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.国際  投稿日:2026/3/26

イラン攻撃の中国抑止


執筆:古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

古森義久の内外透視

 

■本稿のポイント

・トランプ政権によるイラン攻撃に対し、中国は長年の反米パートナーを直接支援できず、世界規模の反米勢力内での中国への依存と、中国の対外膨張力を揺るがしている。

イラン産石油の90%を購入する中国は、攻撃による輸出激減やホルムズ海峡封鎖で主要エネルギー源確保に重大な被害を受けるうえ、4千億ドルの投資を含む25年間の「戦略的パートナーシップ」が崩壊するリスクにも直面します。

・イランが中国から輸入した弾道ミサイルなどが米国の攻撃への反撃に使用されたが、その軍事的効用が高くないことが判明。中国の武器供給者としての評判にも深刻な有害を及ぼしている。

 

20263月、トランプ政権によるイラン攻撃は中東情勢のみならず、中国のグローバル戦略を根底から揺さぶっている。エネルギー供給網の寸断と軍事協力の限界が露呈する中、ワシントンの専門家たちは「中国への模範的な抑止」と分析する。319日の日米首脳会談を経て、日本が直視すべき「多国間抑止」の冷徹なリアリズムを、産経新聞ワシントン駐在客員特派員、古森義久氏が報告する。

 

イラン攻撃が突きつける中国のエネルギー危機

アメリカのトランプ政権によるイラン攻撃が中国の対外膨張力を弱めるという指摘が、ワシントンでは頻繁に聞かれるようになった。イランに長年、軍事や経済の援助をして、反米の共同姿勢をとってきた中国が危機に追い込まれたイランを支援できず、さらに自国の主要エネルギーとしてきたイラン産の石油の調達も難しくなったというわけだ。

ワシントンでは3月19日に開かれた日米首脳会談も、中国への抑止効果を発揮したとする見方が出ていた。ハドソン研究所の特別研究員で国際戦略研究の重鎮ウォルター・ラッセル・ミード氏や、民主主義防衛財団(FDD)の特別研究員で大統領補佐官や国務、国防総省高官を歴任したルイス・リビー氏らがその種の見解を明らかにしていた。トランプ・高市両首脳の日米同盟の強化の宣言は年来、日米両国の離反を図ってきた中国にはまずマイナスとなり、今後の中国の地域的な膨張にも抑止の効用を発揮する、という見解だった。

露呈した中国製兵器の限界と「パートナー」の実態

この種の見解と同一路線なのは、トランプ政権の今回のイラン攻撃がそもそも中国への深刻な打撃だとする考察である。この考察はワシントンの専門家たちの間で公然と語られるようになったが、その種の見方を総括する、わかりやすい論文が3月16日の大手紙ウォール・ストリート・ジャーナルに掲載された。

「中国は米国・イスラエルの対イラン戦争で失うところが大だ」という見出しのこの論文は、副見出しで「中国は自国への石油供給とイランへの武器供給者とパートナーとしての評判の両方で深刻な有害に悩んでいる」と記していた。筆者は中東研究を主体とするアメリカの研究機関「マディソン政策フォーラム」のジョン・スペンサー代表だった。スペンサー氏はアメリカ陸軍でイラクなど中東各地での軍務経験を積んだ元大佐で、退役後はイランを含む中東情勢の戦略的研究を重ねてきた学者である。

同氏の論文の骨子は以下のようだった。

・中国は近年、イランが輸出する石油の90%ほどを購入し、国連の制裁下のイラン経済の立て直しに寄与してきた。中国が輸入する石油全体の45%はホルムズ海峡を通過する。このためアメリカのイラン攻撃によるイラン石油の輸出激減やホルムズ海峡の封鎖は、中国自体にも重大な被害を及ぼす。

・中国とイランは2021年に25年間有効の「戦略的パートナーシップ」という協定を結び、中国が合計4000億ドルの投資の支援を約束した。この協定は中国側の一帯一路の一部で、イランがその主要拠点となり、中国の資金による空港、鉄道、道路などのインフラを国内に建設し始めた。

「反米連携」の崩壊と日本への示唆

スペンサー氏の論文は以上のように、まず中国とイランとの大規模な経済連携がアメリカのイラン攻撃によって崩され、イラン経済の崩壊とともに中国側のエネルギー源保持への阻害ともなることを指摘していた。同論文はその上で中国とイランとの軍事協力についても言及していた。

・イランは中国から弾道ミサイル数百基や弾頭多数を輸入しており、さらにこれから大量の対艦攻撃巡航ミサイルを購入するところだった。この種の中国起源の各種ミサイルはイラン側で今回の米国への反撃にも多数使われたが、その軍事的効用が高くないことが判明した。

・中国はアメリカが最近攻撃した南米のベネズエラへも近年、軍事、経済の大規模な援助を与えてきた。その背後には反米勢力同士の連携があった。だがベネズエラでもイランでも、中国は米国の攻撃を直接に抑えるような支援はまったく実行しなかった。このことは世界規模の反米勢力の中国への依存を揺るがす。

・トランプ政権は最新の国家安全保障戦略のなかでも、中国のグローバルな反米戦略に対して多国間の働きかけによって抑止を試みるべきだと説いているが、今回のイラン攻撃はまさに中国のグローバルな覇権追求への模範的な抑止となった。

反米国家にとっては、アメリカに攻撃された際の中国の支援は外交用語だけの範囲を出ないという現実が国際的に示されたことにもなる。この種の玉突き的な中国抑止の効果は、今回のトランプ・高市首脳会談でも明示されたわけだった。だから日本にとっては二重、三重の意味でトランプ政権のイラン攻撃に反対する実利的な理由は何もない、ということにもなるだろう。

 

■ 歴史を深く知るためのFAQ:米イラン衝突と中国

Q:なぜ米国のイラン攻撃が中国のダメージになるのですか?

 A:中国はイラン産原油の約90%を買い取っており、エネルギー安全保障の中核を担っているからです。また、ホルムズ海峡の封鎖やイラン経済の崩壊は、中国が進める「一帯一路」戦略に甚大な損失を与えます。

Q:イランが使用した中国製ミサイルの評価はどうなっていますか?

 A:今回の衝突での反撃において、数百基の中国製ミサイルが使用されましたが、その軍事的な有効性は限定的であったと専門家から指摘されており、中国の武器供給者としての信頼性が揺らいでいます。

Q20263月の日米首脳会談の意義は何ですか?

 A:トランプ大統領と高市首相が日米同盟の更なる強化を宣言したことで、中東情勢の緊迫化に乗じた中国の東アジアでの覇権拡大を抑止する強力なメッセージとなりました。

Q:中国とイランの「25年協定」とは何ですか?

 A:2021年に締結された、中国がイランのインフラ等に4,000億ドルを投資する代わりに石油供給を優先的に受ける「戦略的パートナーシップ」です。今回の攻撃で、この巨額投資が瓦解する危機にあります。

Q:ベネズエラ情勢とイラン攻撃の共通点は?

A:いずれも中国が多大な支援を行ってきた反米国家ですが、米国の直接的な軍事行動に対し、中国が有効な救済策を講じられなかったという共通点があります。これにより、反米諸国の中国依存に疑問符が打たれています。

■ シリーズ・アーカイブのご案内

 

アーカイブのご案内 本連載は、ワシントンからの冷徹な分析を届ける古森義久氏による貴重なコラムです。 過去の記事も併せて読むことで、複雑に絡み合う世界情勢の推移を深く理解することができます。

▶︎ [古森義久氏による過去の記事はこちら]

 #この記事は日本戦略研究フォーラムのサイトに掲載された古森義久氏の論文の転載です。

写真)米国・イスラエルの対イラン戦争

出典)Majid Saeedi/Getty Images

 




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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