自公は「本当は」負けていないかも知れない政治の季節の隙間風 その2
林信吾の「政治の季節」
【まとめ】
・自公両党が予想以上に議席を減らしたものの、野党は依然それに及ばない
・投票結果は有権者の、自民党への裏金問題での不信感と、野党への政権は任せられないという不満感を表す
・自民党内の分裂が噂されるが、現実的とは思えない
(これでも政権交代とはならないのか……)というのが、総選挙の大勢が半径した時点で、私がまず感じたことであった。すでに大きく報じられていることではあるが、自民党と公明党の連立与党(以下、自公)は過半数割れとなった。議席数については、これもマスメディアが大きく報じてはいるのだが、事前の予測と照らし合わせつつ、少しだけ見ておこう。
まず自民党。25日までの段階で、すでに単独過半数割れは必至と見られていたが、それでも200議席は取るのだろうと考える向きが多かった。しかし蓋を開けてみれば191議席と、200の大台を大きく割り込んだ。ちなみに改選前は247議席と単独過半数を有していたので、実に56議席も減らしてしまったことになる。連立与党の公明党も、改選前の32議席から24議席へと大幅減。この結果、両者合わせて215議席となって、過半数(233議席)を下回った。民主党政権が誕生した2009年以来のことだ。
自民党の議席が減った分は、当然その多くが野党に移ったわけだが、まず最大野党の立憲民主党(以下、立憲)は改選前の98議席から148議席に増やした。マスメディアには「130台後半から140台前半」と予測する向きが多かったが、私は個人的に、(150くらいは取るのではないか)と考えていたので、いずれも僅差で「みごと的中」とはならなかった。
国民民主党(以下、国民)は、改選前の7議席から28議席と、実に4倍増だが、もとが小さかったので、少し割り引いて評価した方がよさそうだ。いずれにせよ、民主党から分かれたふたつの政党が仮に「再統一」したところで、合わせて176議席と、自民党単体にも及ばない。
とどのつまり有権者は、今次の総選挙において、自公政権には厳しくお灸を据えなければならないが、政権交代までは望まない……という意思表示をしたとも考えられるし、野党の側に、本気で政権を取りに行く気概があったのか、という疑問も未だ払拭できない。この問題は、項を改めて掘り下げよう。いずれにせよ石破首相の求心力低下は免れ得ず、戦後最短レベルの政権で終わるのでは、という観測も流れはじめている。もっとも、連立の枠組みを変えることで延命を図る、という選択肢も自公政権にはあるので、げんに選挙戦の途中ですでにそれを示唆する発言も聞かれた。
とは言え、この原稿を書いている28日の時点では、いずれの野党も、ただちに連立政権への参加を前提とした協議には応じる考えはないとしているし、石破首自身、連立の枠組みを今すぐ変えるのではなく、個別具体的な政策について、「一致できるところは一致してやって行く」などとトーンダウンした。
具体的には、国民の玉木党首を念頭に、同党が主張してきた家計支援策(電気・ガス料金の値下げなど)を採り入れて予算を成立させたい考えであるらしい。また、11月11日に招集との方向で調整が進められている(28日段階)臨時国会において、首班指名選挙が行われるわけだが、これについても玉木党首に協力を呼びかける考えであることを示唆している。と言うのは、前述のように自公が過半数を下回ったので、首班指名選挙においても一度の党票では決まらず、上位2名による決選投票にもつれ込む公算が大きいからだ。一方、もうひとりの「首相候補」である立憲の野田代表も、玉木党首に秋波を送っている。政局が混乱すると、小政党がキャスティングボートを握るのは今に始まったことではないが、果たしてこれでよいのだろうか。
自民党内にはまた、早くも出直し総裁選を見据え、高市早苗議員を旗頭にして、旧安倍派が旗振り役となっての「石破おろし」を引き起こし、それでも駄目だった場合は、前回の総裁選で彼女を強く支持したコアな保守層を糾合した新党の旗揚げもあり得る、と見る向きまであった。そうなれば本当に自民党分裂がらみの大政局になるので、話としては面白いが、私自身はこの予測を、「可能性はゼロではないが、あまり現実的とも思えない」といった程度に突き放して見ていた。
第一に、旧安倍派が自民党を割って出るとして、そこにいかなる大義名分があるのか。たしかに総選挙で大敗した与党の党首は、クビを差し出すのが筋ではあるだろう。が、そもそも論から言うならば、自民党がここまで有権者の信頼を失った原因は、派閥のパーティーを利用して裏金を作り、税金までごまかしていた議員たちの所業であり、そうした「裏金議員」の多くが旧安倍派の重鎮たちであった。早い話が、旧安倍派が失地回復を狙って「石破おろし」だ分党だなどとは、一般有権者にしてみれば、どの口が言うのか、という話でしかないだろう。
なにより、前述の「コアな保守層」とされる人たちの了見が図りかねる。まだ自民党総裁選の結果が出る前から、「高市総裁が実現しなかったら、抗議のために比例区で自民党に投票するのはやめよう」といった投稿がネット上に散見されたし、実際に石破政権誕生となってからは、そうした声が一段と大きくなった。自民党執行部や、高市候補の推薦人となった保守派の議員たちも、「これは高市さんを応援するというのとは真逆の行為です」などと苦言を呈したほどである。
今さらながらだが、いわゆるネット世論とリアルな世論は一致しないので、自民党には投票しない、とした人たちが、どこまで選挙結果に影響を与えたかは疑わしい。とは言え、少なくともよい影響は与えていないだろう。「強敵より無能な味方の方が厄介だ」とは昔から言われることだが、今次もまさにその構図だったのではあるまいか。そもそも今次の総選挙で明らかになったのは、憲法改正や靖国神社公式参拝などを主張する「コアな保守層」の退潮ぶりである。
冒頭の私の感想も、この結果を踏まえてのもので、野党がもう少し頼りになれば……という思いは、まだまだ払拭できそうにない。具体的にどういうことかは、次回。
(その3に続く。その1)
トップ写真:立憲民主党党首、野田佳彦氏の選挙戦序盤の演説(2024年10月15日)出典:Photo by Buddhika Weerasinghe/Getty Images