[藤田正美]<ロシアと欧州のつばぜり合い>ロシア経済の落ち込みは、EUへも小さくない「ブーメラン効果」も。
Japan In-Depth副編集長(国際・外交担当)
藤田正美(ジャーナリスト)
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ロシアの国営航空会社アエロフロートの格安航空子会社が欧州の空から締め出された。
ウクライナ危機に関連して、対ロ制裁のリストに同社が加えられたからだ。クリミアとモスクワの間を運航していたというのがその理由だ。これでEUの企業などは同社と取引することができなくなり、飛ばすことも不可能になったのである。
もちろんロシアも黙ってはいない。報道によると、ロシアの航空当局は、EUの航空会社がシベリア上空を通過するのを制限しようとしているという。この影響は小さくない。欧州からアジアに向かう飛行機はシベリア上空を通過する。
もし迂回して飛ぶことになれば燃料費などで一回3万ドル、距離にして4000キロも余計にかかるのだという。日本の航空会社はまだ規制対象になるかどうかわからないが、日本がもし対ロ制裁を強化すれば、同じ措置を受けるかもしれない。
また制裁強化の一環として、ドイツは、ロシアとの軍事に絡む契約を打ち切った。総額で1億2000万ユーロの戦闘シミュレーションセンターである。今回の制裁強化にあたって、フランスは強襲揚陸艦ミストラルのロシアへの引き渡しを制裁から外すことに成功したが、ドイツが契約を打ち切ったことで、フランスへの風当たりが強くなることは間違いない。
EUがアメリカに同調して制裁を強化しても、ロシアのプーチン大統領は「軟化」する兆しを見せるどころか、むしろますます強硬になっているように見える。支持率80%を背景にここで弱腰になることはできないのかもしれない。
しかし、ロシア経済はそう強気ではいられない。海外企業による今年上半期の対ロ直接投資は前年同期に比べて半減した。ロシアの中央銀行は今年の成長率がゼロに近づくと警告したが、この調子でいくとひょっとするとマイナス成長に落ち込むかもしれない。
ロシア経済が落ち込んだ場合、EUに対する「ブーメラン効果」(プーチン大統領)も決して小さくはなさそうだ。ドイツのシュピーゲル誌(オンライン版)によると、ウクライナ危機が続けばドイツで2万5000人の雇用が失われかねないという試算が出た。またロシアがもしマイナス成長になれば、ドイツのGDP成長率は0.5ポイント低下するともいう。
「ガマン比べ」ということになれば、ゼロ成長で海外からの資金調達の道が狭められているロシアに勝ち目はなさそうに見える。そうなればなるほど、日本が外交的にうまく立ち回る道も開けてくるのかもしれない。
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