日本オールドメディアの反トランプ錯乱その3 中国経済への過大評価
古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
【まとめ】
・日本のオールドメディアは対中経済を過大評価し、トランプ政権を歪曲している。
・中国経済は「過剰投資」と「脆弱な需要」の深刻な構造的矛盾を抱えている。
・過剰供給モデルは「一帯一路」という経済的帝国主義に近いリスク構造を持つ。
日本のいわゆる「識者」、そしてそのことを流布するオールドメディアがトランプ大統領やトランプ政権の政策をいかにゆがめて伝えてきたか。安全保障から経済、貿易までその錯誤の実態を経済アナリストの武者陵司氏との対談という形で自由に論じてみた。
武者陵司:第1期トランプ政権時のマイク・ポンペオ国務長官は、中国共産党体制を強く批判し、体制変革を示唆していました。
ところが、第2期では、ポンペオ氏は主要ポストから外れ、マルコ・ルビオ氏が任命されました。ルビオ氏は経済的利益を重視するトランプの意向を反映した対中姿勢を見せているとして、アメリカは対中融和に傾くのではないか、という観測が一部から出ています。
リベラル勢力は、アメリカはやがて対中姿勢が融和的になり、そして衰退する帝国であり、中国に覇権が移るという前提に立たなければ、日本は中国と良好な関係を築くべきという論理に結びつけられないのです。
そして、多くのエコノミストは、中国の工業力はすでにアメリカを大きく上回っていると指摘します。推計によっては、中国の工業生産はアメリカの約2.5倍に達するとされます。これだけ中国の工業力が拡大した以上、今後中国が沈み、アメリカが再び凌駕する可能性はあるのかと問えば、多くの専門家は「難しい」と答えるでしょう。
つまり、中国の経済的プレゼンスは今後も高水準で続くとの見方が一般的です。そこから、覇権が中国へ移る可能性があるという議論が導かれます。もっとも、これはあくまでビッグピクチャー(大局的)な視点の話です。
古森義久:日本のメディア、特に「日経」などはそういう議論を好みますね。
ただ、中国は本当に中身のある経済大国なのか。
大規模インフラの欠陥や橋の崩落、高速鉄道の大事故の隠蔽疑惑など、経済合理性より政治的都合を優先する体質が指摘されてきました。
また、外交問題に際して、経済的圧力を用いて相手国を屈服させようとする姿勢は、自由貿易の原則を遵守していない。
技術移転や知的財産権の問題も長年指摘されています。米企業の技術流出や模倣品の大量生産問題、さらには映画などコンテンツの海賊版流通など、知財保護をめぐる摩擦が繰り返されてきました。
このような共産党の独裁体制のもとでの経済運営が、自由貿易と資本移動を前提とする国際経済秩序と本当に両立できるのか。他国が安心して経済パートナーとみなせる存在なのかと問えば、あまりに多くの疑問が残ります。
それとルビオ国務長官への言及が武者さんからありましたが、私は上院議員時代からのルビオ氏の政策をみていて、中国に対しては決して融和派ではなくむしろ強硬派だという点を指摘したいです。
武者:そうなんです。多くの経済学者は、中国の工業力のプレゼンスや、名目GDPが毎年5%前後で成長していることを前提に議論しています。購買力平価で見れば、中国の経済規模はすでにアメリカを上回っているという指摘もあります。表面的にはそのように見えるわけです。
そのため、「中国の強さはもはや覆らない」という前提で議論が進められている。しかし実際には、中国経済は深刻な矛盾を抱えています。
端的に言えば、過剰投資型の経済です。GDPに占める投資の割合が40%を超える状態が、20年以上続いている。アメリカは約20%、日本でも26%程度です。これほど高い投資比率を長期間維持した国は、中国以外にほとんどありません。
投資を続ければ、橋やインフラ、住宅が大量に建設されます。その結果として巨大な工業力が形成された。それが現在の中国です。
しかし、これほどの供給力を持ちながら、国内需要は極めて脆弱です。GDPに占める個人消費の割合は4割にも届きません。主要国の中で、これほど消費比率が低い国はほとんどありません。つまり、中国は「巨大な供給力」と「脆弱な需要」という極端なアンバランスを抱えた経済なのです。
この過剰な供給力を維持するためには、国外に輸出するしかない。売れなければ融資をつけてでも売る。貸付資金が回収できなければ、利権やインフラの運営権を得る。そうしたモデルが形成されています。これが、いわゆる「一帯一路」の実態でもあります。
中国と経済的に密接になるということは、中国から資金を借り、中国製品を輸入し、一時的には景気が上向いたとしても、最終的にはインフラやその関連制度が徐々に中国の影響下に入る可能性があります。それを相手国が長期的に容認できるかといえば、難しいのは当然です。
実際、ベネズエラやイランなどでは、中国が石油を大量に購入し、その対価として中国製品を供給し、融資を行うという循環が形成されています。経済的に脆弱な国が増えるほど、中国との一対一の依存関係が広がり、中国の影響圏が拡大します。この構造は、経済的帝国主義に近いのです。
もしこのモデルが持続するなら、中国は植民地的影響圏を拡大する覇権国家へと向かいます。それが失敗すれば、過剰投資の反動が顕在化し、経済破綻に向かう可能性もあります。さらに国内では高度な監視体制が敷かれ、政治的にも閉鎖的な体制が続いています。思想面・体制面・経済面のいずれにおいてもリスクを抱えた国であることは否めません。
こうした構造的問題を捨象し、GDP規模や工業力だけを見て「中国がアメリカを凌駕する」と結論づけるのは、あまりに表層的です。
中国がここまで拡大した背景には、WTO加盟後、先進国が市場を開放し、技術移転や知的財産権の問題を十分に是正しないまま統合を進めた経緯があります。世界経済の制度的な歪みを活用して成長した側面もあるでしょう。
もしその環境が変化すれば、現在の成長モデルは持続困難になる要素を多く抱えています。
その意味では、対中認識においてトランプ氏と高市氏はある程度一致していると言えます。高市氏はもともと中国を「極めて危険な国だ」だと明確に認識しており、トランプも同様の見方をしています。
(その4へつづく。全5回)
#この記事は月刊雑誌のWILLの2026年4月号に掲載された武者陵司氏と古森義久氏の対談記事の転載です。
トップ写真:重慶港の果源オペレーションエリアに積み上げられている物流会社の輸送コンテナ 中国・重慶市、2025年7月20日




























