アメリカも中国の日本の古屋議員制裁に反対
古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
■本稿のポイント
・中国政府は2026年3月30日、自民党の古屋圭司衆議院議員に対し、台湾との交流を理由に入国禁止などの制裁を発動した。
・ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)はこの制裁を批判し、高市政権への中国圧力に対して米国が日本支持を明確にすべきと主張した。
・一方、米国はOFACの制裁でウイグル弾圧に関与した中国政府当局者を米国への入国禁止・資産凍結の対象としており、相互的な対抗措置が続いている。
中国政府は2026年3月、自民党の古屋圭司衆議院議員に対し、台湾交流を理由とした制裁を発動しました。本記事では、国際政治の最前線を長年取材してきたジャーナリスト・古森義久氏が、高市政権への圧力を強める中国の意図と、それに対し「日本支持」を明言した米国の動向を鋭く分析します。(Japan In-depth編集部)
■中国が古屋議員に制裁——高市政権への圧力の新局面
中国政府が自民党の古屋圭司衆議院議員に「入国禁止」の措置をとったことに対してアメリカの大手紙が真正面から反対する趣旨の社説を掲げた。同社説はトランプ大統領が中国訪問の際にはあえて日本に立ち寄り、日中の衝突では日本側を全面的に支援する姿勢を明示すべきだとも主張した。
アメリカ側では中国政府から入国禁止を宣言された連邦議会の議員や中国研究専門家もすでに多数おり、この種の中国の措置には一貫して反対している。しかも日本とは異なり、中国側で国内の人権弾圧などに関与した共産党政権幹部にはアメリカへの入国禁止という厳しい措置をとっている。
■WSJが社説で「日本支持」を明示——トランプ訪中前の対日連帯を提言
アメリカの新聞界でも最大部数を誇る大手紙ウォールストリート・ジャーナルは4月1日付の社説で「中国が日本を懲罰し続ける」と題して、中国政府の今回の自民党の古屋圭司議員への措置に対する反対を述べた。同紙はアメリカの主要新聞の中でも、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストのように民主党リベラル支持ではなく、どちらかと言えば保守志向だが、トランプ政権への批判も時には鋭く展開する。いわば中立に近いこのウォールストリート・ジャーナルが日中対立で日本支持の立場を明示したことはアメリカ世論の反映としても注視に値する。
同社説はまず古屋圭司議員を日本の政界でも重要な役割を果たし、いまの高市早苗首相にとっても有力な側近だと位置付けた上で、中国政府が台湾訪問から帰ったばかりの古屋氏を中国への入国禁止とした制裁は高市政権に対する威圧的な措置の1つだと特徴付けていた。その上で同社説は以下の骨子を述べていた。
▽この措置は昨年秋に高市首相が台湾有事への日本の安全保障の意味を述べたことを気に入らないとする中国政府の反発の一部で、高市政権の台湾問題への政策を変えさせようという意図の押しつけの一貫である。
▽中国政府は最初は高市首相への威嚇的な悪口雑言を浴びせたが、同首相が動じないとみると、今度は中国人観光客の日本訪問への圧力、さらにはレアアースなどの戦略物資の日本への輸出の規制案などを実行した。
▽古屋議員への制裁はその対日攻撃の新たな局面を示すとも言え、今回は日本の自衛隊員の在日中国大使館への侵入と合わせて、「日本の軍国主義復活」とも非難しているが、自衛隊員の行動はまったく単独とみられている。
▽中国のこうした行動に対して高市首相は毅然とした態度をとっている。また古屋議員も「私は中国を訪問する予定はないから、入国禁止も気にはならない」と述べている。しかし中国のこうした言動は日本だけでなく地域全体への主要な脅威になりつつある。
以上のように状況を説明した同社説は「それでもなお現状の日本にとっては同盟国や友好国からの支援が有益となろう」と述べて、以下のような提案を示していた。
▽日本の経済はなお弱体な部分も多く、今回のアメリカのイラン攻撃で石油の高騰もあり、アメリカはトランプ関税の一部を緩和して、日本の対米輸出を振興する措置を検討すべきだ。
▽トランプ大統領は予定された中国訪問の際にはまず日本に立ち寄り、アメリカが支援するのはあくまで同盟国の日本だという基本姿勢を明示すべきだ。
ウォールストリート・ジャーナルの社説は以上の趣旨を述べ、中国と日本との対立では無条件に日本を支持すべきだとする基本姿勢を見せていた。
■米国も「中国入国禁止」の先例多数——議会議員からシンクタンクまで
しかしその背後にはアメリカ側では2023年の時点で下院外交委員長だったマイク・マコール議員(共和党)や下院人権委員会のベテランのクリス・スミス議員(同)が中国への入国禁止という措置を受けていた。マコール議員は台湾との絆が強すぎるという理由、スミス議員は中国政府の自国内での人権弾圧を追及したという理由が示唆されていた。
民間でもワシントンの主要研究機関のハドソン研究所も2023年頃には、そのすべての研究員が中国への入国禁止という措置を受けた。この時はハドソン研究所の代表として元下院議長のニュート・ギングリッチ氏が台湾を訪問し、中国政府が主張する「一つの中国」の原則を批判したという理由だった。だからアメリカ国では官民を通じて、中国からの入国禁止という措置は珍しくないわけだ。
■米国も中国当局者を入国禁止に——OFACによる対中制裁の構図
一方、アメリカ側も議会の提唱で政府が中国側の特定人物をアメリカへの入国禁止にするという措置をとってきた。代表的なのは中国共産党新疆ウイグル自治区委員会書記を務めた陳全国氏で、ウイグル人の組織的な弾圧の責任者としてアメリカへの入国禁止とアメリカ国内の所有資産の凍結という措置を受けた。ただし陳氏は中国共産党内部ではその後も昇進し、現在は党中央政治局員という地位にある。
#この記事は日本戦略研究フォーラムのサイトに掲載された古森義久氏の寄稿の転載です。
■FAQ
Q1. 中国はなぜ古屋圭司議員に制裁を科したのか? A. 古屋議員が日台議員懇談会の会長として繰り返し台湾を訪問し、直近では2026年3月に頼清徳総統と会談したことが主な理由とされる。中国外務省は「台湾独立分裂勢力との結託」「一つの中国原則の侵害」と主張している。
Q2. 制裁の具体的な内容は何か? A. 中国(香港・マカオを含む)への入国禁止、中国国内の個人・組織との取引・交流の禁止が含まれる。古屋氏自身は数十年間中国を訪問しておらず、中国に個人資産もないとして「実質的な影響はない」との認識を示している。
Q3. ウォールストリート・ジャーナルはなぜ日本支持の社説を掲載したのか? A. 同紙はアメリカの重要な同盟国である日本に対する中国の圧力を、地域全体の安定に対する脅威とみなしている。また、米国自身も議会議員やシンクタンクが中国から同種の制裁を受けてきた経緯があり、この問題に対する感度が高い。
Q4. アメリカの議員もこうした中国の制裁を受けたことがあるのか? A. ある。マイク・マコール下院外交委員長(当時)は2023年4月の台湾訪問後に制裁を受け、「名誉の証だ」と応じた。クリス・スミス下院議員は2020年7月、ウイグル人権問題への取り組みを理由に制裁を受けた。
Q5. 日本政府はこの制裁にどう対応したのか? A. 官房副長官の尾崎正直氏が記者会見で「断じて受け入れられない、極めて遺憾」と表明し、「国会議員の表現の自由は民主主義の根幹であり尊重されなければならない」として中国に即時撤回を求めた。
■シリーズ紹介
本稿は古森義久氏による「内外透視」シリーズの一編です。
トップ写真:2026年2月8日、東京、日本 – 総選挙当日。鈴木俊一幹事長(左)、高市早苗首相(中)、古屋圭司選挙対策本部長(右)
出典:Kim Kyung-Hoon – Pool/Getty Images

















