芝浦に木造高層ビル これからどうなる?
Japan In-depth編集部(成沢緑恋)
【まとめ】
・東急不動産は木造RCハイブリッド構造を採用した環境配慮型物件『コンフォリア芝浦 MOKU』を竣工。
・同社はハード面とソフト面の両面から環境への取り組みを推進し、環境意識をリードする企業を目指す。
・木造賃貸マンションの普及は、人々の環境への意識にかかっている。
都内の賃貸住宅物件に新しい流れが出てきた。木造と鉄筋コンクリート(RC)を組み合わせたハイブリッド住宅がそれだ。
2024年10月、東急不動産株式会社は、同社の賃貸レジデンス「COMFORIA」シリーズ初となる木造RCハイブリッド構造の『コンフォリア芝浦 MOKU』を東京都港区芝浦4丁目に竣工した。
木造RCハイブリッド構造とは木造と鉄筋コンクリート造を組み合わせた構造のことで、本物件はZEH(※1)や低炭素建築物認定(※2)等も取得する環境配慮型物件となっている。11月8日に開かれた内覧会では、その全貌が明らかになった。
◼︎環境配慮型物件の詳細
本物件は「木質化」を主軸にしており、壁面緑化を取り入れた正面の外観からも木の温かみを感じることができる。驚いたのはエントランスに足を踏み入れたときだった。建物内に入った瞬間、木材の良い香りに包まれた。
実は、本物件では環境への取り組みを身近に感じる工夫が色々施されている。その一つが、この「香り」である。エントランスと2階ラウンジに、ロート製薬株式会社「BELAIR LAB」と共同開発したサステナブル香料を用いたオリジナルフレグランスによる空間演出が取り入れられており、まるで森の中で深呼吸をしているかのような香りが感じられる。
また、2階ラウンジには、本物件のテーマ「MOKU」を視覚的に感じられる工夫が凝らされている。ラウンジの入り口には樹齢160年のスギの最も根に近い部分をまるごと使用したテーブルが置かれており、その奥には立ち入り可能なウッドチップが散りばめられたエリアがある。
▲写真 樹齢160年のスギを用いたテーブル ©Japan In-depth編集部
▲写真 ウッドチップエリア ©Japan In-depth編集部
ラウンジのバルコニーには海洋ごみを再生利用した椅子が設置されており、さらに、ラウンジの塗料には自然由来かつ最終的に土に還る無害の塗料が使用されるなど、随所に環境への配慮が感じられる。
▲写真 海洋ごみを再生して作られた椅子 ©Japan In-depth編集部
本物件は1DK、1LDK、2LDKの住戸が用意されており、特に1LDKが過半数を占める。住戸のほとんどは木造RCハイブリッド構造だが、最上階の9階には木造住戸が2戸設けられている。木造住戸では柱や梁・フローリングに天然木が採用されている。
また、木造であること以外の環境への配慮として、COMFORIAシリーズ初となる全館空調システム、「床チャンバー空調システム」が取り入れられている。このシステムは、最適な温度と湿度を自動制御するだけでなく、大気中の熱を汲み上げ熱エネルギーに転換する仕組み「ヒートポンプ」を利用している。そのため、一次エネルギー消費量は建築物省エネ法基準値に比べて28%削減しており、環境負荷を大幅に抑制している。
本物件の賃料は30万円台が中心で、最上階の木造住戸は60万円〜70万円と予定されている。現時点で全体の3割ほどの住戸を公開しており、比較的高めの賃料設定にもかかわらず、半数にはすでに申し込みが入っているという。
▲写真 9階の木造住戸 ©️Japan In-depth編集部
◼︎東急不動産の今後のビジョン
環境に配慮した賃貸レジデンスの開発に関して、東急不動産の住宅事業ユニット首都圏住宅事業本部計画第二部事業企画グループの辻香帆氏は、ハード面だけでなくソフト面でも環境への取り組みを推進していきたいとの考えを示した。
建物や家具などハード面における環境配慮が随所に見られる本物件だが、運河沿いという立地特性を活かし、居住者を対象とした、鉄炭電池の投下等による運河浄化体験活動等のイベントなども計画されている。
「環境先進」を打ち出した企業として、サステナブルを感じられる住まい作りだけでなく、そこに住む人々の環境問題への意識を高められるようなソフト面でのサービスも充実させ、環境意識をリードしていくと語った。
◼︎今後の木造賃貸物件の展望
このような木造賃貸マンションの開発を行っているのは東急不動産だけではない。三井ホームは、木造賃貸マンションシリーズ「MOCXION」を2021年から展開している。循環型資材である「木」を主要構造材に用い、「高断熱・高強度・高耐久な性能を備えた木造マンション」をテーマに、これまでに四谷三丁目や北千束などに開発を行っている。MOCXIONシリーズの第1号であるMOCXION INAGIは「国土交通省 令和2年度サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」に採択されたプロジェクトでもあり、持続可能な建築物のモデルケースとなっている。国としてもカーボンニュートラル(※3)に貢献する木造物件の開発を推進している中で、今後木造賃貸物件は増加していくのだろうか。鍵となるのは、やはりコストだろう。木造である分、建設に掛かる費用が高くなるため、賃料も相場に比べて割高となる。コスト面での難点に対して、「環境にやさしい」というコンセプトがどれだけ消費者の共感を集めるか。木造賃貸物件の普及は人々の環境意識にかかっている。
※1 ZEH
「Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」の略語。「高断熱」でエネルギーを極力必要としない、「省エネ」で消費電力を抑えながら、効率良くエネルギーを使う、エネルギーを創る「創エネ」システムを取り入れる、という三つの特徴を持つ。ZEH Orientedは発電装置の導入を必要とせず、都市部の狭小住宅や積雪の多い地域に用いられる。
※2 低炭素建築物認定
二酸化炭素の排出の抑制に資する建築物で、所管行政庁(都道府県、市又は区)が認定を行うもの。認定の基準は①省エネ法の省エネ基準に比べ、一次エネルギー消費量が△20%以上となること。②再生可能エネルギー利用設備が設けられていること。③省エネ効果による削減量と再生可能エネルギー利用設備で得られるエネルギー量の合計値が基準一次エネルギー消費量の50%以上であること(一戸建ての住宅の場合のみ)。④その他の低炭素化に資する措置が講じられていること。
https://www.hyoukakyoukai.or.jp/teitanso/info.html
※3 カーボンニュートラル
二酸化炭素など温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、その排出量を「実質ゼロ」に抑えるという概念。
トップ写真:コンフォリア芝浦、MOKUの外観 ©️Japan In-depth 編集部