大統領罷免後のペルー 政治混乱続く中、「政治の季節」に突入

山崎真二(時事通信社元外信部長)
【まとめ】
・ペルーでは先ごろ、さまざま疑惑が浮上したボルアルテ大統領が国会で罷免。
・後任のヘリ暫定大統領にも疑惑浮上、大規模なデモが起きるなど政情不安続く。
・来年4月に大統領選が予定されているが、大統領候補が多数出馬するとみられ、混戦になる模様。
■支持率2%だった大統領
ペルー国会は先月10日、圧倒的賛成多数でボルアルテ大統領(当時)を「倫理上の職務不適格」を理由に罷免した。これはペルー憲法に基づく措置で、同憲法第113条は大統領が倫理的もしくは身体的に能力に欠けると国会が宣言した場合には罷免されると定めている。ボルアルテ氏は2022年、同じく国会で罷免されたカスティジョ元大統領の後任として副大統領から昇格、ペルー初の女性大統領として注目された。しかし、高級腕時計ロレックスなどの不正取得や鼻の美容整形手術を受けるため公務をおろそかにするなどさまざまな疑惑が持たれ、人気が急落し最近では支持率がわずか2%という世論調査もあった。国会で弾劾の決定的理由になったのは、悪化する治安に何ら有効な手立てを打ち出せなかったことと現地メディアは一様に報じている。ペルーではここ数年、ベネズエラから流入してきた悪名高いギャング組織「トレン・デ・アラグア」などによる犯罪が横行し、ペルー治安当局によれば、今年1月以降で450人以上が殺害されている。
■ 後任の暫定大統領にも疑惑
ボルアルテ氏の後任の大統領にはヘリ国会議長が就任したが、これも憲法に基づく措置。憲法第115条は大統領職の継承順位について1位は第1副大統領、2位は第2副大統領と規定しているが、現在はこの二人の副大統領が不在で、3位の国会議長が後任の大統領となった。ヘリ氏は38歳と大統領としてはペルー史上3番目に若い。弁護士出身で2021年に国会議員となり、今年7月から国会議長を務めていた。任期は来年7月28日のペルー独立記念日に正式に新大統領が就任するまでとされている。任期が短いとはいえ、ヘリ暫定大統領には急増する犯罪にいかに対処し、来年4月12日に予定される大統領選を首尾よく実施できるよう治安改善を図ることが求められる。しかし、ヘリ氏には性的暴行容疑や贈収賄疑惑がささやかれており、早くもZ世代を中心に反発が出ている。ヘリ暫定政権が発足した直後には首都リマでこれら学生、労働者の大規模デモでが発生、多数の死傷者が出た。この事件をめぐって暫定政権の対応に批判の声も上がっており、再びデモが起きる可能性も指摘されている。
■来年の大統領選は混戦-ケイコ氏は4度目の挑戦
政治混乱が続く中でも、ペルー政界は来年の大統領選に向け動きだしている。すでに37の政党が大統領選予備選手続きを届け出ている。今月末から来月初めにかけて各政党が正式の大統領候補を選出する見込みだ。来年4月の大統領選の行方を予想するのはいささか時期尚早だが、40人前後の大統領候補による混戦になるとの見方が有力。現地メディアによれば、アリアガ前リマ市長と故フジモリ元大統領長女ケイコ氏の二人が有力候補になるとみられる。ケイコ氏にとっては大統領選への4度目の挑戦となる。ペルーの有力紙「ペルー21」(電子版)が報じた次期大統領選候補者の支持率調査では「明日、大統領選があるとしたら誰に投票するか」との質問に9%がアリアガ氏、8%がケイコ氏にそれぞれ票を入れると回答した。他の候補予定者はそれ以下。ペルー大統領選は第1回投票で有効投票の過半数を獲得した候補がいなければ上位2者による決選投票が行われる。来年の大統領選は決選投票になる公算が大きいと伝えられる。
トップ写真:エクアドルのダニエル・ノボア大統領就任式に出席するペルーのボルアルテ大統領(当時) 2025年5月24日エクアドル・キト 出典:Franklin Jacome/Getty Images
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この記事を書いた人
山崎真二時事通信社元外信部長
南米特派員(ペルー駐在)、





























