とされる大手広告会社出身のスポーツコンサルが、イメージキャラクター入りなどを目指す大手企業からの賄賂スキャンダルがあった。開催費用が膨らむ一方で、ファンにもそのツケが回って来る。
選手の妥当な報酬・待遇改善や環境の整備は当然だが、ごく限られた人気競技のプロスポーツ・スーパースター選手への天文学的な報酬額アップの是正も必要だろう。地上波TVだけでなく、世界の有料衛星・オンライン放送などの放映権をめぐる過熱・過当競争を招いている。
そうした複雑かつ巨大な背景がグローバル的に横たわっていることに目を向ける必要がある。次回は巨大化し、複雑化した多様なメディア社会の背景にも目を向けたい。
②へ続く
トップ写真:トラウトとの一騎打ちを制し、マウンド上で喜びをあらわにする大谷選手 2023年3月21日 アメリカ フロリダ州 ローンデポ・パーク
出典:Jasen Vinlove/Miami Marlins / Getty Images North America
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この記事を書いた人
渋川智明東北公益文科大学名誉教授
東北公益文科大学名誉教授。
早稲田大学卒業後、1971年、毎日新聞入社。東京本社社会部編集委員(厚生労働担当)。2005年、東北公
益文科大学公益学部(山形県酒田市)教授・公益学部長、大学院(山形県鶴岡市)公益学研究科長。
定年退職後、法政大学社会連帯大学院、目白大学生涯福祉大学院非常勤講師を経て現
在は専門学校・社会医学技術学院=東京都東小金井市=講師(非常勤・社会保障論)。
著書「福祉NPO」(岩波新書)、「介護保険活用ガイド」(保健同人社)、「賢い
患者になろう」(実業之日本社)「ソーシャルビジネスで地方創生」(ぎょうせい)=
以上単著、「認知症対策の新常識」(日東書院・共著)等。