日本オールドメディアの反トランプ錯乱その1 日本経済新聞の共産主義者礼賛
古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
【まとめ】
・トランプ大統領が推し進める高関税政策について〝警鐘〟を鳴らしていた学者やエコノミストの予測は外れ続けている。
・トランプ関税はきわめて合理的な政策である。
・現在注目すべきは、アメリカの貿易赤字が急減している点。
日本のいわゆる「識者」、そしてその言を流布するオールドメディアがトランプ大統領やトランプ政権の政策をいかにゆがめて伝えてきたか。安全保障から経済、貿易までその錯誤の実態を経済アナリストの武者陵司氏との対談という形で自由に論じてみた。
- 対中高関税
――(司会)日本の大多数の識者や専門家は、トランプ大統領が推し進める高関税政策によってアメリカ経済が大不況に陥る、インフレを招く、成長が停止する、失業が増加する、株価は大暴落する……などといった見解を述べています。
古森義久: しかし現在、起きているのはその逆です。
「日経新聞」(2月3日付)は「トランプ氏、独りヤルタの闇」との見出しで、「世界史上、重大な出来事と人物は二度、姿を現す。一回目は大きな悲劇として、二回目はみじめな喜劇として――」というカール・マルクスの有名な言葉を持ち出し、トランプに当てはめています。
「トランプは昨年1月にホワイトハウスに戻って以来、戦後秩序を揺さぶり、壊し続けている」
「世界を相手に関税攻撃を浴びせ、戦後の安定を支えてきた大西洋同盟も風前のともしびだ」
資本主義の走狗のような日本経済新聞の記者が百数十年前にその資本主義を全面否定した共産主義者の言葉を金言のように扱い、同盟国のアメリカの大統領に当てはめてけなす。なにか病的なトランプ叩きを感じます。トランプ氏は共産主義には一貫して反対してきました。
武者陵司:まったくもって的外れ。トランプ関税は、きわめて合理的な政策です。
現在、世界の工業生産の約4割を中国が占めています。鉄鋼では世界シェアの約52%を誇る一方、アメリカは4%程度にすぎません。つまり、中国の鉄鋼生産能力はアメリカの約10倍です。造船に至っては、アメリカの100倍以上の生産能力を持ちます。スマートフォンの生産もほぼ中国に集中し、太陽光パネルも世界シェアの約8割が中国製です。この国際的な分業構造をいかに是正するかが問題です。
通常であれば、中国の人民元が割安であることを背景に、1985年のプラザ合意のように、購買力平価(PPP)の水準まで通貨価値を引き上げさせる方法がとられます。現在は「1ドル=7元」前後ですが、購買力平価ベースではそれより大幅に元高となる水準、たとえば「1ドル=4元」程度ともいわれています。そこまで人民元が上昇すれば、中国の価格競争力は弱まり、貿易黒字は縮小するはずです。
しかし、人民元を倍近く切り上げることは「虎の尾を踏む」ようなもの。中国に巨大な金融パワーを与え、その資金によって影響力をさらに拡大させる可能性があります。したがって、強引な通貨高要求は、現実的ではありません。
では、通貨政策を用いずに中国の異常なプレゼンス(存在感)をどう抑えるのか。結論としては、関税しかないということになります。1930年代の関税引き上げ競争が大恐慌を招いたように、各国が報復関税をかけ合い、国際貿易が縮小し、世界経済が混乱するのではないか、という議論があります。
しかし、この反論は現状の国際貿易構造を無視しています。
アメリカは巨大な輸入国であり、他国がアメリカに輸出する構図です。アメリカが輸入に関税を課したとしても、他国が対抗的にアメリカからの輸入に関税をかける構造にはなっていません。つまり、関税引き上げ競争によって国際通商が大幅に縮小する事態は起こりにくい。
むしろ、アメリカが世界最大の輸入国である以上、アメリカの景気が悪化すれば他国の輸出は減少しますが、アメリカの景気が堅調であれば輸出は維持されます。したがって「高関税が大恐慌を招く」という教科書的な議論は、現実の状況とは異なります。
「関税を引き上げれば消費者物価が上昇し、インフレになる」という理論についても反論したい。
アメリカの消費支出に占める輸入品の割合は約19%。仮にその19%が20%値上がりしたとしても、全体への影響は約4%程度にとどまります。しかも、それは一時的な価格上昇にすぎず、持続的なインフレにつながるとは限りません。したがって、物価への影響は限定的だと考えられます。
古森:バイデン政権時代のインフレ率は8~9%に達していました。それがトランプ政権に移行してから低下し、関税が実施された後も3%程度にとどまっています。日本のいわゆる識者や専門家はこの簡明な事実を受け入れないようです。
武者:そもそも、これまでの物価上昇の主因は別にあります。
一つは、ウクライナ戦争によるエネルギー価格の高騰。もう一つは、サプライチェーンの混乱による中国からの輸入価格の上昇です。
これらの要因が重なり、一時はアメリカのインフレ率は9%まで上昇しました。しかし、これらの要因はすでに収束し、現在のインフレ率は3%程度まで低下しています。
そう考えれば、関税引き上げによる物価上昇圧力は、過去のエネルギー高騰やサプライチェーン混乱と比べればはるかに小さく、その影響も一過性にとどまる可能性が高い。したがって、十分に吸収可能だと言えるでしょう。
現在注目すべきは、アメリカの貿易赤字が急減している点です。
関税引き上げ前の2025年4月時点では、月間の貿易赤字は約1300億ドルでした。それが10月には約300億ドルまで縮小しています。つまり、関税引き上げの効果として対米輸出が減少しているのです。
アメリカの赤字が縮小すれば、その分、国内生産や雇用が増え、輸入代替が進む可能性があります。また、資金流出が減ることで、金利低下圧力が働くという見方もできます。
高関税について〝警鐘〟を鳴らしていたとされる学者やエコノミストの予測は外れ続けているわけですが、反省をしている様子は見受けられません。
(その2につづく。)
#この記事は月刊雑誌 WILLの2026年4月号に掲載された武者陵司氏と古森義久氏の対談記事の転載です。
トップ写真: 東京、日本 10月28日:トランプ米大統領、東京で日本のビジネスリーダーと会談(左から)ジョージ・グラス駐日米国大使、村田製作所の中島則夫社長、ドナルド・トランプ米大統領、ハワード・ラトニック商務長官
出典:Andrew Harnik/Getty Images
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

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