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.国際  投稿日:2026/5/15

米中首脳会談、「何も起きない」のが成功 ロシアはテレグラム規制で政権内対立 


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー2026#19  2026年5月11-17日

本稿のポイント

  • 米中首脳会談は「大きな成果」よりも「関係悪化を防ぐこと」が最大の目的となっている。
  • ロシアでは「テレグラム」規制をめぐり、FSBと政権内部の政治部門との対立が表面化している。
  • イラン停戦交渉は依然不透明であり、中東情勢の不安定化は長期化する可能性が高い。



2026年5月11〜17日の国際情勢では、米中首脳会談と、ロシア国内で進むインターネット統制強化が大きな焦点となっている。キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問の宮家邦彦氏は、米中双方にとって重要なのは「成果」よりも「衝突回避」だと分析。一方ロシアでは、通信アプリ「テレグラム」規制をめぐり、FSBと政権内部の実務派との亀裂が広がっていると指摘。中東ではイラン停戦交渉の先行きが依然不透明で、軍事衝突再燃への警戒感を示した。

 

米中首脳会談、なぜ「何も起きない」ことが成功なのか 

今週は出張先の九州某所で原稿を書いている。博多で九州「正論」懇話会が開かれるからだが、今週は「世界が注目する」米中首脳会談があった。イラン戦争で一度延期されたが今回は延期しない、しかもイラン戦争の停戦も「見通せない」ため俄然「注目」されたらしい。でも、薮睨みの筆者は「別に?何か?」といった反応だ。

実は先週末も某局からコメントを求められた。「イラン戦争で窮地に立つトランプの訪中で中国が優位に立つ米中首脳会談」的な「報道ぶり」だったので、「何を騒いでいるの?」的な対応をしたら、その後、連絡は来なくなった。米中双方にとって「何事も起きない」ことが「首脳会談の成功」だということ、これが彼らには分かっていないようだ。

ワシントンでも似たようなものらしい。我が研究所の辰巳由紀(在米)主任研究員の今週の「デュポンサークル便り」によれば、CNNなど米国メディアも(理由は若干異なるが)今回の首脳会談への注目は日本ほど高くなかったらしい。そりゃそうだろう、中国にとっては「米国との関係が爆発しないこと」が最も望ましい成果なのだから・・・。この点は今週の産経新聞WorldWatchに詳しく書いたので御一読願いたい。



ロシアのテレグラム規制、政権内で深まる亀裂 

さて次は、吉岡明子主任研究員によるロシア関連コーナーだが、今週は同研究員がまとめた「テレグラム封鎖をめぐり、ロシア政権内部で亀裂――ロシア・メディアより」を以下の通りご紹介する。筆者もロシア国内における「情報戦」の実態の一部を知る上で実に興味深く読んだ。

ちなみに、テレグラムについてAIは、「Telegramは無料クラウド型インスタントメッセージアプリ。テキスト・音声・大容量ファイルを高速送受信でき、匿名性の高さからプライバシーを重視するユーザーや、一部では犯罪の隠れ蓑としても悪用されるリスクが指摘されている」などと説明する。だが、このテレグラムの「秘匿性」なるもの、筆者はあまり評価していないので、念のため。

プーチン大統領の支持率が低下している。政府系全ロシア世論調査センターが4月24日に公表した支持率は65.6%と、2022年2月の侵略開始以来最低を記録した。

背景には戦争長期化や経済の低迷のほか、近年強化されたインターネット規制や通信遮断への国民の不満の高まりがあるとされる。3月にはモスクワを含めたロシア全土でモバイル通信の遮断が数週間続き、5月9日の対独戦勝記念日でも同様の措置が取られた。

ロシアの独立系メディアによれば、規制の背後にはFSB(連邦保安庁)第二局が存在し、「インターネットに秩序を取り戻す」として、ロシアで広く利用される通信アプリ「テレグラム」やVPNへの締め付けを主導しているという。

ただ興味深いのは、こうした強硬策に対し、政権内部からも異論が表面化している点だ。クレムリンの政治担当者らにとって、「テレグラム」は世論操作や選挙動員に欠かせない道具となっているためだ。

ロシアでは通常、権力内部の対立は公に見せない。しかし最近では、体制内野党や地方知事までもが「テレグラム」封鎖に公然と反対を唱え始めた。ロシアでは今年9月には下院選が予定され、こうした政治日程も「テレグラム」を選挙に活用したい勢力と、規制強化を進めたい勢力との対立に拍車をかけているようだ。

今回は、インターネット規制強化と政権内の対立について、ロシアの独立系メディアMeduzaの記事とカーネギー・ロシアユーラシアセンターに掲載された論考をそれぞれ紹介したい。

◆「ナワリヌイ毒殺事件に関与したFSBの部門が、ロシアのインターネットを掌握」4月16日付Meduza(要約)

  • FSB第二局(憲法秩序防衛・テロ対策局)は、反体制派のアレクセイ・ナワリヌイやウラジーミル・カラムルザに対する毒殺未遂など、政治的迫害を担う部門だが、現在この部署がロシアのインターネット統制を主導している。
  • The Bellによると、第二局は遅くとも2025年夏にはインターネットの規制強化を開始し、昨年8月には「ワッツアップ」や「テレグラム」の音声通話制限を主導したとされる。
  • 第二局は「インターネットに秩序を取り戻す」とプーチン大統領に約束し、全面的裁量権を与えられたとされる。実際、あるIT企業幹部によると、FSB第二局が現在あらゆる決定を下しているという。
  • また、今年に入ってからはVPNサービスへの決済停止も命じられたとされ、ロシア当局の統制は通信インフラ全体へ拡大しつつある

    ◆「プラグマティストたちの争い――テレグラム封鎖をめぐるロシア権力内部の亀裂はどこまで進むのか」アンドレイ・ペルツェフ、カーネギー・ロシアユーラシアセンター、3月31日(要約)

    • 「テレグラム」をめぐる権力内部の意見対立が表面化しつつある。
    • 体制内野党、一部の知事、親政権派の政治戦略家らが公然と「テレグラム」擁護に回っている。セルゲイ・キリエンコ第一副長官を中心とする大統領府の政治部門も例外ではない。特に彼らにとって「テレグラム」は、9月の下院選挙の際に有権者を動員するための有用な手段だからである。
    • 一方で、FSBにとっては、「テレグラム」停止は譲れない問題となっている。彼らは、これを抗議行動の手段、不満を持つ市民の通信手段、望ましくない情報が拡散される場と見なしているからだ。
    • 「テレグラム」への規制は、ウクライナとの全面戦争開始後に強化されてきたが、特に2024年3月の「クロクス・シティホール」テロ事件以降はその封鎖も議論されるようになった。さらに、2026年初頭のイランにおける抗議行動とイラン当局によるインターネット遮断も、FSB側の論理にとって追い風になった可能性がある。
    • これまで体制に従順と見なされてきた「新しい人々」党や「公正ロシア」党といった体制内野党のほか、親政権の政治戦略家や政治評論家、知事や軍の一部からも、「テレグラム」封鎖に対する懸念が公然と表明されるようになっている。
    • もっとも、近年影響力を増してきたとはいえ、キリエンコはFSBなどの治安機関との公然たる対立に踏み切る準備はできていないと見られる。
    • また、今回の対立は「自由か統制か」という価値観をめぐるものではなく、あくまで「テレグラム」を政権運営の道具としてどう使うか、という実務的対立に過ぎない点にも注意が必要だ。


    今週の国際政治日程、欧米が注目するイベント 

    続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

    5月12日 火曜日 EU国防相会合(ブラッセル)

     バハマで総選挙

     タイ憲法裁判所、徴兵制の合法性につき判決

    5月14日 木曜日 米大統領訪中、米中首脳会談

     BRICS外相会談(2日間、インド)

     米国務省、イスラエル・レバノン和平会議を開催(2日間)

    5月15日 金曜日 ペルー、大統領選決選投票の候補者決定期限

    5月17日 日曜日 レバノン10日間停戦の三週間延長が期限

     ケープヴェルデで議会選挙

     スペインのアンダルシア自治区で議会選挙

    5月18日 月曜日 G7財務相会合(2日間、パリ)

     ポーランド大統領、イタリア訪問(2日間)



    イラン停戦交渉、「最悪のシナリオ」が現実味 

    最後はガザ・中東情勢だが、イラン戦争の停戦交渉については先週、「まだ完全には楽観的になれない。トランプ氏の発言だけでは『何も動かない』と思っているからだ。・・・ここからが本当の外交交渉であり、合意までに相当時間がかかっても決して驚かない。」などと、またやや楽観的なことを書いてしまった。

    中東では、「想像し得る最も悲観的」な予測が「最もよく当たる」というのが、筆者の経験則だったのに・・・。それにしても、米国の今の交渉手法は全く感心しない。ニューヨークの不動産ビジネスも良いのだが、米大統領には一回、半日ほどかけて、テヘランのスークで、高級ペルシャカーペットを買う交渉でもしてみたら良い。

    イランではありとあらゆる事象が「交渉延長」の理由になる。相手に「これが最後の譲歩」を思わせたところから、本当の最終の「譲歩を迫る」というのが、彼らの鉄則、というか「生きる知恵」なのだから・・・。トランプ氏は「対イラン再本格攻撃」も「一方的対イラン譲歩」もできなくなりつつある。

    仮に米側が妥協して停戦が延長され、一時的にホルムズ海峡が開通したとしても、イランの核開発という火種は燻ぶり続けるだろう。いずれそう遠くない将来、第三次イスラエル米・イラン戦争は再発する、という従来の筆者の見立ては、やはり、今週も、全く変わらない。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

     

     

     

    【よくある質問(FAQ)】

Q1. FSB第二局とは何ですか? A. ロシア連邦保安庁(FSB)の「憲法秩序防衛・テロ対策局」のことで す。憲法体制への脅威とされる活動の摘発やテロ対策を所管する部署で、反体制派の取り締まりも担っています。

Q2. テレグラム(Telegram)とはどのようなアプリですか? A. クラウド型のインスタントメッセージアプリで、テキスト・音声通話・ファイル送受信などの機能を持ちます。ロシアでは官民問わず広く利用されており、政治情報の流通経路としても用いられてきました。

Q3. 「クロクス・シティホール」テロ事件とは何ですか? A. 2024年3月にモスクワ郊外のコンサートホール「クロクス・シティホール」で発生した銃乱射・放火事件です。多数の死傷者を出し、これを契機にロシアでインターネット規制強化の議論が加速しました。

 

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