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.国際  投稿日:2025/7/25

参院選「毒杯」となった首相の座:誰も引き受けたがらない政権の未来


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2025#28

2025年7月21-27日

【まとめ】

・2025年参院選、自民党・公明党連立は完敗したものの石破氏は続投を表明。

・参政党は幅広い層から票を獲得したが、その外交政策は未知数。

・テヘランでは核合意に関する国際会合が2つ行われるものの、実質的進展は期待できない。

 

注目された参議院選挙が終わった。結果は自民党・公明党連立の予想以上の敗北だった。誰もが議席を減らすとは思っていたが、過半数ギリギリどころか、かなり下回ったのだから完敗である。それでも首相は続投を表明した。自民党内には不満があるはずなのに、殆ど表面化しない。昔なら考えられない「不活性」状態ではないか。

早速米国のコンサルタントの友人からチャット要請が来た。ここはせっかくの機会なので、恥ずかしながら彼とのチャットのやり取りを再録しよう。筆者、政治評論家でもないのに随分偉そうに的外れなことも言っているが、筆者が毎日どんな仕事をしているかご理解いただくのも一考かと思い、敢えて日本語に翻訳の上でご紹介する。

7月20日朝

【宮家】・・・石破氏は7月20日の参議院選挙で敗北が確実視されている!何が起こるかは誰にも分からないが、確実にLDPは敗北し、おそらく大敗を喫するだろう。

【米コンサル】イシバはその後辞任すると思うか?

【宮家】それはまだ分からない。全ては彼がどれだけ敗北するか、そして次期連立政権の用意がどれだけ整っているかにかかっている。沈没する船の船長になりたい人はいないだろう。船がどれだけ早く沈むかは、各党が獲得する議席数次第だ。21日朝東京時間、結果について話し合おう。

7月21日未明

【米コンサル】状況は如何か?

【宮家】自民党と公明党の連立は参院で過半数を失うが、石破氏が辞任する意向を示さなかったため、東京の政治評論家たちは困惑している。

【米コンサル】野党の得票に意外な動きはあるか?結果の集計はいつごろ完了するのか?

【宮家】「日本人第一」をスローガンに掲げる、より民族主義的で保守的な「サンセイ(政治参加)党」が、前回1議席から10議席以上を獲得する可能性がある。サンセイは若年層から高齢者、男性から女性まで幅広い層から票を獲得したが、その外交政策は未知数だ!

【米コンサル】Wow。それは大地震だ。最終結果の発表はいつ頃になるのか?

【宮家】サンセイは自民党から多くの票を奪った。彼らは右派のポピュリストではあるが、私の知る限りは必ずしも欧州のような「極右」ではないと思う!最終結果は数時間後に判明するが、1~2時間で大まかな傾向は見えるだろう!石破氏は辞任を迫られる可能性が高いが、本人は留任を希望している!自民党+公明党は過半数確保に50議席が必要だが、現在32議席しか獲得できていない。石破政権への明確な拒否である。

【米コンサル】Wow.米日関税交渉にどう影響すると思うか?

【宮家】まだ星雲状態だ!8月1日時点で日本の首相が誰になるかすら、誰にも分からない。真の課題は7月31日までに誰が政治的決定権を握れるかだろう。

【米コンサル】それは理にかなっている。

【宮家】自民党は「石破が続投して責任を負う方が、混乱を次の人に押し付けるより良い」と考えるかもしれない。しかし、混乱があまりにも激しく、誰も手を挙げない可能性もある。日本で関税に関するシナリオを書けるのは恐らく官僚だけだろうが、政治的支援がなければ、どの官僚もそんなことをする勇気はないだろう!

【米コンサル】それは何を意味するのか?

【宮家】政治的な庇護がなければ、官僚は良い解決策を提案できないということだ!でも、私はそれほど悲観的ではない。なぜなら、トランプ政権とは3ヶ月間も交渉を続けてきたからだ。

【米コンサル】CDP(立憲民主党)も不調だったようだな。

【宮家】CDPは現状を維持しただけだ。自民党の幹事長は、首相が望むなら幹事長職に留まる可能性があると述べた。なぜなら、トランプ政権との関税交渉の真っ最中に政治的空白や真空状態は許されないからだろう。

【米コンサル】それは理にかなっている。

【宮家】そもそも、今この首相職に就きたい人間は誰かいるのか?!? 私ならやらない。

【米コンサル】毒杯だからな。

7月22日

【米コンサル】現在の状況についてどう思うか?

【宮家】LDPとコーメイの連立が適切なタイミングで適切な決断を下せなくなったのは残念だ!日本の国会はイスラエルのクネセット(国会)のようになりつつあるのかもしれない!日本の政治評論家は、日本が新たな多党連立体制の時代に入ったと言っている。だが、今の日本にそんなことをやっている余裕はない、私は彼らが間違っていることを願うばかりだ。

【米コンサル】イシバはしばらく粘ると思うか?タマキが首相になる可能性が徐々に現実味を帯びてきているようだが・・・。

【宮家】今は何でもあり得るが、もし私がタマキなら、現時点で首相職は受けない。なぜなら、受けてもほぼ確実に失敗し、最終的に自民党を助けるだけだからだ。タマキにとって今は自民党を弱体化させる時であり、再建する時ではない。ただし、確信はないが・・・。

【米コンサル】了解した、どうやら当分混乱が続きそうだな。

さて続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

7月22日 火曜日 フィリピン大統領訪米、ホワイトハウスで首脳会談

チェコ首相訪独、独首相と会談

イラン、中国、ロシア代表が核合意に関し協議(テヘラン)

7月23日 水曜日 仏大統領訪独、独首相と会談

インド首相訪英(2日間)

EU首脳訪日、日EU首脳会談

7月24日 木曜日 EU首脳訪中、中国国家主席と会談

7月25日 金曜日 インド首相モルディブ訪問(2日間)

イラン、英仏独代表と核関連協議開催(テヘラン)

7月26日 土曜日 台湾で野党国民党議員24人のリコール住民投票を実施

最後はガザ・中東情勢だが、今週はテヘランで核合意に関する国際会合が2つ行われるものの、いずれもプロパガンダ的要素が強く、実質的進展は期待できないと思う。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:衆議院選挙総裁記者会見 、東京の自民党本部で記者会見に臨む石破茂首相。首相連立政権が参議院で過半数割れした翌日の記者会見。(2025年7月21日、東京・日本)出典:Philip Fong – Pool/ Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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