「核持ち込ませず」見直しの機は熟した 禁止条約参加も検討課題だ
執筆者:樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)
【本稿のポイント】
・「非核3原則」のうち、「持ち込ませず」の見直しをめぐる議論が活発化している。
・小泉防衛相の「タブーなく」という発言が拍車をかけた。
・見直しにあたっては慎重論への配慮、核兵器禁止条約へのオブザーバー参加も検討課題だろう。
「非核3原則」のうち「持ち込ませず」の見直しをめぐる議論が活発化している。小泉防衛相の「タブーなく議論」発言、日本維新の会の見直し提言、そして高市首相の広島平和記念式典での「堅持しており」という現状説明的な表現の変化。長年、外交・安全保障分野を取材してきた元産経新聞論説委員長の樫山幸夫氏は、岡田克也元外相の2010年答弁から16年を経てなお「神棚に祭り上げ」られてきた非核3原則を降ろす時期の到来と、核兵器禁止条約へのオブザーバー参加という日本が取るべき次の一手を読み解く。(Japan In-depth編集部)
◆小泉防衛相「タブーなく議論を」
今年の原爆忌は、喧噪の中で迎えた。
きっかけは小泉防衛相の発言だった。
防衛相は7月中旬に出演したインターネット番組で、「日本にとって難しい課題だが、触れざるを得ないのは核だ。あらゆる政策をタブーなく議論しなければならない」との持論を展開した。
7月下旬には、訪問先のベルギーで、マクロン仏政権の核弾頭増強方針に言及しながら、同様の考えを披歴、「一国だけでは安全保障を確立できない」と力説した。
小泉発言について、木原稔官房長官は、「核兵器など安全保障上の脅威が存在する中で、どのような防衛政策が必要か、国民に説明し、議論していくべきだとの趣旨だ」と、一般論を述べるにとどまった。
時あたかも、政府が年末までに安全保障関連3文書の改訂を検討しており、与党の一角を占める日本維新の会が「持ち込ませず」の見直しを提言している。それだけに、小泉発言は、それを意識した環境整備とも受けとられている。
◆首相あいさつは、見直しの布石?
高市首相がこの問題について8月6日、広島の平和記念式典で何らかの言及をするかが焦点だったが、首相は、「非核3原則を堅持しており、核兵器のない世界の実現に向けた努力を続けていく」と、型通りに答えただけだった。
式典後の記者会見でも「安保3文書」の見直しに関しては、「書きぶりについて予断することは差し控えたい」と言及を避けた。
首相発言について各紙は、歴代首相が「堅持しながら・・」「堅持しつつ・・」という表現で将来とも非核3原則を維持する意向を鮮明にしていたことと比較、「堅持しており」という「現状説明」は、「見直しへの布石ではないか」との見方を伝えている。
◆岡田答弁から16年、いまだ「神棚」に
核問題をめぐってはこのところ、内外で雰囲気の変化が生じている。
昨年暮れ、首相官邸の安全保障担当の高官が「個人的見解」としながらも「自分を守るのは自分だ」として、核武装の必要性に言及、波紋を呼んだ。
同じころ公開された外交文書では、1994年2月に、細川護熙首相(当時)が訪米した際、米議会指導者から、日本の核武装の可能性について聞かれ、細川氏が明確に否定するなどのやり取りが明らかになった。
核保有を公言した官邸高官は高市首相の側近といわれるが、選挙で選ばれた政治家でもない事務方が、臆面もなく重大な問題でメディアに放言すること自体、核論議がすでにタブーではなくなっていることを示している。
民主党政権時代の2010年年3月、岡田克也外相(当時)が国会で、「核の一時寄港を認めなければ日本の安全が守れない事態が発生した場合、その時の政権が命運をかけて判断する」と述べた経緯がある。
自民党の歴代政権もこの答弁を引き継いできたが、日本社会党の流れをくむ民主党の現職閣僚が、「持ち込み」の例外を認めてから、すでに16年。いまだに非核3原則が「神棚に祭り上げ」(兼原信克元内閣官房副長官補、「正論」2026年9号)られたままになっている。
ほこりだらけの「非核3原則」、神棚から降ろす時期にきているというべきだろう。
◆核兵器禁止条約、首相はアメリカ説得を
政府が「持ち込ませず」を見直した場合、それですべて解決ということにはなるまい。ゆるがせにできない問題がいくつか残る。そのひとつが核兵器禁止条約への参加の是非だ。
核兵器の使用、製造、威嚇 などを全面的に禁じた条約には100カ国以上が署名、2021年に発効したが、日本は、2017年の交渉会議初日に出席、反対を表明しただけで、以後はドイツ、イタリアなどとともに参加を見送った。
「核保有国が加盟していない条約は国際社会の分断を強める」「核保有国と非保有国の橋渡しをする」というのが、日本政府の見解だが、はなはだ説得力に欠ける。
前文で「被爆者の受け入れがたい苦悩と被害」に留意している条約に、被爆国・日本が参加していないのは、不自然、奇妙であり、各国の理解も得られまい。
保有国と非保有国の橋渡しにしても、具体的にどのように実行していくのか、不明瞭なままだ。
NATO(北大西洋条約機構)加盟国で、核の傘に守られているオランダは2017年の交渉会議で、「(条約は)NATO加盟国としての義務、責任と合致しない」として反対票を投じたが、会議の席には最後までとどまった。
2022年の締約国会議ではオブザーバーとして復帰、条約に加わる意思がないものの、核廃絶という目標には賛成であることを鮮明にし、対話に参加している。これが誠実な態度というべきだろう。日本も同様の対応を取っていたら、被爆者団体はじめ内外の印象も異なっていたろう。
松井一実広島市長が平和祈念式典で読み上げた平和宣言は、例年同様、条約国会議へのオブザーバー参加を求めている。
高市首相は、平和記念式典で、禁止条約には触れなかった。日本が参加に消極的な理由は、アメリカ強い圧力が大きいが、高市首相がトランプ大統領との良好な関係を誇示するなら、蛮勇をふるってアメリカを説得しすべきだろう。
【よくある質問(FAQ)】
Q1.「非核三原則」とは何か?
A.1967年12月に佐藤栄作首相が国会で表明した、日本の核政策の基本方針。「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」の3つの原則からなる。1971年11月に衆議院本会議で「非核兵器ならびに沖縄米軍基地縮小に関する決議」として決議された。国是として長年扱われてきたが、法律ではなく政策方針である。
Q2.「安全保障関連3文書」とは何か?
A.日本の安全保障政策の基本方針を示す3つの文書、「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の総称。2022年12月に岸田文雄政権下で改訂され、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有明記など戦後の防衛政策を大きく転換した。おおむね10年間を対象とする方針だが、情勢の変化に応じて改訂される。
Q3.核兵器禁止条約(TPNW)とは何か?
A.Treaty on the Prohibition of Nuclear Weaponsの略称。核兵器の開発、実験、製造、保有、使用、使用の威嚇などを全面的に禁じる国際条約。2017年7月に国連で採択され、2021年1月に発効した。2025年時点で90カ国以上が署名、70カ国以上が批准している。米露英仏中の核保有5カ国およびNATO加盟国の多くは参加していない。
Q4.締約国会議のオブザーバー参加とは何を意味するのか?
A.条約の締約国ではないが、締約国会議に議決権を持たない立場で出席することを指す。締約国としての義務を負わず、条約の議論・情報収集・意見表明ができる。核兵器禁止条約の締約国会議では、ドイツ、ノルウェー、オランダ、ベルギー、スウェーデン、フィンランド、オーストラリアなどのNATO・米同盟国がオブザーバー参加している。
Q5.兼原信克氏とはどんな人物か?
A.元外交官・国家安全保障局次長・内閣官房副長官補。1959年生まれ、山口県出身。東京大学法学部卒業後、外務省入省。第2次安倍政権下で国家安全保障局次長・内閣官房副長官補を歴任し、国家安全保障戦略の策定に携わった。退官後は同志社大学特別客員教授などを務め、安全保障政策に関する提言や論考を発信している。本稿では、月刊「正論」2026年9月号への寄稿で「非核3原則が神棚に祭り上げられたまま」との指摘をしたと紹介されている。
(本稿のポイント、リード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)
トップ写真)グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)プレス・カンファレンスで記念写真に納まる小泉進次郎防衛相ら 2026年7月21日、英ロンドン
出典)Photo by Aaron Chown – WPA Pool/Getty Images
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この記事を書いた人
樫山幸夫ジャーナリスト/元産経新聞論説委員長
昭和49年、産経新聞社入社。社会部、政治部などを経てワシントン特派員、同支局長。東京本社、大阪本社編集長、監査役などを歴任。

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