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.国際  投稿日:2025/7/9

金正恩、李在明政権登場で対韓国主導権回復か(下)


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・李在明大統領は、保守勢力を排除しつつ、政権中枢を従北・反米的な人物などで固めている。

・任命された閣僚や長官候補の多くに前科や疑惑があるにもかかわらず、与党は議席数を盾に全員任命を強行しようとしている。

・金正恩は南北関係の主導権を回復する機会をうかがっており、年末の党中央委総会で戦略の全貌が明らかになる可能性がある。

 

 

金正恩に迎合する李在明政権の従北・反米人事

 

金正恩が特に注目しているのは、李在明政権が進めている従北独裁体制確立のための保守壊滅政策だ。この金正恩の求めに応じるかのように、李在明大統領は、前大統領の尹錫悦を「反乱首謀者」と結論づけるための「特検3法」を成立させ、保守壊滅に全力を傾けている。その一方で、大統領府、内閣すべての人事を従北、反米・反日的・前科持ち人物で固めた。

 これまで李在明が任命・指名した李在明政権の陣容は次のようになっている。

 

大統領 李在明北朝鮮地下組織京畿東部連合と密接な関係、前科5犯5つの裁判12の容疑、関係者7人不審死、側近3人収監中。

大統領府 秘書室長=姜勲植(カン・フンシク)、運動圈出身、無免許など前科3犯。   

民情首席秘書官=奉旭(ボン・ウク)。

安保室長=魏聖洛(ウイ・ソンラク、親ロ派、不動産不正蓄財疑惑。

次長=金鉉宗(キム・ヒョンジョン)、反日派、日韓GSOMIA破棄主張。

国家情報院長=李鍾奭(イ・ジョンソク)、従北派)北朝鮮工作員宋斗律の「内在的接近法」による太陽政策立案者、北朝鮮訪問多数。酔いつぶれ失神。ハニートラップにかかった疑惑。交通違反12回。

傾聴統合首席秘書官(新設)=チョン・ソンファン

 

内閣 総理=金民錫(キム・ミンソク)任命済駐韓米文化院突入、贈収賄など前科4犯)

副総理兼教育部長官=李真淑(イ・ジンスク)論文盗作発覚。

外交部長官=趙顕(チョ・ヒョン)、反米自主派、文在寅政権で外交部第1・2次官を務めた。配偶者が、道路用地を持分分割方式で購入し、10億ウォン(約1億1000万円)の差益を手にした。

国防部長官=安圭佰(アン・ギュベク)5・16軍事クーデター後、初の民間出身の国防部長官、「北は敵であり同胞」などと主張。

企画財政部長官=具潤哲(ク・ユンチョル)。

法務部長官=鄭成湖(チョン・ソンホ)大統領に当選したので李在明裁判を取り消しと主張し、法務長官候補に。検察解体も主張。

行政安全部長官=尹昊重(ユン・ホジュン)。

産業通商資源部長官=金正官(キム・ジョングァン)。

統一部長官=鄭東泳(チョン・ドンヨン)親北派、元統一部長官、北朝鮮訪問多数。

雇用労働部長官=金栄訓(キム・ヨンフン)、元全国民主労働組合総連盟委員長。地方所得税5年滞納し遅滞納付。業務妨害や集示法などで前科5犯。

科学技術情報通信部長官=裵慶勲(ペ・ギョンフン)、企業人出身。

中小ベンチャー企業部長官=韓聖淑(ハン・ソンスク)、LG人工知能(AI)研究院長兼任、前ネイバー代表。わいせつ物を流布したとして1000万ウォンの罰金刑。

保健福祉長官=鄭銀敬(チョン・ウンギョン)、夫が江原道平昌郡に農地を保有しており、農地法違反の疑いが浮上している。

女性家族部長官=姜仙祐(カン・ソンウ)、夫がバイオ関連企業の監査によりストックオプションで1万株を得たが、同候補者の国会議員資産申告からは抜け落ちていた。

報勲部長官=権五乙(クォン・オウル)、は数年間にわたり仕事をしていないのに給与を受け取っていたという疑惑。

その他、環境部、海洋水産部の長官にはそれぞれ金星煥(キム・ソンファン)、田載秀(チョン・ジェス)が指名され、尹錫悦前大統領が任命した農林畜産食品部長官には、李在明の政策を支持したため、宋美玲(ソン・ミリョン)が留任となった。

 

これら多くの閣僚候補たちは疑惑だらけなのに、与党「共に民主党」は、従北・反米政権創出のため、議席数に物を言わせて全員任命を目指している。長官候補者のほとんどは疑惑に対して「聴聞会で話す」と釈明を避けている。これらの人事では全羅道出身者が大多数を占められたことなども特徴だ。

 

 

 先代指導者の統一路線を否定し、韓国を敵国と規定してすべての南北交流を遮断した金正恩総書記が、中東情勢急変の中で朝鮮半島における主導権回復を狙っているのは明らかだ。従北・反米的李在明政権とどのように向き合うかは、今後東アジア情勢を展望するうえで注目すべき点といえる。6月下旬の党中央委員会総会で、そうした対応策が打ち出されると思われたが、金正恩の演説内容は公表されなかった。

 とはいえ、ロシアとの同盟強化にオールインし、ロシアからの支援のもとで国内外政策を推し進めている金正恩が、にわかに南北関係を元の形に復元するとは考えにくい面もある。当面は李在明政権を利用する政策立案に専念すると思われるが、その全貌が明らかになるのは、年末の党中央委員会総会ではなかろうか。

 

トップ写真)ロシアのプーチン大統領、北朝鮮を訪問 2024年6月19日 北朝鮮

出典)Photo by Contributor/Getty Images




この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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