被告人李在明大統領による保守勢力壊滅作戦始まる

朴斗鎮(コリア国際研究所所長)
【まとめ】
・李在明新大統領は「国民統合」を掲げつつ、保守勢力の一掃と司法掌握に乗り出している。
・韓国国会では、前政権関係者を対象とする3つの特別検察法が成立し、大規模な捜査が開始される予定。
・特別検察法の導入により、保守勢力への圧力が強まり、大規模な粛清作業が進行すると予測されている。
6月3日韓国の第21代大統領選挙が行われ、左派の「共に民主党」李在明(イ・ジェミョン)候補が大統領に当選した。主要候補の得票率は、左派李在明49.4%、保守「国民の力」金文洙(キム・ムンス)候補41.1%、改革新党の李俊錫(イ・ジュンソク)候補8.3%だった。左派民主労働党の権英国(クォン・ヨングク)候補は0.98%だった。
韓国中央選挙管理委員会は6月3日午後8時、投票を締め切り、総選挙人4439万1871人のうち3524万916人が参加したことが暫定集計されたと発表した。最終投票率には5月29〜30日に実施した事前投票率(34.74%)と在外·船上·居所投票の投票率が反映された。
KBS、MBC、SBS韓国放送3社が行った今回の出口調査は、李在明51.7%、金文洙39.3.3%、李俊錫7.7%だった。誤差は70万票近くあった。
中央選挙管理委員会は4日午前6時から全体委員会議を開催して大統領当選人決定案を議決し、午前6時21分から李当選人の任期が始まった。
■保守弾圧に向け司法完全掌握に着手した李在明
共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)新大統領は、就任の挨拶で「国民統合」を約束したが、彼の「国民統合」が、反李在明勢力の一掃による「国民統合」だということが早くも明らかとなった。
彼は、遊説最後の遊説で「今回の大統領選挙は内乱克服に向けた選挙」と訴え、大統領になれば、その勢力を撲滅すると主張していた。彼は過去に「権力は残忍なものだ」としていたことから、文在寅前大統領が、朴槿恵大統領弾劾後、「積弊精算」のスローガンで保守派を徹底的に弾圧したように、保守派弾圧に乗り出すと思われていたが、予想通りの展開となっている。
国会と行政府を掌握した新大統領李在明は、三権分立の最後の砦である司法の掌握にすぐさま乗り出し「独裁体制」確立に入った。被告人のままでは国内政治ばかりか外交にも大きく影響するためだ。
二審での公職選挙法無罪判決を破棄し、高裁に有罪趣旨の差し戻しを行った大法院(最高裁)判決に不満を示し、「司法府は民主主義と人権の最後のとりでだ。しかし、われわれに銃口を向けて乱射するなら、正さなければならない」と叫び、大法院院長の聴聞会推進を指示するなど公然と司法支配を表明していた李在明大統領だが、司法掌握のために、大法院判事を大幅に増やし(14人→30人)、民間人の任官まで可能にする動きに出た。
この動きに対して、朝鮮日報は社説で、2013年に死去したチャベス前大統領が最高裁判事を20人から32人に増員し、司法を掌握したベネズエラの例を紹介。共に民主党の動きに対し「ベネズエラ並みの国になることを望むのか」と問いただした。
また彼に関する5つの裁判を凍結する「刑事訴訟法改正法案」を、速やかに国会で可決させようとしている。
韓国大統領は在任中、内乱・外患罪の例外を除いて起訴の対象にならない「不訴追特権(憲法84条)」を有するが、韓国憲法は、被告人大統領の出現を想定していなかったために、免責を起訴の時点までとするのか、裁判進行中も含むのかについて詳細に規定していないからだ。
そればかりか、共に民主党は、保守勢力を根絶やしにするための、3つの特別検察法を成立させた。
■保守弾圧の特別検察官任命法国会通過
韓国与党・共に民主党は、6月5日の国会本会議で、野党の時から制定を目指してきた「内乱特別検察官任命法案」「チェ上兵(上等兵)特別検察官任命法案」「金建希(キム・ゴンヒ)特別検察官任命法案」を可決・成立させた。李在明(イ・ジェミョン)大統領はこれらの法案を直ちに交付し、特別検察官候補者を任命する意向だという。
三つの特別検察官任命法の捜査対象は、いずれも前政権の関係者だ。「内乱特別検察官任命法」は非常戒厳令と関連する11の犯罪疑惑が捜査対象で、「金建希特別検察官任命法」は尹錫悦前大統領夫人の金建希氏による株価操作疑惑やブランドバッグ受領疑惑など16の容疑が捜査対象だ。また「チェ上兵特別検察官任命法」はチェ上兵死亡の経緯と政府による捜査妨害疑惑を調べるものだ。
三つの特別検察官任命法により任命される検事の人数は合計でなんと120人に達する。捜査期間も李在明政権の初期6カ月にわたり続く。検事が120人に達するというのは、新たに検察庁を設置することと同じだと言える。既存の検察庁には任せられないということだ。
朴槿恵元大統領弾劾時をはるかに上回る捜査規模だ。李在明氏は、この特検によって保守勢力を根絶やしにしようとしている。朴槿恵元大統領弾劾当時の朴ヨンス(現在収賄罪で収監されいぇいる)特検でも200人以上が拘束され2000人以上が捜査されたというから、これからの「粛清作業」がどれほど大規模になるかが予測できる。またこの捜査は、結論ありきの捜査となるため、朴槿恵元大統領弾劾当時よりも遥かに厳しい罪名が被せられ、その関連犠牲者も膨れ上がることが予想される。
トップ写真:South Korea Holds Presidential Election
出典:Jeon Heon-Kyun – Pool/Getty Images
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この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長
1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統

